忘却までのエトセトラ2(黄昏町テキスト化)

縛り要素 ・紅羽という無能力異形で1枠使う(異形としてカウントされる) ・今回から魂の増加量1/2 診断のたびにたろりん→たろりん【1】〜【10】と打ち込んで診断(公式ルールではないです) 【CM】前回 http://togetter.com/li/856287
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たろりん(ニンジャ) @tarorininja

@ishimizu08 テキストカラテカの皆さんが「うちの子可愛い!」ってなってるなか、たろりんは「うちの子死ね!」ってなってるのナンデ

2015-08-05 02:04:30
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

夕日に照らされる教室。紅羽の少年はいつか聴いたはずのチャイムの音で意識を浮上させた。「…くぁ」小さく伸びて欠伸。彼は蛇髪の異形を持つ怪物に殺され、蛇髪の異形を得た。鱗。爪。そして蛇髪。他者の異形を取り込み続けた少年は、すっかりその身を変容させていた。

2015-08-05 09:24:16
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

1。青緑色の鱗が体表の幾らかを覆っている。最も酷いのは両腕だが、首や頬にも少ないながら、鱗がこびりついている。 2。滑らかに、かつ冷たい鉱石のように硬質化し、鈍い光沢を放つ指先。変容した爪だ。 3。帽子の下でざわざわと蠢く、無数の銀色の蛇。時折帽子から顔を出し、赤い舌を覗かせる。

2015-08-05 09:32:06
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

彼は身体の変化を自覚しながらも、まだ自分が人間であると信じていた。「これは病気だ。悪い病気をうつされたんだ」ぶつぶつと呟きながら机を揺する。同時に、身体の奥から湧き上がるような獰猛な力を感じていた。黄昏町で最弱の異形であった「紅羽」は、今や鬼にすら比肩する脅威となっていた。

2015-08-05 09:38:20
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

鬼と彼が異なる点がある。鬼は病院にのみ出現するが、彼は黄昏町全域を彷徨き、食欲のままに目につくものを喰らう。慢性的な記憶障害により、自己の罪深さを悔いることもない。だから彼は”いい子”で居続けることができる。”悪いことをした自分”を忘れてしまうからだ。彼は己の良心からも自由だ。

2015-08-05 09:43:33
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

((お腹が減った))蛇髪という強力な異形を取り込んだ紅羽は、更に多くの魂を必要としていた。少しばかりの魂では、身体を維持するには足りない。他の異形の二倍は捕食しなければ、たちまち餓死するに至るだろう。学校を寝ぐらとする人面の竜は、二階の教室に沸いた異質な異形の気配を感じ取った。

2015-08-05 09:56:56
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

人面の竜もかつては自我を持つ怪物の一体だった。今は本能のままに来校者を喰らう黄昏町最悪の怪物だ。その怪物が、久しく感じなかった強力な力を感じ、低く唸った。((今なら”まだ”殺せる))本能がそう告げている。((今殺せ。今だ))人面の竜は身をくねらせて階段を這いずり上がる。

2015-08-05 10:03:09
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

竜の本能は正しい。水死すれば水を克服する力を。爪に殺されれば爪の力を。蛇に殺されれば蛇の力を。未だ紅羽の怪物はその進化の底を見せてはいない。怪物たちが喰い殺し合い魂を奪い合う蠱毒の町は、紅羽という”成長する怪物”を生み出すに至った。竜が二階の廊下に上がる。黄昏に染まる紅羽が居た。

2015-08-05 10:09:12
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

紅羽はぶつぶつと何かを呟いている。「きゃ。……っと。もっと食べなきゃ」その台詞に、竜の本能は底知れぬ恐怖を感じ取った。音もなく紅羽に這いよると、振り向く間も与えず喰らい付いた。そのまま壁を破り、教室内に。窓を破り校庭の空に。竜の舌に痛み。何かに舌が食い千切られた。

2015-08-05 10:15:08
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

喰らい付いた顎に、無数の銀色の蛇が絡みつき、紅い瞳で竜をじっと見ている。そのうちの何本かが口内に潜り込み、竜の口内を荒らし回り、舌を齧り千切っている。竜は顎を離し、紅羽を宙に放り投げた。紅羽が開き、飛ぼうとしてした。その羽は大きくなっている。竜は全力で紅羽の背中に尾を叩きつけた。

2015-08-05 10:19:06
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

紅羽が血を吐きながら吹き飛び、校庭の野球用フェンスに激突し、落下した。ひしゃげへし曲がる緑色のフェンス。竜はその様子を上空から観察する。帽子の少年が立ち上がる。まだ生きている。((殺した。殺したはずだ))この尾の一撃で立ち上がった者など居ない。どんな異形を宿した怪物であってもだ。

2015-08-05 10:22:54
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

紅羽が振り返る。その瞳は蛇のように紅く、縦に長かった。「…お前か」紅羽が袖で血を拭い、竜を見上げた。竜は顎を大きく開き、今度こそ食い殺すべく紅羽めがけ急降下した。その身体をやすやすと引き裂き、胴体が食い破られる。宙に舞う紅羽の上半身が動き、爪で竜の左目をえぐり刺した。

