座敷鎮守府「珊瑚海敵泊地撃滅作戦始末編」その3

座敷犬さん @undershafterによる艦隊これくしょん~艦これ二次創作作品です。 - 珊瑚海敵泊地撃滅作戦始末編 - Zulu Navy District "Aegis Down" 続きを読む
1
座敷犬 @zash_dog

前回のあらすじ 野村宏太中将が率いる呉の艦隊は、リンガ泊地分遣隊の支援を受け軽度の損害で泊地の攻略に成功する。しかし撤収する突入艦隊を乗せたヘリの内、中将の秘書艦たる大和型二番艦、武蔵の搭乗する機が敵の攻撃を受け墜落。発生した「黒い靄」の中に取り残されてしまう。 #座敷鎮守府

2015-05-16 18:49:08

座敷犬 @zash_dog

11/22 18:49:13 艦娘運用母艦「かがみ」CIC #座敷鎮守府

2015-05-16 18:50:04
座敷犬 @zash_dog

「ワールウィンド1、2、シャトルとの接続完了」「カタパルト内注水完了」 「リニアボルテージ上昇開始」《ウィンド1からオフィサー、LTA(射出予定時刻)の報告を》 「オフィサーよりワールウィンド、LTAは1856」《1856!? おっそーい!》 #座敷鎮守府

2015-05-16 18:51:12
座敷犬 @zash_dog

「ウィンド2、私語は慎んで下さい」《だってだって! 何時もならもっともーっと早く行けるでしょ!?》電力に余裕が無いんだ、島風。もう少しだけ我慢してくれ。《遅いよね? ねぇ天津風!》《ウィンド2》《急がないとコースケが》 《分かってるわよ――だからこそよ、島風》 #座敷鎮守府

2015-05-16 18:52:40
座敷犬 @zash_dog

発令所の扉越しに、何人かの女と男の声が聞こえる。訴えるような声と、静かに制する声。それが止むと同時に扉が開き、中将が戻ってきた。いくら鈍感な僕でも分かる。 ――突入命令を要求されたのですか。 「あぁ」中将が首を縦に振る。 「余りに無謀だと、分かっているだろうに」 #座敷鎮守府

2015-05-16 18:56:13
座敷犬 @zash_dog

条件はあまりに厳しい。山木の機体は敵潜水艦からの対空ミサイルを受け墜落した、 そう考えざるを得ない。バローで救出部隊を送れば同じ穴の狢となる事は明白だ。 水上部隊は?リスクが大きすぎる。敵の戦力は未知数で、靄の中は敵のホームなのだから。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:02:19
座敷犬 @zash_dog

さっき中将に詰め掛けた声の中には精鋭の突入艦隊の艦娘のものも有ったが、 彼女達は損耗しすぎている。戦力としてカウントする事はできない。 増援を待てば事態はより絶望的な物となる。「かがみ」の護衛に就くさぎり型駆逐艦 「しきしま」では敵を「鎮める」事はできない。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:06:03
座敷犬 @zash_dog

「分かっているだろう――この先、どうすべきか」 中将は、諭すように僕に言葉を掛ける。多数の命と、少数の命を天秤に掛けろと。 20世紀末、ソマリアのモガディシュで米軍は一機の墜落機の為、18名の命を散らした。 「仲間を見捨てない」精神は時により多くの犠牲を生む。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:19:36
座敷犬 @zash_dog

「――時間を下さい」 多くはやれんぞ、という言葉を尻目に僕はCICを出た。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:21:46
座敷犬 @zash_dog

武蔵と山木の安否を「確かめる」だけであればいい方法が有る ――我が鎮守府最速の艦娘2人、島風と天津風。元となった駆逐艦はWWIIの艦艇最速のものと、そのプロトタイプ。「猟兵計画」で追加された ハイドロジェットユニットを用いれば巡航速度は40ktを優に越える。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:27:37
座敷犬 @zash_dog

