あさごはんまとめ

つ @2miki_

「珍しいな、今朝は焼き魚なのか」「折角日本に産まれたんだし、たまには和食を食べないとね」「ふーん。…あんた、魚の食べ方が綺麗だな」「そうかな？母がそういうのに厳しかったからかな」「なんか、面白いな」「なにが？」「その派手な顔で綺麗に箸使ってるの」「ええ、酷いな」「褒めてるんだよ」

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今日の朝食はレタスと生ハムとアボカドを挟んだクロワッサンサンド。「朝からがっつり食うよな」「走った後だとおなか空いちゃって」サクサクの生地とバターの香りを楽しみながら、ふと大のほうに目をやる。「こういうのっていいね」「なにが？」「昼や夜は友達やスタッフと食べたり出来るけど、」

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「朝ごはんって一緒に住んでなきゃ、なかなか一緒には食べられないでしょ？だから、だれかと一緒に朝ごはんを食べれるのは幸せだなって」「……だな」少し照れ臭そうに逸らされた横顔を見るのも、毎日の楽しみになってきた。

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今朝の朝食は新鮮なレタスとハーブを添えたエッグベネディクトだ。ハーブは多分、里津花がバルコニーで育ててるものだろう。「モデルの朝飯、って感じだな」「そんなことないよ。ただ、フランス料理には親しみがあるし、定期的に食べたくなるんだ」「俺、初めて食べるかも」「本当？なら、口似合うと」

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「良いんだけど」ナイフを入れると、半熟の黄身が溢れ出す。食べたことがなければ作ったこともないが、こういうのを作るのは至難の技なんじゃないか？ ふと、正面を見ると里津花の目が、早く食べてみて、と促してくる。「……いただきます」「うん。召し上がれ」視線を感じながら、口に放ると、

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濃厚なバターとレモンの酸味が広がる。店に出しても良いくらい旨い。「どう？」少し緊張気味に顔を覗き込まれる。「……悪くない」「よかったぁ」ふにゃりと里津花の頬が緩められる。カメラの前では絶対に見せない表情だ。今日はいくつ、こいつの新しい表情を見られるだろうか。

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「うわ、里津花ポーチドエッグ作るのうますぎじゃない？！」「ありがとう。でもそんなに難しくないんだよ。今度一緒にやってみる？」「わ！コツ教えて教えて！」「じゃあ翼も早起きしないとだね」「うっ……別に朝ご飯用じゃなくてもよくない？練習だし……」

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朝のランニングを終えて、一人で玄関に上がる。昨晩里津花から、『収録が押して遅くなったから、現場の近くのホテルに泊まることにするよ。朝には戻るけど、明日は先に行っちゃっていいからね。ごめんね』とメールが入った時から、考えていたことがある。それを実行すべく、冷蔵庫を開けた。

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「ただいま……」寮に越してきてから初めての朝帰りに何故か緊張して声が掠れる。大はもう、ランニングを終えただろうか。共有ルームに入ると、ふわりと何かが香った。「おかえり」「おはよう、大。今朝は一人で走らせちゃってごめんね……って、」テーブルの上に並べられた料理に思わず目を引かれる。

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お味噌汁に、卵焼き、炒めたソーセージが並んでいた。「いいタイミングで帰ってきたな。ちょうど、これから食うところだった」「これ、大が作ったの？」「他に誰が居るんだよ」「そう、だよね……。わざわざ俺の分まで用意してくれたの？」「あんただって、いつも俺と翼たちの分まで作ってるだろ」

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「そうだけど……大が作った朝御飯を食べれるなんて思ってなかったから、驚いちゃって」だれかが作ってくれた朝食が待っているなんて、独り暮らししていた時ではあり得なかった。思わず口元が綻ぶ。「……あんま嬉しそうな顔すんな。味は保証しねーからな」「大丈夫、見た目はすごく美味しそうだよ」

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「……いいから冷める前に食えよ」「うん、いただきます」卵焼きをひとつ箸で摘まんで口に運ぶと、ほのかな甘さが口に広がった。「大らしい味だね」「なんだそれ。美味いのか不味いのかはっきり言えよ」「美味しいよ。大の人柄が滲み出た、優しい味がする」「……っ、唐突に変なこと言うのやめろ」

