マーク・オブ・ザ・デビル #1
「……そうね」「なンか、悪かったな、ナンシー=サン。出しゃばっちゃってさ」こんな時、イチロー・モリタ特派員がいてくれたら、また展開は違っていたかもしれない。だが詮無き事だ。「いいのよ。まだ時間はある」ナンシーは言った。ふもとのオンセンには、調査のために1週間宿を取ってある。 23
2015-08-02 22:34:17エーリアスは再びカメラを回し、辺りを撮影した。「さっき夕方だったと思ったら、あっという間に真っ暗だ。ナンシー=サン、今夜はこれからどうするンだい?もうかなり疲れてきたけど」「相手は夜行性のUMA。時間を無駄にはできない」ナンシーが提案した。「国道にマンゴーを仕掛けましょう」 24
2015-08-02 22:34:39ナンシー特派員は、ジャージーデビルが好むとされるフルーツを国道に仕掛けておびき寄せる事を提案したのだ。「車両転落事故は恐らくUMAによる攻撃。取材バンの中に投光器とフルーツ、それにショットガンを用意してあるわ」ナンシーはハンドヘルドUNIXをタイプし、周辺マップを表示した。 25
2015-08-02 22:39:19「つまりジャージーデビルはバイオ生物って事だよな。儀式とか、そういうのは関係なく」「私は科学を信じるわ」「良かったぜ!心霊とか苦手だし!」「廃村の近くに仕掛けましょう」取材バンに戻るため、ナンシーは農道を歩き始めた。「……ん、ちょっと待ってくれ」エーリアスが呼び止めた。 26
2015-08-02 22:49:42「……どうしたの?」ナンシーが怪訝な顔で歩み寄る。エーリアスはカメラを振り、松林の奥を撮影した。「暗視モードどうやるんだっけ」「手元のボタン、上から2番目」「……ウワッ、凄い見えるな、これ……アッ、まただ」「……何か見えたの?」「いや、音……今、何か聞こえた……叫び声だ!」 27
2015-08-02 22:54:05ナムアミダブツ!エーリアスのニンジャ聴力は、松林の奥から微かな叫び声をキャッチしたのだ!「方向は!?」ナンシー特派員が胸元からデリンジャーを抜きながら問う!「北東……廃村があるって言ってた方向だ!」「GOGOGOGO!」2人は山道を駆ける!果たして何が起こったというのか!? 28
2015-08-02 22:58:21「「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」」エーリアスの担ぐカメラ映像が激しく揺れる!(アイエエエエエ!)(おい、全員いるか……おい!アイエエエエ!)エーリアスの耳には、若い男女の声が聞こえていた!「近づいてる!」「誰かいるの!?私たちは報道特派員よ!」ナンシーが息を切らし叫ぶ! 29
2015-08-02 23:04:32マンゴー農場から数百メートル走り続けた報道特派員たちは、林間の小さな空き地に到達した!「アイエエエエエ!」「助けて!助けてください!」「アイエエエエエエエエ!」いまやその声は、ナンシーの耳にも聞き取れる!マグライトの光が3個、揺れながら近づいてくる!果たして彼らは何者か!? 30
2015-08-02 23:09:26テープが交換され、エーリアスは撮影を再開した。林間の空き地には、3人の無軌道大学生がへたりこみ、息を切らしている。まだ喋れる状態ではない。無言のまま、学生たちが投げ出した大型リュックと、こぼれた中身を撮影した。彼らが持っていたのは撮影機材、馬のマスク、ヒヅメ跡を作る小道具。 32
2015-08-02 23:15:06おお……ナムサン!ジャージーデビル伝説は彼らの捏造だったのか!?「説明して」ナンシーが厳しい口調でリーダー格の青年に問うた。「見覚えがあるわ。あなた達、ジャージーデビル目撃映像を撮った大学生ね?」「「「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……」」」「何から逃げてきたの?言いなさい!」33
2015-08-02 23:22:23「ハァーッ、ハァーッ……カメラ止めてもらって、いいですか」リーダーが顔面蒼白で言った。「ダメよ。私たちにはジャージーデビルの真実を突き止める必要がある」ナンシーは強く言った。「何をしたの?その責任を取る必要があるでしょう?」「……」男は観念し、項垂れ、嘆息して立ち上がった。 34
2015-08-02 23:31:39「スミマセン、僕らは調子に乗って、第2弾を撮影しようとしたんです。その……フェイクドキュメンタリーの……儲るかと思って……それで…」リーダーは言い、同意を求めるように他の二人の顔を見て、頷き合った。「…廃村で……ちょっとした事故があって……友達のサガワ=サンとはぐれて……」 35
2015-08-02 23:36:20「まだ友達はそこにいるのね」「そうだ……サガワ=サンを助けに行かなくちゃ……!」「〈黒の男〉が」女子大生が何か言いかけ、もう一人がそれを制止した。「事故で、僕ら怖くなって、帰ろうとしたら、怪物の影を見たんです!ジャージーデビルだと思って!パニックになって!」リーダーが言った。36
2015-08-02 23:50:09どこか遠い場所で、馬のいななきめいた音が聞こえた。林間の空き地を、しばし静寂が支配した。「……行きましょう」ナンシーはカメラに向かって、緊張した面持ちで言った。カメラを握るエーリアスの手が、じっとりと汗ばんでいた。「私たちはこれから、廃村へ向かいます」 37
2015-08-02 23:57:05特派員一行は国道には戻らず、廃村の方向へそのまま山林を進んだ。道中で、はぐれたというサガワ=サンに合流できる可能性があるからだ。夜の山林は危険である。ゆえに、廃村付近に車を停めたという学生たちも、同行する事になった。移動しながら、ナンシー特派員は鋭いインタビューを続けた。 38
2015-08-03 00:01:41キュルキュルキュルキュル。昼間のヤマ峠の映像。四人の無軌道大学生。「じゃあテスト撮影開始です」「ワースゴーイ!」「セミがうるさいです」「ジャージーデビルでーす!」馬マスクを被った無軌道女子大生がネコネコカワイイジャンプめいて飛んだ。「カワイイ!」「ヤッタ!」「ワースゴーイ!」40
2015-08-03 00:11:14「えー我々は、前回のドキュメンタリーが良く出来たので、ヤマ峠にあるマンゴー農家廃村で2度目のロケを敢行したいと思います」「ワースゴーイ!」「おい、今の所ちゃんと後でカットな」「ハイ」「廃村はまだなの?」「この峠には、ジャージーデビルが出ると言われていてー」キュルキュルキュル 41
2015-08-03 00:16:00「これはアート作品なんだから。真剣にやれよ、真剣に。真剣じゃないとダメなんだよ」リーダーの声。「さっきみたいな事したら、ホント怒るよ」「ハイ」「ハイ」「スミマセン」「本気でカネ稼ごうって思った事ある?」「ハイ」「スミマセン」「気持ち改めてさ、ヒヅメ跡作る所から」キュルキュル 42
2015-08-03 00:23:05激しくブレるカメラ映像。時間が飛び、夕暮れが近い。「今!見えた!絶対見えた!」「ウェイウェイウェイウェイ!」「あっち、あっちの一本松の影」「それってマジで〈黒の男〉じゃないの?」「ちょっとさ、ハンディカメラのほう映して」「何?〈黒の男〉って何?」「ブラックメタリストかな?」 43
2015-08-03 00:31:00