【完結】 #魔法技師のノート Twitter 連載小説

Twitterで連載していた小説『魔法技師のノート』です。全27話。 異世界ファンタジーです。
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結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:1話/俺の名はアサス。社会基盤庁、通称社基庁に勤める魔法技師<エンジニア>だ。今日は非番だったが、ふらっと首都圏に近い、うらぶれたバー『バンドル』にやって来た。「別にうらぶれてねえよ」とはマスターであるシークの言。「ただ不景気で客が少ねえだけだ」と。 #小説

2015-08-03 17:08:22
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第2話/「珍しいじゃねぇか」シークが言う。「たまたま、な」俺はカウンター席に座り、酒を頼んだ。まだ夜が浅いせいか、他に客はいない。小一時間ほどシークと他愛もない話をしていると、一人、二人と客が入ってきた。店内を照らす魔力灯の輝きが、心なしか増した。 #小説

2015-08-03 22:29:22
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第3話/カウンターの奥の席に一人の女性が座った。馴染みの客らしい。シークにカクテルを頼み、ポーチから手の平サイズのディスプレイ端末を取り出した。一般に手帳代わりに使われるデバイスだ。タッチパネルを操作し、表示される図面やテキストに目を通しているようだ。 #小説

2015-08-04 08:41:56
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第4話/女は左手首の時計を二度、確認した。華奢な魔法銀細工の腕時計。たぶん、オーダーメイドだろう。「なあ」俺はシークに話しかける。女の視線を感じたが、そちらは見ない。「アーカイバって知ってるか?」と。女の目が見開く。シークはグラスを拭く手を止めた。 #小説

2015-08-05 08:58:28
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第5話/ 「お伽話のアレだろ、子供でも知ってるぜ」シークは事も無げに言った。「お伽話じゃない方だ」俺の言葉に、シークと女が目を丸くした。「…そっちかよ」知らねえな。シークはかぶりを振った。女は努めて平静を装っている。「あるんだよ、アーカイバは」 #小説

2015-08-06 09:27:43
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第6話/神話に登場するアーカイバとは、宇宙誕生からの森羅万象の歴史が記録されているというものだ。一方、このエッジ・シティでいつしか囁かれるようになった都市伝説がある。世界のどこかに魔法で動く人工の『アーカイバ』があり、人類の歴史が記録されているという。 #小説

2015-08-07 23:03:07
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第7話/ 「そのアーカイバが…」シークの言葉の続きは、突如鳴り響いた轟音と閃光に掻き消された。店全体に振動が走る。幸い割れたグラスはないようだ。「なんだ!?」客の一人が声を上げた。その時カウンター席の女が席を立った。「おい、あんた!」とシークが叫んだ。 #小説

2015-08-09 11:20:01
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第8話/女はシークを無視して店外へ駆け出した。「任せろ」俺は懐中時計型のデバイスを取りだし、リュウズを回した。予め登録した魔法を発動させる自作の装置だ。今回、瞬間移動の魔法を設定しておいた。「お前ら、金払えよな…」シークがそう言ったように聴こえた。 #小説

2015-08-10 10:53:00
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第9話/ 俺は後で知ったんだが、女の名はダリと言った。ダリはバー『バンドル』を出ると北東へと走った。おかしい、とダリは訝った。街に何の変化もなく、騒ぎも起こっていない。まるで先ほどの轟音と閃光が幻であったかのように。目的地に着く前に、彼女は足を止めた。 #小説

2015-08-12 00:19:16
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第10話/「さすがに気づいたか」俺は彼女――ダリに、死角から声を掛けた。ダリはびくっと全身を震わせた。「…あなたは何者?」魔法技師のアサスだ、と答えるとダリは狼狽した。「いつ、気づいたの?」と、ダリ。俺は肩をすくめた。「あんたが魔力炉に細工したときさ」 #小説

2015-08-13 09:28:12
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第11話/ダリは小さなカプセル状の道具を取りだし、俺に向けた。「それ」から青い炎の奔流が飛び出し、俺に襲いかかってきた。<ブレイザー>――違法改造された魔道具だ。俺は時計型デバイスをもう一度操作した。炎は瞬時に消え失せる。「嘘…」ダリは息を呑んだ。 #小説

2015-08-15 02:24:25
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第12話/「<スペルキャンセラー>だ。何をしても無駄だ」俺は言った。「馬鹿な。オーバーテクノロジーよ…」ダリはすぐには信じなかった。なぜなら、今の魔法技術では実現不可能な物だから。「それはそうと」俺は話を本題に戻す。「魔力炉をなぜ暴走させようとした?」 #小説

