- kj0shua2112
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……「ハイ、これで終わり。今日はセントーにでも行ってゆっくり休んだほうがいいぜ。二、三日は安静にな」「アッハイ、アリガトゴザイマシタ」今日何人目かの施術を終えたエーリアスは額の汗を拭う。 1
2015-05-28 21:45:36彼女の鍼灸術がネオサイタマの片隅でちょっとした評判となるのにそう時間はかからなかった。彼女の元には様々な者が訪れるようになっていた。かつてのシルバーキー鍼灸院に勝るとも劣らない繁盛だった。 2
2015-05-28 21:48:11客は疲労したサラリマンや肉体労働者が殆どだったが、中にはヨタモノとのケンカで傷ついた者、ケジメ後の幻肢痛を訴える者、時には明らかに自我科の受診が必要であろう者も癒しを求めやってきた。 3
2015-05-28 21:49:27稀に彼女と力尽くで前後しようとする者もいたが、そうした場合は部屋に隠されたスイッチを押せば良く、サムエ姿のクローンヤクザがそのヨタモノを室外に連れ出し、それっきり問題は解決した。彼女はニンジャであるがカラテに乏しく、また彼女自身も自ら事を荒立てる事を嫌ったからだ。 4
2015-05-28 21:51:40それでもクローンヤクザが自分を守っているというのは、キョート、そしてネオサイタマでの数々のイクサを経てきた彼女にとって実際奇妙な感覚であった。連れて行かれたヨタモノがどうなったかは、努めて考えないようにした。どうしても駄目な時は、ごめんよ、と心の中で小さく謝った。 5
2015-05-28 21:53:45彼女はかつて鍼灸師として働いていたころのワザマエを活かしたマッサージやシアツで肉体の回復を助け、症状が精神に由来するものであれば患者のニューロンに潜行することで澱みを祓っていく。首尾は上々だ。加えて、まもなく初めての給料日が近づいていた。 6
2015-05-28 21:56:22(((給料が入ったら光熱費も家賃も払える。スシも食える。そうだ、前に見かけたあのスシ屋に行ってみよう。あそこは絶対に美味いはずだ)))エーリアスのニューロンは、モッチリと甘いイカの食感を早くも脳内でリマインド再生していた。彼女は危うく垂れかかったヨダレをサムエの袖で拭った。 7
2015-05-28 21:59:17一方その頃、フジキド・ケンジは、あるマッサージ店の評判を耳にしていた。ありふれた非合法サービス提供店の一つであるが、そこにいる一人のマッサージ師が、どれほどの疲労もたちどころに癒やし、傷を塞ぎ、長患いを回復させる、類まれなる癒しの力を持っているという。 9
2015-05-28 22:02:51暗黒非合法探偵となってまだ日が浅く、取り組んだ事件も数える程であったが、フジキドの胸中には確信めいた物があった。彼は過去のあるイクサを思い出した。その身に宿したニンジャソウルの力によって病気に苦しむ人々を助けていた、あるニンジャとのイクサを。 10
2015-05-28 22:05:37「……調査してみる必要があるな」UNIX前に正座したニンジャスレイヤーは、手帳に記されたマッサージ店の名前と「ニンジャ?」の文字に鉛筆でマルをつけた。ネオサイタマの死神が、動き出した。 11
2015-05-28 22:07:12給料日。勤務を終え皆が事務室前に列を作る。人間味を重視し、給金の受け渡しは直接手で行われるのだ。(((マッサージ師にしちゃ皆結構派手だ……実際オイランだ。ネオサイタマじゃこうなのか?)))エーリアスは疑問を抱くが、奥ゆかしく口には出さない。やがて彼女の番となり、事務室へ入る。13
2015-05-28 22:11:35事務室の中にはマネージャーの他に、見慣れない男が一人奥の椅子に座っていた。白衣めいた格好。だが放つオーラは不穏。男を注視しようとする前に、エーリアスの前に給料袋が突き出された。「ハイ、これが今月分です」「アイ、アイ。ドーモ」彼女はオジギをし、これを受け取る。かなりの金額だ! 14
2015-05-28 22:13:40エーリアスはプロらしく平静を装いながら、袋をテックジャケットにしまった。「それにしても人気ですね、貴方。一ヶ月でこれとは、流石アッパーのプロは違う。」「いやあ、それほどでも」エーリアスは謙遜したが、やはりその表情にはワザマエを褒められ得意気なアトモスフィアがにじみ出る。 15
2015-05-28 22:15:57ふと、改めて隣の男に目をやる。目が合った。エーリアスのニンジャ第六感が警鐘を鳴らす。空気が一気に張り詰める。アドレナリンが放出され、彼女の視界がコトダマ空間とオーバーラップする。ニンジャソウル!「イヤーッ!」「グワーッ!?」CRAAAASH!先に動いたのは男ニンジャだ! 16
2015-05-28 22:17:43一瞬にしてニンジャ装束に着替えた男は、立ち上がると同時に己が座る椅子をエーリアス目掛け投げつけたのだ!カラテの差を悟り、余りに不利な正面からの近距離一対一戦闘を避けるべく逃走を図っていたエーリアスはとっさにガードするが吹っ飛ばされる!かろうじて開けたドアから廊下に転び出る! 17
2015-05-28 22:18:54「「「アイエエエ!ニンジャナンデ!」」」廊下に並ぶスタッフは皆一様にNRSを発症!嘔吐失禁しながら散り散りに外へ逃げ出していく!「アイエエエ!」「イヤーッ!」ニンジャはタタミ針を投擲、混乱に乗じ避難しようとするマネージャーのスーツを壁に縫い付けた!「お前は後でインタビューだ」18
2015-05-28 22:21:42エーリアスは咳き込みながら起き上がる。男ニンジャは向き直り、アイサツした。「ドーモ。サムスティンガーです」「ドーモ。エーリアスです」「やはり思った通り、ニンジャがいたか。どうも最近客層がおかしいと思っていた。病人相手に何をしているやら。何が狙いだ?」サムスティンガーが凄んだ。19
2015-05-28 22:22:22「俺はただ、マネージャーのオッサンに雇われて」「バカも休み休み言え。それともスパイの真似事か」「知らない!本当に、マッサージとか、シアツのアルバイトをしてただけだ!」サムスティンガーはその返事を聞き、鼻で笑い飛ばす。 20
2015-05-28 22:23:00「ニンジャが非ニンジャのクズ共と混じって性的サービス店で文句も言わずアルバイト、か。もっとマシな嘘を付くんだな」「嘘じゃ……オイ、待て。性的サービス店?」「そうだ。でなければ一体何だと思っていたのだ」サムスティンガーは訝しんだ。エーリアスは顔面蒼白となった。「そんな。俺は」 21
2015-05-28 22:23:52「しかもシアツと来た。お前も鍼の心得があるのか?実際驚いた。俺を倒して店を乗っ取るか。その程度のカラテで。イヤーッ!」「グワーッ!」ボディーブローを受けたエーリアスは再び吹き飛び、店の正面の通りまで転がっていった。降りしきる重金属酸性雨が彼女の身体を濡らす。 22
2015-05-28 22:24:29うずくまる彼女の顔を赤い光が照らす。普段彼女が出入りする従業員用裏口には存在しない、淫靡なアトモスフィア漂う赤電子チョウチンの光が。「ごめんよ」サムスティンガーが威圧的に歩み寄る。「今度は命乞いか?ナンセンスの極み!」通行人がNRSを発症しながら散り散りに逃げていく。 23
2015-05-28 22:25:11