『サンタが消えた夜』

ほりえ @sukateku

さて、今夜もせっせとTL汚し。サンタクロースを信じなくなった子どもに読ませたい、この冬一番の珠玉のバラッド。『サンタが消えた夜』

ほりえ @sukateku

イブの夜、サンタさんは空飛ぶソリに乗って大忙し。煙突から家の中に入り、子供達の枕元の靴下の中にソッとプレゼントを入れて、またすぐに次の子の家にと飛び発ちます。ホッと一息つく暇もないほど忙しいのですが、暖かい家の中でぐっすりと幸せそうに眠る子供達の顔を見るのが何よりの楽しみでした。

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その顔を見ると、サンタさんは疲れも寒さも吹き飛び、子供達のために頑張ろうという元気が出てくるのでした。 サンタさんは世界中の子供達を同じくらい大切に思っていました。それがサンタさんの決まりだったのです。

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サンタさんが子供の顔を見ながら袋からプレゼントを出すと、その子が一番欲しいと思うものが出てくるのでした。その袋をかついで、サンタさんはイブの夜空を飛び回り、たくさんの幸せな子供達の顔を眺め、たくさんの幸せをもらいました

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「さて、このおうちで最後かな。」 サンタさんは、最後の子供の家にやってきました。しかし、サンタさんは困ってしまいました。 その家には暖炉がないのか、煙突がありませんでした。「まいったな。煙突がなければ入れない。」

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サンタさんはその家を一回りしてみました。だいぶ古くくたびれた家で、壁には穴が空いていたので、サンタさんはそこから家の中に入りました。 入ってサンタさんは驚きました。家の中は、外と変わらないくらい寒かったのです。

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床は歩くとキシキシと音をたて、サンタさんは家の人にみつからないかと不安になりました。しかし家の中をみてまわっても、大人の姿はありませんでした。一番奥の部屋で小さな女の子が眠っているだけでした。 女の子は硬いベッドの上で薄い毛布にくるまって眠っていました。

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サンタさんはその子の顔を見て、悲しくなりました。子供達の寝顔を見るのがサンタさんの喜びだったはずなのに。サンタさんはとまどいながらも、この子の一番欲しいものをあげようと袋に手をいれました。ですが、不思議なことに一番のプレゼントが出てきません。

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おかしいなと思いながら、仕方なく二番目にほしいものと三番目に欲しいものを出すことにしました。二番のプレゼントは、厚く、柔らかい、とても暖かそうな毛布でした。それは、今まで見てきた子ども達がかけていたのと同じものでした。

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サンタさんはそれを女の子にかけてあげました。三番目のプレゼントは、パンと温かいスープでした。こんがり焼いた七面鳥や大きなケーキではありませんでした。サンタさんはそのパンとスープを、部屋の角の机の上に置きました。袋から出した料理は、時間がたっても冷めたり悪くなったりしないのです。

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サンタさんは、とても悲しい気持ちになりました。 プレゼントは渡しました。後は幸せそうな寝顔を見て、サンタさんの仕事は終わりのはずでした。 しかし、サンタさんはその場から離れられませんでした。この子にあげたプレゼントは、他の子ども達が願わなくても持っているものでした。

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サンタさんは、どうしてもこの子の一番ほしいものをあげたいと思いましたが、何度袋を探してもそれは出てきません。 ふと枕元の靴下を手にとると、中に紙が入っていました。その紙には『かぞくがほしいです』と弱々しい字で書いてありました。

ほりえ @sukateku

その女の子には両親がいないようでした。サンタさんは困りました。いくら不思議な袋でも、人間を出したり死んでしまった人を生き返らせたりはできないのです。サンタさんはもっと悲しくなりました。

ほりえ @sukateku

サンタの決まりでは、全ての子ども達を同じように同じだけ大切に思い、同じだけ幸せをプレゼントしなければなりません。サンタさんは、今まで見てきた子ども達の顔を思い浮かべようとしましたが、頭に浮かぶのは、この女の子の青白い寝顔だけでした。

ほりえ @sukateku

サンタさんはどうしようもなくポロポロと涙を流しました。サンタさんには、この女の子に幸せをプレゼントすることができないと気付いてしまったのです。子どもを幸せにするのがサンタさんの仕事なのに。気付くと夜があけ、女の子が目を覚まして、泣いてるサンタさんを見つけて言いました。

ほりえ @sukateku

「どうして泣いているの？何が悲しいの？大丈夫だよ。だってクリスマスには、誰もが幸せになれるんだから。」 サンタさんは泣き止みました。 「おじちゃん、だれ？もしかして、サンタさん？」 サンタさんは答えました。「いいや、違うんだよ。」

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「なあんだ、違うんだ。」 女の子は少しがっかりした顔でいいました。 「おじちゃんはね、君のお父さんなんだよ。」 元サンタさんはそういいました。 「えっ！本当？お願いがかなっちゃった！」 女の子は幸せそうな顔で笑いました。

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「さあ、起きて着替えて、温かいごはんを食べよう。」 お父さんも、本当に幸せそうな顔で笑いました。 いつの間にか、不思議な袋も、外に置いてあった空飛ぶソリもなくなっていました。サンタさんもサンタさんではなくなってしまいました。

ほりえ @sukateku

でも、世界中のどの子どもよりも大切な子どもができたのです。世界中の子どもにプレゼントとしていたものを合わせた全部よりも、もっと大きく、もっとたくさんの、もっとあたたかいものをあげることができるのです。

ほりえ @sukateku

その翌年から、イブの夜に空飛ぶソリが現れることはなくなりました。ですが、クリスマスの朝に、子ども達の幸せな顔がなくなることはありませんでした。 子ども達にはそれぞれ、その子のことを世界中のどの子どもよりも大切に思っている人が必ずいるのですから。

ほりえ @sukateku

メリークリスマス(笑)

ほりえ @sukateku

自分の書いた話を読み返して泣いてしまった私は世界一おめでたい頭をしていると思いました。