山木のバローの墜落推定座標は廃棄された人工島の近く。生き残った二人ないし一人の判断が正しければ人工島に立て篭もるだろう。駆逐艦娘標準装備のドラゴンフライ・ドローンとマルチスキャンを駆使すれば3分程で生存者を探し当てる事ができる。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:30:26
座敷犬 @zash_dog

だが、どうする。1人なら兎も角、2人(両方が怪我人である可能性は十分以上に有り得る)を背負い、庇って深海棲艦の猛攻から逃れるのはどんな俊足でも無理だ。武蔵は史上最大級の戦艦。海上では実際の艦船に近い質量を持つ艦娘を引っ張るにはそれなりの力が居る。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:31:37
座敷犬 @zash_dog

薄暗い廊下、壁に凭れて頭を抱える。さっきの中将の顔が思い浮かぶ。 軍歴の長い彼には、僕は駄々っ子のように見えたのだろうか。 だが、こうして少数と多数を天秤に掛けていいのか。何か策は有るはずだ。 諦める事が大人なら、僕は駄々っ子のままでいい。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:35:06
座敷犬 @zash_dog

向こう側から足音が聴こえる。 駆け足だ――急いで姿勢を持ち直す、こんな姿を見せる訳にはいかない。 「提督ー!」 明石の声。「提督と木曾さん用の新しいレギュレータが完成しました」 シンクロナイズ・レギュレータ。僕と木曾の奇妙な結魂を制御する為の指輪。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:37:06
座敷犬 @zash_dog

以前の物は焼け石に水程度の効果で、結局クズリュウ戦で負荷に耐えかねて 壊れてしまった。僕は以前の物でも十分だ、と言ったが木曾と明石は聞かなかった。 このタイミングでは意味の無い物だが――話だけは聞こう、手短に頼む。 明石に自分の作った物を説明させると兎に角長い。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:38:52
座敷犬 @zash_dog

「今回のレギュレータは指輪間の通信を安定化させる方向性で作ってみました」 通信の安定化?「通信プロトコルの完全量子暗号化に成功したんです」 つまり「どんなに離れていても、あらゆる遮蔽物を介しても結魂できます」――それだ。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:40:52
座敷犬 @zash_dog

「え?」借りるぞ。「え、ええどうぞ、付けてみて下さい」両方だ、両方。「えっ」 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:42:08
座敷犬 @zash_dog

「……落ち着けよ若造」 段取りを進め、CICに戻り何をするか説明した後の中将の言葉には若干の苛立ちがあった。 自分は冷静です。冷静だからこそこの結論に至った。 「何が起こるかすら分かっていないんだぞ! それを……」 行かなければ分からないままです。それに。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:50:04
座敷犬 @zash_dog

僕は目の前の男に食って掛かる。 「大切な秘書艦でしょう、その薬指に彼女との指輪を嵌める程には」 二人が最も固い絆で結ばれている事は、見ていれば僕にも分かった。 「あなたは言った。『俺は彼女を信じる』と、なら彼女を救えるチャンスも、  どうか信じて下さい」 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:54:10
座敷犬 @zash_dog

僕は駄々っ子に過ぎません。それでも。 「――やってみると良い、最低限の事はしよう」 そしてそれがどんな結果を招くことになるか、確かめるがいい。 そこまでの意味は理解できた。 #座敷鎮守府

2015-05-16 19:56:36
座敷犬 @zash_dog

2基の艦娘抜錨用リニアカタパルトは健気にその力を蓄えつつあった。残り5分。 長い長い5分。モニタに映し出される進捗状況はゆっくりと進み続ける。 我慢弱い島風は駄々を捏ね、落ち着きのある天津風がそれを諭す。 しかし天津風もむず痒そうな顔をしている。 #座敷鎮守府

2015-05-16 20:23:34
座敷犬 @zash_dog

彼女と島風は山木と仲が良い。二人が山木に何かを奢ってもらう光景は日常茶飯事だし、 尖った性格の島風が心を許せる人物は数少ない――僕はその数に入っていない。 だからこそ二人はこの危険な任務を引き受けた。 #座敷鎮守府

2015-05-16 20:28:53