2015-08-16 21:49:42
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第13話/魔力炉――天然の魔鉱石から魔力エネルギーを抽出するための装置。人々のライフラインだ。もし魔力炉がダリの仕掛け通りに暴走していたとしたら、爆発が起こり、死傷者が出ていただろう。「テロ行為だぞ」ダリは歯噛みした。「そんなこと、わかってる……」 #小説

2015-08-18 00:27:08
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第14話/「わかっているだと?」俺はダリの言葉が気になった。わかっていながら、敢えて人の命を奪いかねない行為を選んだというのか。「お前らは、」ダリは肩を震わせ、叫んだ。「お前ら政府は、ずっと騙しているじゃないか! あのファムル・タウンの事故のことを!」 #小説

2015-08-20 07:22:32
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第15話/ 「ファムルの悪夢、か……」俺はその事故の通称を呟いた。5年前に魔力炉の暴走が招いた爆発事故。やはり彼女の動機はそこから来ていたか。「あの魔力炉は、最初からおかしかった!」ダリは断じた。魔力炉建設の経緯を調べたのだろう。俺は驚かなかった。 #小説

2015-08-22 09:24:34
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第16話/「ファムル・タウンに魔力炉を建てる意味なんかなかった」ダリはそう続けた。彼女は笑っていた。否定されないことで、より確信を強めたのか。「それより」俺はダリの言葉を遮った。「これからどうする気だ? まさか俺が見逃してくれるなんて思ってないよな」 #小説

2015-08-23 18:59:08
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第17話/ダリは一瞬、青ざめた顔を見せたが、すぐさま唇を結び直した。「好きにしろ。……覚悟はできてた」なるほど。「いいのか? 第一級犯罪で、死刑もあり得るぞ」俺は念を押した。ダリは眉をしかめつつ、言った。「どの道、あの日から死んでいるようなものだ……」 #小説

2015-08-24 19:02:31
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第18話/「それならよかった」俺はポケットからある物を取り出してダリに放り投げた。「これは?」小さな<ミスリルチップ>――記憶素子だ。「あんたの欲しい情報はその中だ」「なっ!?」「死ぬ覚悟があるぐらいなら、俺に協力しろ。真実を教えてやるよ。ただ――」 #小説

2015-08-25 23:18:50
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第19話/「――ただ、あれは本当に事故だった」俺は断言した。ダリは<ミスリルチップ>を拾い上げた。信じるか否かは彼女次第だが、たぶんチップの中身を見れば嫌でもわかる。「なぜあなたは、こんな物を……?」ダリの問いに俺は肩を竦めた。「そりゃあ、気づくさ」 #小説

2015-08-27 00:00:22
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第20話/「あれだけ自分の庭を荒らされれば、誰だって気付く」怪訝な顔をするダリに、俺は溜め息をついた。「二か月前にバー『バンドル』から『アーカイバ』に侵入しただろ」「!!」政府が秘蔵する人工の記録装置。俺にはその『アーカイバ』にアクセスする権限はない。 #小説

2015-08-28 11:42:49
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第21話/ だが、俺は『アーカイバ』に流れる魔力を観測することができる。「見つけたのが俺じゃなきゃ、あんたはすぐに捕まってた」「……」ダリは沈黙した。不審な魔力の流れを検知した俺は魔相空間に干渉し、『バンドル』からの魔力を偽の『アーカイバ』に向けた。 #小説

2015-08-29 00:36:58
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第22話/「……だからなの? 肝心の事故の原因はいくら探しても見つからなかった」どうやら彼女は気づいたらしい。「あの事故の情報は『アーカイバ』の中でも特A級の最高機密だ。あれに触ってたら、今頃どうなってたことか」俺はわざとらしく身震いして見せた。 #小説

2015-08-29 00:48:30
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第23話/「そんな情報を、あなたはどうやって……?」彼女の問いに、俺はにやりとした。「企業秘密さ。『アーカイバ』にも載ってないぜ」ぽかんとなるダリ。俺は声を上げて笑った。「とにかく、命は大事にしろよ。安心しな。あんたは一人じゃない」ダリは目を見開いた。 #小説

2015-08-29 21:24:46
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第24話/「どういう意味?」「……俺という仲間がいる」答えると、ダリの眼差しから、少しずつ俺への警戒心が消えているような気がした。「……どこまで知ってるの? 私のこと」俺は苦笑した。「個人情報には触れてないから、警察には黙っといてくれ」彼女は笑った。 #小説

2015-08-29 21:33:10
結城 希@低浮上 @YukiNozomu

#魔法技師のノート:第25話/「マジで『たまたま』だったんだな」翌日、仕事帰りに俺は再びバー『バンドル』を訪れていた。シークの言葉に俺は頷いた。ダリがこの店を『アーカイバ』へのアクセスポイントに選んだのは、偶然に過ぎなかった。「あの爆発はなんだったんだ?」「ああ、あれか」 #小説

2015-08-31 12:44:16