連載するか分からない連続ツイートSS『水底の竜宮』(二次創作)

#子午線の祀り(平家物語)× #十二国記 という、またも節操の無いクロスオーバー二次に手を染めてみましたまる (木ノ花―とは銘打っているものの、ウチの既刊の主要キャラは出て来ないので、そちら界隈とのクロスオーバーではないと言い張ります) http://togetter.com/li/831981
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ハサマリスト @ThatZ_orz

#木ノ花疾風に咲く番外 晴れた夜空を見上げると、無数の星々をちりばめた真暗な天球が、あなたを中心に広々とドームの様に広がっている。ドームの様な天球の半径は無限に大きく、あなたに見えるどの星までの距離よりも天球の半径は大きい。(木下順二作/戯曲『子午線の祀り』冒頭) #水底の竜宮

2015-08-10 23:04:08
ハサマリスト @ThatZ_orz

「――御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約申し上げる」 新中納言平知盛(たいらのとももり)は、己が足下に叩頭する女がのたまう一語一句を過たずに聞いた。だがその思考は、彼女の不可思議な文言にではなく、状況の掌握に割り振られている。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:06:44
ハサマリスト @ThatZ_orz

木曾義仲(きそよしなか)より逃れて都落ちした平家。当地太宰府に本営を置き、行宮に幼帝を奉じて再起を図っていた。先程までその為の軍議が開かれていたここには、公家然としてしまった平家一門の中にあってもなお戦おうとする歴戦の諸将が在る。 今彼らは――一様に頭を垂れていた。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:08:33
ハサマリスト @ThatZ_orz

「兄、上……」 某かのすべで身じろぎすることも許されずにいる諸将の中にあって、辛うじて知盛の弟、本三位(ほんさんみ)中将平重衡が兄を案じる呻きを漏らす。 皆武装はせず小綺麗な鎧直垂姿。唯一知盛のみが腰に太刀を提げていた。そして知盛の手は既に、腰へ伸びていた。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:11:25
ハサマリスト @ThatZ_orz

武装しているから動けるのではない。彼だけは唯一、不可視の拘束を受けずにいるだけ。叩頭していた頭を目線と共に僅かに上げ、女は続ける。 「許す。と仰いませ」 促すと言うよりは強要する風な不遜な物言いに、知盛は現を取り戻す。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:15:44
ハサマリスト @ThatZ_orz

「女、もう一度、始めから申してみよ」 知盛が求めるのは彼女の最初の一語。彼はそれを漏らさず聞いていた、そうであるからこそ改めてこれを求めた。 「天命をもって主上にお迎えする――」 以下云々もやはり同じく。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:17:49
ハサマリスト @ThatZ_orz

知盛には今考えるべきことはいくらでもあるが、彼には、彼女が言った中でもこの点が最も気になった。 「くっ、はっはっはっはっ!!」 だが知盛はそれ以上問い詰めもせず笑い飛ばす。女の、予想外の反応に呆気にとられたというその貌が益々可笑しくて、笑い声はより大きくなる。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:20:39
ハサマリスト @ThatZ_orz

(主上とは誰か。言うまでも無い、我らが奉るは言仁(ときひと)様ただひとり) つい最近みやこでは、後白河法皇が新たに幼帝安徳天皇の弟を新帝として即位させたが、践祚(せんそ)に必須の神宝――即ち神剣および神璽ならびに内侍所(ないしどころ)は幼帝と共に平家の元にある。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:22:19
ハサマリスト @ThatZ_orz

否、知盛の同母兄(いろえ)内大臣平宗盛(むねもり)の掌中に、である。 いずれにせよ名実共に今上と仰ぐのは、主上と言うべきはただ一人であるのだ。であるのに、女は知盛をして「主上」とのたまう。 何かを勘違いしているのか、分断の工作か、いくらでも思い付くことはある。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:24:48
ハサマリスト @ThatZ_orz

「女、お前は人に何か求める時に名乗りもせぬのか? 俺を主上と仰ぎ命を聞くと言うなら、面を上げ、素性を申せ」 笑いを止めて女を見下ろしながら言う知盛。その様は威風堂々、この状況を飲み下し、一切の恐れも無い。 「貴方様が一言、「許す」と仰れば」 #水底の竜宮

