凸凹兄妹 別れの盃

夜半、イクスと魔女アマルの語り。刻々と迫る別離の足音。
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ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 #凸凹兄妹 別れの盃 すっと、香る気配。 今や連合にその剣在りと謳われる青年が、気づかぬはずはない。 「こんばんは」 夜の天幕に、壜を携えた女。(続)

2015-06-18 21:56:47
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「日頃お酒飲む方じゃないのは、知ってるけれど。 別れの盃に、付き合ってくださらない?」 イクス隊に影のように付き添う魔女、アマルがそこにいた。⇒

2015-06-18 21:57:08
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「別れ?」 書類作業の手を止め、顔を上げる。 「除隊の許可は、私もセイアも出していないはずだが。……話があるのなら付き合おう」 机上の書類を片付け、場所を作った。➡️

2015-06-18 22:07:24
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「あら、隊員だと思ってくださってたの。嬉しいわ」 そう言って壜を置く。教えた覚えのない、贔屓の銘柄。 「始めに言ったでしょ。私、投影体なのよ。 “it”―あれ―を滅ぼせば、この時空は終わる。 私の存在は、それまでってこと」 栓を抜く小気味いい音が、静寂に響く。⇒

2015-06-18 22:25:00
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「なるほど。故に、遠からぬうちに別れることになるだろう、と」 栓を抜かれた壜を手に取り、魔女の前に置かれた杯を満たす。 同じように中身を注がれた杯を持ち、掲げる。➡️

2015-06-18 22:29:49
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「付き合ってくださって嬉しいわ。 乾杯、貴方の未来に。私の明日に」 杯が触れる。口をつける。さほど強くはないらしい。 「…………どうなさるの? 妹さんのこと」 長い睫毛を伏せたまま、虚空に言葉が放られる。⇒

2015-06-18 22:36:28
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「……話し合わなくては、ならないな」 話とはそれか、と思う。あまり他人に頓着しない類の人物であるように、思えたのだが。 「あの子はただの町娘に戻りたい、と言っていた。大戦が終わった後も、その気持ちに変わりがないか、聞こうと思っている。ーーそして」(続)

2015-06-18 22:43:01
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「他にも、話さなくてはならないこと、謝らなくてはならないことも」 己の独善に巻き込み、追い詰めてしまったこと。 隊員とはいえ、素性の知れぬ魔女だ。深い内情を話さなくてはならない道理もない。だが、隠す、という気には不思議とならなかった。➡️

2015-06-18 22:47:59
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「謝ってばっかりなのね」 くすくすと魔女は笑う。 「そうやってご自分ばかり責めるの、やめたら。 あの子も悪いと思うわよ。 こんなにお兄様が自分の道を見出だそうと頑張ってるのに、 肯定の言葉ひとつかけられないで。 辛かったでしょ。 よく頑張ったと思うわよ、貴方」⇒

2015-06-18 23:09:48
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「ばかり、か」 冗談にしろ本気にしろ、よくそう言われる。 「セイアにはセイアの、私に対する望みがあったのだろう。それを、悪いとは思わない。辛いとも」 相手に対して望みを抱いていたのも、肯定してやれなかったのも同じ。どこまでもお互い様で、よく似た二人なのだ。➡

2015-06-18 23:20:23
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「ほんとにお互い庇いあってばっかり。たまには喧嘩でもなさったらいいのに」 瞑目して、飲み物をひとくち。 「……町娘に戻りたいとは、思ってないわよ。あの娘は」 蝋燭ひとつの闇に、声が響く。⇒

2015-06-18 23:35:22
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「そう、か」 つられたように、酒で喉を潤して。驚くことではない。心変わりがあった可能性もある。すぐに答え出すことを求めなかったのは自分だ。何より、誰か他の人間に私が跪くのも、あの子は望んでいない様子だった。 「なぜ、そうとわかった?」➡️