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「思ったことを口にしただけだよ」「いいからもう、黙って食えよ……！」こんな楽しい朝食が、これから毎日続いていくんだと思うと胸が弾む。「ふぁ……二人ともおはよー……」「おはよう、翼。早いね」「暑くて目が覚めたんだよ……って、おお！美味そうな卵焼き！これも里津花がつくったの？」

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「ふふ、今日の朝ごはんは全部大が作ってくれたんだよ」「里津花、それいわなくていいから」「えっ！大ちゃんが！？ていうかもしかしてこれ俺の分？」「俺と里津花の分作ったら余っただけだ」「またまたぁ」「お前たち、朝からうるさいぞ」「あ、志季、おはよう」「おはよう、ございます」

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「おはよう。おい翼。お前、朝くらいもう少し静かにできないのか？」「だーってさー」「また始まった……」やれやれ、と言った表情の大と目を合わせる。何だか、今日はいつも以上に賑やかで素敵な１日になりそうな予感がする。

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「だって大ちゃんずっと実家暮らしだったから料理とかしてないはずなのに！俺達のためにこんなに頑張ってくれて……お兄ちゃんは大ちゃんの成長が嬉しいよ」「うるさい、食わねーならそれも俺が」「あー食べる食べる！いただきます！」

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翼用にと準備した分の食器を大が手前に引こうとしたあたりで翼が慌てて座って手をつけはじめる。 「ほう、大が作ったのか」「っす。その、里津花みたいに上手くないから、味は保証できないけど」志季も翼に続いて卵焼きに手をつけた。「ふむ…確かに里津花のとは違う味だが、美味いな」「どうも」

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里津花はともかく、志季は本当に不味いと思ったらお世辞は使わないと思っていたから、少なくても盛大に口に合わなかったわけではなさそうだ 、と、志季の言葉を聞いて大の顔に安堵が浮かんだ。「うわ、思ってたより全然美味しい……てか普通に美味い。大ちゃんの味って感じだなぁ」「お前もそれかよ」

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「おお、でもよく見るとみそ汁の具がめっちゃ不揃いでかわいー……大ちゃん料理出来なかったよね？里津花が？」「いや、俺もそんなに教えたつもりはなかったんだけど……大、もしかして練習してた？」「……別に」「っはは、大ちゃんそれ隠せてるつもり？かわいー！」「うっさい馬鹿」

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「はぁーあ、俺もダーリンの愛情たっぷりな卵焼き食べたい」「いいだろう。俺だって卵焼きくらいなら出来るだろ」「自分のこと他人事みたいに言うのやめろよ……急に怖くなってきた」

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「最高の卵焼きを作ってやろう。楽しみにしてろよ？」「あ、志季の卵焼き俺も興味あるなあ」「絶対美味いぞ」「どっから来る自信なんだよそれ……」

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朝日が眩しくて目を細める。いくら運動をしていたからといっても、数ヵ月のブランクを取り戻すのはそう易くない。毎日の習慣としている里津花の方が、軽々と走れてしまう。それでも、里津花は決して俺を置いていかず、何度も此方を振り向きながら、俺に合わせて少しだけ前を走っている。ふと、

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里津花が足を止めた。「どうしたんだ？」「あ、いや……こんなところに、新しくパン屋が出来てたんだなぁと思って」里津花の視線の先には、真新しい外装の小洒落たパン屋があった。「今日の朝ごはん、ここで買ってってもいい？」「里津花が気になるなら入れば良いだろ」「ありがとう」

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店内にはいると、早朝ということもあって客は疎らだ。「どれもすごく美味しそうだね」「……ほんとだ」並べられたパンはどれも見た目からして洒落ていて、目を惹かれる。里津花は隣でトングを鳴らしながら、楽しそうにパンを吟味している。こいつは、食べ物が絡むといつも以上に生き生きして見える。

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「これ、美味しそうだな」そう言って里津花取ったのはガーリックフランス。「大はどれにする？」「俺は……これ、」いちごの乗ったデニッシュを指さすと、里津花は吹き出すように笑った。「な、なんだよ」「あはは、ごめん。大は絶対にそれを選ぶと思ってたんだけど、あまりにも予想通りすぎて」