【刀剣乱舞】小ネタまとめログ（耳掻きなど）

蜂須賀さんの色柄選びと歌仙さん

本丸の母の日

本丸の母の日　のちょっと長いつづき

つい先ほどまで賑やかだった厨の上がり框に腰掛けて、歌仙兼定と燭台切光忠がひと息ついていた。
今日は「母の日」だからといって、日頃奥向きの差配を切り回している『お母さん』二人に、短刀達が代表として、花と贈り物を届けにきていたのだった。

歌仙「やれやれ」
燭台切「やれやれだねー」

鶴丸「おいこらそこのお母さん達」
燭台切「あれ、鶴の爺さま。さっきお昼は食べましたよね、忘れちゃったのかな？」
鶴丸「誰が耄碌爺いだ。でも小腹はすいてるから何か食べてやってもいいぞ」
歌仙「残念ながら、お口に合いそうな物はありません」
鶴丸「…二人ともどうして俺に対して、そう渋い顔ばかりするんだ」
歌仙「貴方が先程のように、何やかやと小さい者達を煽動しようとなさるからですよ」
鶴丸「おっと、バレてたか」
燭台切「何故バレないと思うかが不思議なんですが」
鶴丸「ちっ、お見通しなら仕方ない。…それじゃ言わせて貰うが、光忠お前、さっきのりあくしょんは何なんだ。はーとのふりふりえぷろんなんか懸けられたら、もっと嫌がるとか固まるとかしとくもんだろ。そういうなちゅらるなやつじゃなくても、オネエネタとか、ノッといてせるふでツッコミだとか、おいしい芸見せてドッカンドッカン湧かせるくらい、軽くしてのけてこその男伊達だぞ。何だ感涙って。天然か。柱の影で大倶利伽羅もちょっとひいてたぞ」
燭台切「歌仙くん、御老体の言ってることがよく解らないんだけど」
歌仙「安心してくれ、僕にもわからない」

鶴丸（土間から勝手口へ向けて）「おい三日月、こいつら生意気だぞ。きっと反抗期ってやつだ。年長者の威厳を思い知らせてやろう」
三日月（勝手口から顔を出す）「鶴よ、あまり若い者をからこうておると、終いに相手にされなくなるぞ」
歌仙「いらしたのですか、三日月の君」（若干居住まいを正す）
三日月「うん、居た」
歌仙「あの、僕の生地の『茗荷ぼち』という菓子を試作してみたのですが、お味見をお願いできましょうか」
鶴丸「おい歌仙」
三日月「ほう、濃州のものか？」
歌仙「は、田舎菓子ですが。この時季には家々で作っておりました」
燭台切「ちょっとずんだ餅に似てるんだよね」
歌仙「ああ、こちらは空豆だけどね。…空豆の餡を餅に入れ、それを茗荷の葉で包んであります」
三日月「おお、なかなかに旨そうだ。馳走になろう」
鶴丸「　お　れ　に　も　！！」

（画像：茗荷ぼち）

（餅を頬張りつつ）
鶴丸「言っておくけどな、こいつだって短刀たちを煽ってたんだからな」
歌仙・燭台切「…！！（若干むせる）」
三日月「ははは。二人とも、えふろんとやら、似合うていたぞ。あの花もな。何という名だったか」
鶴丸「かーねーしょんだ」
三日月「かねしをんか。鶴が主に無理を言うて、取り寄せて頂いたのだ」
鶴丸「無理なんか言ってやしないさ、主も二人を労うことには賛成してくれたんだ」
三日月「そのえふろんとやらには、神妙な顔をして『本当にこれを？』と仰せだったがな」
燭台切「…え、これ、主もご覧になったんですか」
鶴丸「おう」
燭台切「………（無言で鶴丸の餅と湯飲みを取り上げる）」
鶴丸「おい、俺の餅！まだ残ってる！なんだよ光忠、それ気に入ってたんじゃなかったのか」
燭台切「僕が嬉しかったのは皆の気持ちであって、この余分な装飾の多い悪趣味な前掛けではないので」
三日月「おやおや」
歌仙「…（無言で三日月の餅と茶を取り上げる）」
三日月「歌仙、俺もか？」
歌仙「残念ながら、今回は同罪です、三日月の君」
三日月「じーっ」
歌仙「そんなお顔でご覧になっても、いけません」
三日月「むむ。…仕方がないな。では鶴、老兵は潔く退散するか」
鶴丸「ちぇ、けちんぼどもめ」
三日月「歌仙、菓子は旨かったぞ。また作っておくれ。ではな」
鶴丸「俺の分も忘れるなよ」

