ファウンテンドッジ3 断章1『リベルタ・パッセロ』

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ガンダムビルド光岡 @mithuoka

■ ファウンテンドッジ3 ■ ■   断章  1    ■ ■ リベルタ・パッセロ  ■

2015-09-07 22:32:56
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

―――リベルタ・パッセロは本当に世界を救うつもりでいる。【1】

2015-09-07 22:34:09
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

リベルタはこの時代の人間ではない。水没世紀の始まり、世界中で起きた津波。そのほんのひとつに飲み込まれた青年、それがリベルタだ。奇跡的に生命を繋いだリベルタに提示された自ら選ぶこともできない道は、安楽な死か、治療法が見つかるまでの永く冷たい眠りだった。彼の親族は後者を選んだ。【2】

2015-09-07 22:39:03
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

彼は終わらない眠りの中で海を憎んだ。海の暴威を、それが奪っていった全てを憎んだ。あの禍々しい水分の世界がこの星にありさえしなければ、こんなことにはならなかった。その怨念が眠る脳髄をどうしようもなく蝕み終わった時・・・まるで祝福のようにリベルタは目を覚ました。【3】

2015-09-07 22:42:16
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

最初に聞こえてきたのはニュースだった。彼の知らない形のテレビの中、キャスターは今日の海抜の減少を告げていた。文明が、世論が、人心が、世界が、海の衰退に向けてひとつだった。少なくとも、リベルタにはそのように聞こえた。彼は泣いた。信じられないほど冷たい涙だった。【4】

2015-09-07 22:44:54
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

ナースらしき女が部屋に入り、すぐに悲鳴を上げてどこかへ行った。すぐに医師の群れがやってきて、やはり彼の知らない形の様々な機材で肉体を調べ上げた。リベルタは完全だった。リベルタも、自分と世界は完全であると思った。【5】

2015-09-07 22:46:47
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

・・・ほんの数日でリベルタは目まぐるしい変化を認識した。自分の知らないこの世界は、しかし自分の学んだどの時代よりも美しく見えた。この世に海への復讐を望んだ男も、その成就に可能性を見た男もいない。リベルタはわけもなく笑い・・・部屋の隅の『それ』に気付いた【6】

2015-09-07 22:49:32
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

十字架を持った、小さな女の子の人形だった。どこかの患者の忘れ物だろうか、と考え、何となしにそれを手に取った。何かの気紛れだったのか、それとも実感のない寂しさがあったのだろうか。知らず知らず、リベルタは人形に語りかけていた。「―――ねぇ、君?私の願いは、叶うと思うかい?」【7】

2015-09-07 22:52:33
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

『大丈夫!私がいるわ!』 【8】

2015-09-07 22:54:21
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

人形の内蔵音声だった。声に反応する機能だったのだろう、励ますような、諭すような、優しい声色だった。舌が乾き、目はどの空間も見てはいなかった。味わったことのない幸福感が、生命の致命的な部分を貫いた。恍惚を表現する手段が見つからず、リベルタは動くことができなかった。【9】

2015-09-07 22:57:55
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

リベルタ・パッセロは変質した。本当に世界を救うつもりだった。【10】

2015-09-07 23:00:16
ガンダムビルド光岡 @mithuoka

■    断章  了    ■ ■    次回 断章2   ■ ■  ハリーフ・ジャバル  ■

2015-09-07 23:02:16