マーク・オブ・ザ・デビル #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがてキノシタは旧家の地下室に籠るようになり、完全にジャージーデビルと化したという。言葉は話せなかったが、マイヨシを確かに兄と認識しており、攻撃することはなかった。また、昼の間はニンジャの姿を取り、森を徘徊した。これが〈黒の男〉である。恐らくは、ジツの力による変身であろう。 21

2015-08-06 00:17:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

怪物が真の姿か、あるいはブラックメタリストに崇拝され始めていたという〈黒の男〉こそが真の姿だったのか……最早解らぬ。「次第に凶暴になってよ、国道で車とか攻撃してるのは解ったんだ。でも俺は結局、何も出来なかった。あの夜までずっと、あいつの好きなフルーツを育て続けてたんだ……」 22

2015-08-06 00:24:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうだったのか」エーリアスは何かを言おうとしたが、うまい言葉が見つからなかった。「なあ、報道特派員さん、俺は七年前に狂っちまったのかな。キノシタはもしかすると七年前のあの日、死んでいたのかもしれない。そしてあの夜、死神が来て全てを終わらせてくれたんだ。ニンジャの死神が」 23

2015-08-06 00:35:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……大丈夫だよ、あンた狂っちゃいないさ。でも、もし、あンたが望むなら、多分、できるかもしれない」エーリアスは少し鼻を啜り、マイヨシの腕に残された悪魔の歯形を指差した。「苦しい記憶とか痛みをさ、うまく取り除いてやることが……。でも、そう簡単じゃない。必要以上に消えちまうかも」24

2015-08-06 00:39:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」マイヨシは腕の古傷を見、しばし思案した。幼い頃、弟と古井戸で遊んだ記憶。マンゴー栽培を始めた頃の記憶。弟が突然ニンジャになり、木人トレーニングを始めた日。ジャージーデビルと化し、叱責する彼に噛み付いた夜の痛み。そして最後の夜、笑みとともに残した言葉。「……いや、いい」25

2015-08-06 00:48:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「本当に?」エーリアスは問い直した。「ああ、いい。俺が忘れたって、ジャージーデビル伝説は消えねえ……そしたら、あいつが本当のジャージーデビルになっちまう、そんな気がするんだ」マイヨシは穏やかな声で言った。暗い秘密を共有した事で、重圧が消えたようだ。二人はマンゴーを食べた。 26

2015-08-06 00:54:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ワケの解らねえ理屈だと思うけどよ」マイヨシは頭を掻いた。「……いや、解るよ、何となくだけど、解る」エーリアスはまた鼻を啜り、マンゴーを食べた。「……その代わり頼む、あんたら報道特派員として、ジャージーデビル伝説に終止符を打ってくれよ」「解った」エーリアスが強く頷いた。 27

2015-08-06 00:58:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブルンブルンブルンブルン……白い取材バンが、松林の間で待つ。車内にはイチロー・モリタと疲れた顔のナンシー・リー。カメラを構えたエーリアスが戻ってきた。後ろには、段ボールを持ったマイヨシもいた。二人は取材バンを降り、オジギした。マイヨシもオジギし、いくらか短く言葉を交わした。 28

2015-08-06 01:07:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブロロロロロロロー。そして取材バンは農道を走り、ヤマ峠の国道をゆっくりと下っていった。もはやこの峠道にジャージーデビルが現れることは二度とないだろう。車内には、マイヨシから渡された段ボールが積まれ、マンゴーの甘い匂いが漂っていた。 29

2015-08-06 01:09:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「結局さ、ヨロシサンのほうはどうだったんだ?」エーリアスが問う。「調べたけど、今の所、関連性はゼロ。私の推論は間違っていた。反省しかないわね」ナンシーが答える。「ジャーナリストとしての基本を見つめ直す、いい機会になったわ。ニンジャスレイヤー=サン、あなたの指摘した通りだった」30

2015-08-06 01:16:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……いや、いい」ハンドルを握るイチロー・モリタ特派員は、峠道をオンセンに向かって緩やかなカーブを切り、小さくかぶりを振った。その口ぶりには、どこか苦々しさがあった。「私もまた、ニンジャではないという決めつけで動いてしまっていた。私が初めから取材に参加していれば……」 31

2015-08-06 01:22:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かのオゴポゴ事件で生まれた溝を埋めるように、二人は互いの過ちを認め、奥ゆかしく謝罪した。少し走り、マンゴーを食べると、ナンシーは活力を取り戻し、ジャージーデビル伝説を殺すための計画を練り始めた。まずは大学生たちに再び会う事となろう。幸い、オンセンにはまだ数日宿が取ってある。 32

2015-08-06 01:26:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスは窓を空け、カメラでヤマ峠を、ガケの遥か下を流れるヤマ川を撮影した。それから後方の松林を撮影し、鼻を啜って笑った。「……なあ、ナンシー=サン。俺さ、この仕事、なンか好きになったよ」彼女の胸と腕には、NSTV報道特派員の特派員証と腕章が、誇らしげに輝いていた。 33

2015-08-06 01:33:37