「ほしいな、あなたの、あたま」 首のないわたしが、私の声で呼びかける。 すがりつく。しがみつく。首を締め上げる。 「ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい」 ……いつもそこで目が覚める。
2015-04-07 06:14:23「……どのくらい眠ってた、って?」 「数分くらいね。バケツ修理からしたら誤差みたいなものよ」 「そうなんだ、って」 「……また、あの夢を見てたの?」 「……」 「一度、カウンセリングを受けたら?」 「大丈夫、ろーちゃんは、大丈夫だから」
2015-04-07 06:16:08「ねぇ」 「なに?」 「もし、ろーちゃんが自分の頭を失ったら……バケツで修理って、出来るの?」 「さぁね。私が着任してから、そういう事例はないけど」 「……そうなんだ」 「やめてよ?死者が居ないのがうちの鎮守府の自慢なんだから」
2015-04-07 06:18:33「今度の海域はどこなの?またオリョール?」 「サブ島沖だって」 「今攻略中の海域でちね」 「……なんとかなるよ。うちの提督は『わきまえてる』から」 「………」 「……あれ、今、声がしたって……」 「大丈夫?」 「うん、大丈夫、って」
2015-04-07 06:21:20「爆雷、直上!」 「!!」 <爆発音> 「旗艦を狙ってくるなんて……生意気なのね!」 「次、来るわ!」 「……避けきった、って……!」 カチッ <爆発音>
2015-04-07 06:23:56「新型の敷設機雷か」 「ええ。それが運悪く頸部に命中。旗艦、呂500は大破。艦隊はそのまま帰還しました」 「……大丈夫なのか?」 「なんとも言えませんね……あっ、提督、治療中の彼女は見ないほうがいいかと」 「うっ、おええええええ」 「……だから言ったのに」
2015-04-07 06:26:45「そろたそろた」 「からだがそろた」 「あとはあなたになりかわるだけ」 「あなたのかわりにいきるだけ」 「……やめて」 「なにもちがわない、なにもかわらない」 「わたしはあなた、あなたはわたし」 「あなたはうしなわれた。わたしはすべてをえた」 「やめて!」
2015-04-07 06:29:37「……!」 「気がついたでちか」 「……」 「心配しなくても、ろーちゃんは無事に元通り、でちよ」 「ねぇ、でっち」 「でっちはやめるでち」 「……テセウスの船、って知ってる?」 「知ってるでち」 「ろーちゃんは……あちこち修理されたろーちゃんは、本当にろーちゃんなのかな」
2015-04-07 06:31:31「何を言うでち。ろーちゃんは、ろーちゃんでち」 「……」 「さ、傷が治ったら出撃でち。機雷への対策もできてるでち」 「……うん」
2015-04-07 06:33:31でっちと、わたし。 病室を出て行く2人を、 わたしは、見つめていた。 この世に形のないわたしは、 わたしに形を奪われて。 こうして、彷徨うしか、なかった。 ……もし、わたしが轟沈したら。 もし、わたしが死んだ日には。 わたしは、わたしを取り戻せるだろうか?
2015-04-07 06:35:01