【ビフォア・ザ・ビギニング・オブ・ザ・ナイトメア】
- Jack_heads
- 1687
- 0
- 0
- 0
今からTLに30ツイートほどニンジャスレイヤー( @NJSLYR )の二次創作ssを流します。実際煩くなるかと思いますので、お気に障りましたらミュート等お願いします。また、公式様とは一切関係がございません。
2015-05-17 19:56:54アッパーガイオンにも雨は降る。ネオサイタマに降る重金属酸性雨とは比べ物にならないほど清らかな雨が。それは風情を、奥ゆかしさを持って降る。ゆえに、このキョートで暮らす人々にとっては雨もまた歓迎されるファクターの一つである。しかし。1
2015-05-17 20:05:38生粋のキョート人ではあるものの、彼の雨に対する思いは他のキョート人とは少し違っていた。特別なのだ。彼の店は繁盛しているが、それでも今日のような雨の日には手隙の時間が来る。そんな折、彼は思い出すのだ。約三年半前のあの日を。あの日も雨が降っていた。そして彼は高熱にうなされていた。2
2015-05-17 20:09:30彼の枕元にオバケが立ったのはその時だ。オバケは二言三言言い残し、彼の中に溶けた。彼は急速に回復し、同時に力を得た。他人の中に潜る力を。3
2015-05-17 20:12:00力を理解するのに半年、使いこなすのに一年かかった。それから二年と少し。自らの力を悪用できることはわかっていたが、彼はしなかった。満足しているからだ。キョートのアッパーガイオンに店を構え、順風満帆に生活している。十分だ。4
2015-05-17 20:14:54(実際こんな日が続けばいいよな…)子供じみてはいるが、彼はそう思っている。今の生活。鍼灸師としてやってきた日々。得た力をここに来る人のために使い、快復を喜んでもらう日々が。続くといいなと思うのだ。5
2015-05-17 20:17:58ぼんやりとそんなことを思っていた彼であったが、突然の呼び鈴で我に返った。時計を見る。16時。患者の予約の時間だ。「ヤバイ!」慌てて準備する。「施術台、良し!花瓶、良し!フクスケ、良し!実際完璧だな!」ショウジ戸を開け、客を迎え入れる。6
2015-05-17 20:24:03「ドーモ、エート…ミヤシマ=サン?」「ドーモ、ミヤシマです。今日はヨロシクオネガイシマス」この患者は初診だ。「ハイ。とりあえず傘はこちらへ。中へドーゾ」「ドーモ」彼はミヤシマへ差してきた傘を入れる傘立てを示し、診察室に招き入れた。 7
2015-05-17 20:26:33「本日はどういった症状でご来院を?」「最近疲れが取れないのです。センセイ、どうにかならないでしょうか…」「やってみましょう。横になって楽にしてくださいね」 8
2015-05-17 20:30:10治療が始まった。鍼灸師は患者の身体に鍼を刺してゆく。不思議なことにこれには痛みが伴わない。彼の確かなワザマエの為せる業だ。更に…(イヤーッ!)彼は力を行使し、患者に触れる指先からその「中」に潜った。9
2015-05-17 20:36:15彼は雪の積もる廃テンプルに降り立った。患者の内面世界は砂漠であったり今回のようにテンプルであったりと様々だが、今までの患者は皆内奥の淀みを払うと快癒した。「アイエッ!?なんだこの感覚…?」だが今回はなんらかの感覚が異常を告げている。今までのようにはいかないかもしれない。 11
2015-05-17 20:40:48その感覚がなんなのかはわからなかったが、オバケから授けられた力の一端であることは直感した。「実際イケる。大丈夫だカタオキ。今回も上手くいく。やれる。やってやるぜ!」言い様のない不安が首をもたげる。だが彼は自らの頬を張って気合を入れ、その不安を吹き飛ばした。 12
2015-05-17 20:46:17彼……カタオキは、見える範囲の澱みを払いつつ廃テンプルの奥を目指す。今までのどの患者の澱みも彼が触れると消えた。それは今回の彼も一緒だった。違う点といえば明らかに量が多い点か。手当たり次第に払っていく。量が多くてもやることは同じだ。 13
2015-05-17 20:52:00廃テンプルの外を大方払い終わったカタオキは破れたフスマをくぐり中へエントリーした。中は外よりも澱みの量が多い。ふとした瞬間に見えそうになる患者のプライベートな記憶から極力目をそらしつつ、外寄りの部分から払っていく。確かに量は多いが、根気よくやっていけば払えない量ではない。14
2015-05-17 20:56:29「よしよし実際上手くいっ…アイエッ!?」廃テンプルの内部を大方払い終わった時、カタオキは見た。テンプル最奥。人型をした黒い靄が佇んでいる。悲鳴を上げそうになったが患者に聞かせるのは治療的な側面で良くない。施術者が不安を与えるわけにはいかない。そう考え、悲鳴をなんとか押し殺す。15
2015-05-17 21:03:35先ほどまでの澱みはどうやらこの人型の靄から放たれていたらしい。靄の周りが一番澱みが濃いのだ。これをどうにかせねばならないか。カタオキがそう考えたとき。黒い靄が動いた。こちらを向くように。(アイエッ!?)突然のことに頭の中で悲鳴をあげる。口には出さない。 16
2015-05-17 21:07:54黒い靄は顔に当たる部分の前で手にあたる部位を合わせ、腰にあたる部分を折った。オジギだ!(オジギナンデ!?)戸惑いつつもしかし、カタオキは本能的にオジギを返していた。そう、本能的に。オジギをされて返さないのは礼儀作法に反するが、今カタオキは半ば無意識にオジギしていたのだ。17
2015-05-17 21:14:13自分でもなぜかはわからなかった。少なくとも自分は無意識にオジギをするようなことはなかったはずだ。自分の中に溶けたオバケのせいか?そう考えたとき、ごく自然に思い当たった。この人型の靄は自分の中に溶けたオバケと同類だ。つまり、患者の魂そのものだ。だとしたらどうすることもできない。18
2015-05-17 21:21:28消すこと自体はできるかもしれぬ。だがそれをしたら何が起こるかわからない。最悪の場合、患者が死ぬ可能性すらある。「なあ、アンタ…」その靄に話しかけようとしたところで、カタオキは思いとどまった。話しかけてどうする?どうにもならないだろう。19
2015-05-17 21:24:36(それに、だ)その場で少し俯きながらカタオキは思案した。自分のこの力のことは秘密だ。知られたところで信じてもらえないだろう。ましてや見たことを伝えたところで結果は見えている。そこまで考えたところで顔を上げた彼は先程までと一変した光景を見た。 20
2015-05-17 21:29:53彼の眼前、人型の靄との間に奇怪な格子が壁めいて出現していた。格子の間には無数の目。この格子は触れたら不味い。カタオキはそう直感した。彼は払えるだけの澱みを払って力の行使をやめ、自分の体に戻った(と、いつも彼は表現している)。 21
2015-05-17 21:39:52