2015-06-18 23:42:25
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「戻りたかったらとっくに降りてるわよ、あの娘は」 心なしか魔女の目は遠い。 「聖印そのものが嫌なんじゃないわ。 聖印があることで貴方より上に見られてしまうのが嫌なだけ。 それが続くくらいなら聖印なんて放り出してやる、って駄々こねてるだけよ。 我儘よね、ほんと」⇒

2015-06-19 00:07:18
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「それは……だが」 では、どうすればいいのか。アトラタンにおいては、聖印の序列は絶対だ。未開の地に旅立つのでもない限り、その呪縛からは逃れられない。その望まぬ状況の打開策が、聖印を捨てることなのだと思っていた。それさえ本意でないと言うのなら。➡️

2015-06-19 00:32:02
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「ま、やりようはあると思うわよ。とりあえず邪紋使いとしての貴方のことは認めたみたいだし。頭冷やさせてあげなさいな。ついでに貴方もね」 2杯目を勝手に注がれている。 「あの娘を犠牲にしても自分を犠牲にしてもいけない。 それはもう、解っているんでしょう」⇒

2015-06-19 00:38:50
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「無論だ」 言われるまでもない。兄妹揃って帰還できなければ、全く意味がない。 「やはり、話をする必要があるようだな……」→

2015-06-19 00:50:28
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「話す気があるだけ随分、進歩なさったんじゃない?」 知ったような口だが、刺は感じられない。 「……今のお気持ちをお忘れにならないように、なさるといいと思うわ。 何年、先も」 穏やかな言葉に潜んだ、微かな自嘲。 気取られまいとしてか、女は続けた。(続)

2015-06-19 13:49:18
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「私ね、お願いがあるの。 早晩消えてなくなる身だから、その前に」 徐に差し出した左手に、纏う燐光。 「これ、もらってくださらない」 女は微笑んだ。 蛍のように仄かに瞬くそれは、 聖印の光のように、見えた。⇒

2015-06-19 13:53:23
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 目を見張る。この女は、魔女だとばかり思っていた。魔法を行使する様も、間近で見た。……いや、違う。かつて君主だったというだけのことか。 「……私では、邪紋として取り込まれるだけだぞ。セイアでなくていいのか」→

2015-06-19 17:01:29
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「これはね、成れの果て。 かつて私の実体として生きた人が、ロードだったというだけのこと。 私が投影体である以上、これは単なる混沌の塊。 魔法みたいに行使しても、わからなかったでしょ。 託して消えるなら、貴方のほうがいいわ」 寂しげに女は微笑んだ。(続)

2015-06-19 19:20:18
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「私もね。 あんまり、いいロードじゃ、なかったのよ」⇒

2015-06-19 19:20:41
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「そうか……」 この魔女も、辛く、苦しい思いをしたのだろう。その退廃的で艶然とした佇まいに潜む地獄を夢想するが、自分のような若輩に、それが叶うはずもない。 「もう一つだけ。お前は何がしたいのだ」 自分を戦地に臨ませ、戦わせることが、目的とばかり思っていた。→

2015-06-19 19:33:46
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「最期に貴方と一緒に居たかった。 それじゃ、だめかしら。 戦ったのは今の貴方の意思。 私はそれを手伝っただけ」⇒

2015-06-19 19:57:54
ほりしゅ一 @IKS_gc2

@e_pochiko 「……あぁ、そうだな」 そう、戦ったのは己の意思。この魔女はそれを見抜き、応えただけ。あるところ、自分はこの魔女さえ利用していたのだ。 「わかった。好きにするといい」 →

2015-06-19 20:03:42
ままるだは飲みに行きたい @e_pochiko

@IKS_gc2 「ありがとう」 魔女は安堵したように微笑んだ。 「私が消えるとき、勝手に渡してゆくわ。 べつに見て思い出してくれなくていいから。 妹さんと、お幸せに」 グラスを空け、席を立つ。 「残りはどうぞ。楽しんで。 それじゃあね」⇒ (締めて大丈夫です)

2015-06-19 20:12:17