2015-08-10 23:26:50
ハサマリスト @ThatZ_orz

「お主が名乗らぬ限り、俺はこれ以上問答する気も無い」 そう何もかもそこまで。より端的に現せば、「斬る」と言っているのだ。 女もこれを理解し、しかし恐れ故からではなく彼の“命令”に従う。 「私は、、、私の名は『影身(かげみ)』と申します」 #水底の竜宮

2015-08-10 23:28:47
ハサマリスト @ThatZ_orz

上げた面は細く、疱瘡などの跡なども無く滑らかで白磁の様に真白。それとは対照的に瞳も漆黒に落ちている。 髪は墨染めの絹の様に艶を持ち、一房になって腰辺りまで垂れていた。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:31:11
ハサマリスト @ThatZ_orz

影身が現れた時には知盛も気を配ることが出来なかったが、彼女の纏う物は、よく見れば宋の文官の着る朝服にも似たゆったりとした長衣(ながぎぬ)。 知盛はそう判じ、大陸の者であるかと察した。 「ふむ、宋の者か」 「いえ、私は崑崙(こんろん)――宋の者ではありません」 #水底の竜宮

2015-08-10 23:32:56
ハサマリスト @ThatZ_orz

「では、何処の者か?」 「蓬山(ほうざん)より出で、主上をお迎えに上がりました」 「蓬山? それは何処の山か」 崑崙であれば、辛うじて大陸にある土地、山地を示す言葉であったかと聞いたこともあった知盛。だが蓬山との名称は初めて耳にする。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:35:27
ハサマリスト @ThatZ_orz

「この蓬莱より西、虚海を超えた先、黄海の中にある神仙の山です」 「蓬莱? 虚海? ここは日の本、日本であるぞ?」 影身の眉がひくりと動く。 「蓬莱とはこの国、日本を指す、私達の世界の言葉です」 「私達の世界?」 #水底の竜宮

2015-08-10 23:38:36
ハサマリスト @ThatZ_orz

影身と話せば話すほど、知盛には疑問が湧き出る。そして知盛は問い掛けながらも、彼女の表情の動きから心底を探っていた。 虚言を弄してはいないか、さもなくば気が違って夢まぼろしを放言しているのではないかと。 その知盛の見る限り、彼女は確かな現実を語っている。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:40:32
ハサマリスト @ThatZ_orz

「兄上、その様な怪しげな者と、言葉を交わすなど……」 またも呻く様に重衡が口を開く。牡丹の花の如く優美さと武を併せ持つ彼であればこそ、不可視の拘束に抗していられた。だが、 「『冗了(じょうりょう)』」 #水底の竜宮

2015-08-10 23:41:35
ハサマリスト @ThatZ_orz

影身が僅かに重衡の方へ首を巡らせて何者かに命ずる様に言うと、重衡は今度こそ言葉を発する事もままならなくなった。 「重衡! 影身、直ちに者共へ施した何かを解け!」 刃を突き付けながら知盛が“命じる”、やはり影身に恐れる様子は無い。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:42:58
ハサマリスト @ThatZ_orz

「使令を以て、動きを封じているだけです。お体に異常を来す事はございませぬ」 瞳の色以上に冷たい声で言い放つ影身。知盛の言葉に従う意思が無いと、声音が伝えていた。 陰陽師の方術にも似ているが、知盛はそれ自体を目にしたことが無い。いよいよと、彼女の正体を問い詰める。 #水底の竜宮

2015-08-10 23:45:11
ハサマリスト @ThatZ_orz

「影身、お主は何者だ」 「私は“麒麟”でございます」 ――彼女の世界の麒麟とは、次の通りである。 “その性は仁にして、争いを厭い、流血や怨みを毒とする”神獣。―― #水底の竜宮

2015-08-10 23:46:06
ハサマリスト @ThatZ_orz

「今ひとたび申し上げる。私は王を、貴方様をお迎えに上がりました」 言って再び叩頭する影身。 知盛はその言葉を理解しつつも、今ここで応じる言を持ち得なかった。 #水底の竜宮 #木ノ花疾風に咲く番外 #つづく

2015-08-10 23:47:13