2015-08-05 10:26:08
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

竜は残った右目で紅羽を観た。紅羽は竜の左目を喰っていた。「……次。次は、お前を丸ごと喰い尽くすよ」そう言い残し紅羽は……死んだ?違う。どこかに魂を集め生き返る。怪物を殺すには魂を潰し切らなければならない。またこいつは来る。竜は恐怖を塗り潰すよう、紅羽の死体を念入りに叩き潰した。

2015-08-05 10:29:54
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

黄昏色の町の外れ、ひぐらしと蛙の鳴く畑。収穫されなかった西瓜が、鴉に食い破られ、血のような中身をこぼしている。空間がぐにゃりと歪み、うねうねと生物的な蠢きを見せる。最初に形を成したのは羽だ。歪む空間がばさりと広がる紅い羽に包まれた。それが開くと、そこには少年が立っていた。

2015-08-05 12:40:17
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「……ああ。嫌だな、こんなの」少年は呟いた。彼が何を嫌がっているのかは分からない。彼は、腕の包帯を強く巻き直した。鱗が見えないように。「どうせなら、全部忘れてしまえればいいのに。何故中途半端にしか忘れられないんだろう」お腹が空いた。食べなければ生きていけない。

2015-08-05 12:46:01
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「僕はいい子じゃなかった」少年は腐った西瓜を拾い上げる。力を得たせいか、思考がクリアになってきていた。竜にも若干抗えたことを覚えている。いつまでこの記憶が持つかは分からないけれど。「カラスになりたい。カラスは、西瓜を食べて生きていける。僕はそうじゃない」

2015-08-05 12:49:30
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「僕は人を食べるし、怪物も食べる。他のものが食べられない」少年は確認する。確かに認める。「僕は、変な怪物なんだ」それから、西瓜を両手で挟んで潰した。腐った中身が飛び散った。「西瓜を食べて生きていければよかったのに」醜い鱗の生えた頬を、血のような汁が汚した。彼は泣いていた。

2015-08-05 12:53:16
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「僕は食べられるのが嫌だ。痛いのが嫌だ。死ぬのが嫌だ。人だってそうだ。怪物だってそうだ。みんな怖いんだ。この町ではみんながみんな、お互いを怖がって生きている。みんな生きていたいから、相手を殺すしかないんだ」彼がこのような言葉を口にするのは、実は初めてではない。

2015-08-05 12:56:38
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

彼は失った記憶の中で、何度もこの事実に気がつき、その度に苦しみ、嘆いている。しかしそれも僅かな時間にすぎない。忘却は彼からこうした気付きも奪い去っていく。罪の記憶も意識も奪い去っていく。彼の心には正体不明の被罰欲求と、贖罪の意識だけが残る。「少しでもいいことをしなきゃ」

2015-08-05 12:59:39
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「いい子にならなきゃ」彼は不可能な望みを口にする。人も怪物も喰わなければ生きていけない、死ぬのが怖い、臆病で哀れな恐ろしい怪物のくせに、彼はいい子でありたいと願った。「どうすればいい子になれるの」そして、またフラフラと畑から歩き去っていった。住宅街の方へ。人のいる方へ。

2015-08-05 13:03:57
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

畑の畦道の真ん中に、黄色い逆光に背中側から照らされた二本足の何かが居る。妙にひょろ長いシルエット。獣?人?顔が暗くてよく見えない。少年の腹がぐぅと鳴る。怪物だ。喰ってもいい。だめだ。食べちゃだめだ。可哀想なことなんだ。みんな可哀想なんだ。獣の大きな耳がこちらを向いた。

2015-08-05 13:08:21
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

こちらを「聴きつけた」ようだ。耳をひくつかせながらこちらにヒョコヒョコと歩いてくる。よく見ればなるほど、目がない怪物だ。獣耳。彼の名前だ。決して弱い怪物ではない。蛇髪と同格の怪物だろう。この町の食物連鎖の上位者だ。だが紅羽の敵ではない。紅羽は今や、鬼と同格の怪物と化しているのだ。

2015-08-05 13:12:34
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「ごめんね」紅羽は言う。「僕は生きていたいんだ」獣耳の動きが止まる。ようやく、紅羽の異様さに気付いたのだ。彼に視力があれば、この町にあってなお異常な姿をした怪物を見て逃げ出すことも出来たかもしれない。獣耳は踵を返し、四つん這いになり、駆け去ろうとした。その後ろ足が爪で切断される。

2015-08-05 13:17:26
たろりん(ニンジャ) @tarorininja

「ーーッ!ーーッ!」獣耳が畦道をころがる。血を吹き出し、泥にまみれ痛みにのたうち回る。「ごめんね」紅羽が歩み寄る。「僕も死にたくないんだ」紅羽の腕が勢いよく振り抜かれる。獣耳の頭部が飛び、畑の中に転がった。それは一見すると、西瓜と見分けがつかなかった。

2015-08-05 13:21:12
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