（鶴丸と三日月が去ったあと、置いてあった包みに気付いたふたり）
燭台切「…あれ、これって」
歌仙「…『歌仙』『光忠』とあるが」
燭台切「…飾り紐が掛かってるね。あの二人、これを渡しに来たのかな。きっと忘れちゃったんだね、年だから」
歌仙「…そ、そうかも知れないな。開けてみようか」
燭台切「うん。………あ、また前掛けだ」
歌仙「こちらも、そのようだ」
燭台切「こっちはまともだね。うん、かっこいい」
歌仙「……うーーん…。割烹着か…。確かに着物は汚れないけれどね……」
燭台切「鶴の爺さまも、さっさとこれを出していてくれたら、餅くらい最後まで食べさせてあげたのに」
歌仙「…きっと君が最初に渡されたものですごく喜んでいたから、それに水を差すようで、渡しづらかったのじゃないかな」
燭台切「…どうかな」

（本来の贈り物のほうを手にして、しばし二人は黙っていた）
歌仙「…母の日、か…。母、といわれてもね」
燭台切「ま、確かに、あまりピンとはこないけどね。というかかなり無茶だよね」
歌仙「ああ」
燭台切「…でも、嬉しかったな。ありがとうって言って貰えるのは」
歌仙「……そのひらひらした前掛けを無理矢理懸けられても喜べるなんて、君はつくづくいい奴だと思うよ、光忠」
燭台切「歌仙くんだって、嬉しくはなかったかもしれないけど、嫌な顔は見せなかったし振り払いもしなかったじゃないか。前掛けも、髪の花も、小さい子達が出て行くまで取らなかったし」
歌仙「………まあね…。…さて、そろそろ夕餉の仕込みにかかろう」
燭台切「ああ、そうだね」

（そこへまたしても、闖入者が現れる）

和泉守「ちょーーっと待った！！」
歌仙「おや」
加州「さっきはちびっ子どもに花を持たせてやったからねー」
陸奥守「今度はわしらの番ぜよ！」
一期「日頃の感謝を込めまして」
獅子王「俺達で夕飯を作るぜ！！」
宗三「何を作るか、聞いていませんが」
青江「まさに、神のみぞ知る、だね」
燭台切「わあ…それはすごいね…」
大和守「だから、お母さんたちは休んでて」
鯰尾「お茶入れますね！」
骨喰「茶請けにかりんとうを持ってきた」
山伏「カーーッカッカッカッカ！！カリントウ！」
山姥「言ってみたかっただけの呵々大笑ネタはどうかと思う、兄弟」

（それほど広くはない厨は、また人口密集地帯に変わっていた）

堀川「歌仙さん、えーっと、ご不安とは思いますが、今日はどうぞ任せて下さい…最悪の結果だけは回避できるよう全力で勤めますから…」
歌仙「ああ、堀川君がそう言うのなら、任せよう」(腕組みで諦観モード)
燭台切「…あ、くりちゃんも来てくれたんだ？」
大倶利伽羅「………引っ張られてきただけだ…」
燭台切「そっかそっか、それでも嬉しいな」
大倶利伽羅「……おいそこの、そんな持ち方で芋が剥けるか」
蜂須賀「俺にやって出来ない事などないさ」
大倶利伽羅「チッ、貸せ」
同田貫「おい、鶏は何羽シメればいいのか教えてくれよ」
御手杵「あ、串に刺すだけなら俺にもできそうだ」

（……）

歌仙「まったく、かしましいことだ…」
燭台切「楽しそうだね、みんな」
歌仙「…………そうだね、見方によっては」
燭台切「あのさ。きっと、ずっと、僕らには本当にはわからないんだろうけど、『お母さん』って、こんな風に、みんなの笑顔を嬉しいなって思うものなんじゃないかな。…だから、僕らもちょっとは『お母さん』でいいんじゃない？」
歌仙「……かなり独特な考えだけれど、今日のところはそれを採用しておいて、夕餉の時には『僕はお母さんだ』と思って耐える事にしよう…」
燭台切「はは、それ、いいかも…」

本丸の春の一日は、こうして暮れていくのだった。

【了】