【ア・エンカウント・オブ・トラブルサム】

うちのニンジャVSうちのニンジャ
1
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

【ア・エンカウント・オブ・トラブルサム】

2015-09-22 07:59:43
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

ネオサイタマでは晴れる日のほうが稀である。そして降るのはただの雨ではない。重金属酸性雨。晒されれば、そう時間をおかず死に至るものだ。ゆえに、誰も彼もが対策をとる。ある者はレインコートを羽織り、ある者は傘を差す。 1

2015-09-22 08:00:44
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

上空から見ればその傘の量だ、花畑めいて見えたであろう。その中に黒猫めいたレインコートをしっかりとまとった姿があった。フードの下にはヘッドフォン型のウェアラブル端末。完全防水だ。コートの下からは尻尾がのぞく。サイバネだ。 2

2015-09-22 08:02:52
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

彼女は……グラスキャットは目だけで左右の人の流れを確認し、交差点に踏み出した。雑踏の中にあって、彼女のいでたちは目立つ。特に通勤ラッシュのような今は。だが、ネオサイタマ市民にとっては1ミリたりとも気にならぬ。ありふれているからだ。ハッカー、ペケロッパ・カルト、パンクス。 3

2015-09-22 08:05:39
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

彼女はスクランブル交差点……ゴミが転がる、けして衛生的ではない……の、ど真ん中に差し掛かる。そのときであった。前方、かなりの高さのビジネスビルから飛び降りる者がある。すわ、自殺か?気づいた歩行者が悲鳴をあげ、あるいは色めきたつ。 4

2015-09-22 08:08:41
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

だが、そうではなかった。グラスキャットのヘッドフォン型端末が持つソウル検知システムがBEEP音を鳴らし、サイバーサングラスでだぶった視界に照準を表示した。『ニンジャ存在確認な』「やっぱりか」グラスキャットはとっさに足を緩めた。 5

2015-09-22 08:11:21
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

当然、後ろを歩いていた通勤途中のサラリマンがぶつかる。「アイエッ」「ゲ、シツレイ!逃げたほうがいい……ですよ」「何を言っているんですか?」グラスキャットは無言で落ちてくる姿を示した。「アイエッ?」それはちょうど空いた空間に着地し、放射状にアスファルトをひび割れさせた。 6

2015-09-22 08:15:36
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

立ち上がったのは、ごく普通のサラリマンめいたスーツに身を包んだ男だ。ただし、片腕はサイバネ、そして、口元を可動式メンポが覆っている。「見つけたぞ、グラスキャット=サン。今度こそ仕留めさせてもらう……ドーモ、ドラウターです」そう、降って来たのはニンジャである! 7

2015-09-22 08:18:47
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

「アイエエエエ!?」「狂人だ!」通勤にいそしむネオサイタマ市民も、泡を食ったように逃げ出していく。当然だ。飛び降りて無傷でいるものが人間であるはずがない。「逃げろって言ったじゃないか」背後で腰を抜かすサラリマンに、グラスキャットは手を払うように振った。「早く」「アイエエエ!」 8

2015-09-22 08:20:50
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

グラスキャットは一般人が離れたのを確認してから口を開いた。「もうアイサツしなくて良いんじゃないか?」「そうはいかんだろう」うんざりしたようにドラウターが声を張る。「アイサツは基本だ」発火機構が備わったサイバネアームが駆動音を発する。「毎度毎度ジツで騙してくれるな」 9

2015-09-22 08:23:20
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

彼は……グラスキャットが殺したくない相手だ。イズミが死んだ直後から命を狙われ続けている相手だが……「ああ、もう……分かったよ。ドーモ、グラスキャットです」「それでいい。……そろそろサンズ・リバーの船頭が待ちくたびれている頃だぞ」「イズミ=サンもだね」「会いたかろう」 10

2015-09-22 08:25:34
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

グラスキャットが走る!そして仕掛ける!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」BOOOOM!熱風が重金属酸性雨もろともグラスキャットを吹き飛ばした!ドラウターがサイバネ義手を降ろす。「あっついンだってば!それ!」「それはそうだろう。仕留めさせてもらうぞ」 11

2015-09-22 08:27:53
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

ドラウターは一抹の感傷と共にグラスキャットを見やった。彼女を狙いだして何年だ?マルノウチ・スゴイタカイビルでの事件の日に取り逃した後から延々と彼女を追い続けている。私怨ではない。仲間の仇討ちだ。実際のところ示しが付かぬ程度の時間のかかりようだ。 12

2015-09-22 08:30:48
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

そう、時間がかかりすぎたのだ。彼には既に彼女を殺す気などない。それでも戦わずには居られぬ。対抗心か何か、そういった感情をドラウターは彼女に抱いていた。……火球が一撃でも当たれば致命傷だというのに、殺す気はないのだ。一応は。 13

2015-09-22 08:32:55
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

CABOOOM!CABOOOM!双方の姿を捉えられている方であれば、雨粒の落下すら鈍化して見えることであろう!ドラウターのサイバネ義手から爆発する火球が大量に発せられる!グラスキャットは全て潜り抜け、パンチを叩き込む!「ウナーッ!」「グワーッ!」吹き飛ぶドラウター!だが見よ!14

2015-09-22 08:34:38
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

「イヤーッ!」ドラウターは吹き飛びながら背後にサイバネ義手を翳し……KBAM!圧縮した熱風を発射!勢いを殺し、更に続けて下方向に熱風を発射!高らかに舞い上がり……「イイイイ……イヤーッ!」火球を限界量射出!雨に混じり降り注ぐ火球! 15

2015-09-22 08:37:04
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

「なんだそりゃ!」グラスキャットはかわし、スリケンで撃墜し、更にかわした。だがなおも降り注ぐ!これが彼のヒサツ・ワザなのか!「なんだいそのジツ!隠してたのかい!」やがて着地したドラウターにグラスキャットは声を荒げる。「今初めて試したが……そこそこだな」 16

2015-09-22 08:39:20
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

「やるじゃないか!こっちも行くかね!」グラスキャットは懲りずに仕掛ける!「ウナーッ!」周囲が閃光に包まれ……「また閃光か、同じ手は食わんぞ!イヤーッ!」ドラウターが火を放つ!今度は火炎放射だ!だがあらぬ方向を向いている。彼はおろかにも何度も味わったジツを再び食らったのだ! 17

2015-09-22 08:41:33
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

だが、彼を責めるには早計というものだ。なぜならグラスキャットは発光と同時にジツを行使したのだから。そう、二段構えである。ドラウターの視界、霧が深くなっていく。「……まさか!」そして唐突に晴れた!そこに既にグラスキャットの姿はない!「クソッ!またか!」 18

2015-09-22 08:43:25
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

ドラウターはもはや力なく膝を付き、赤熱しひび割れたアスファルトを殴った。「畜生、次こそは……次は逃がすかーッ!」彼らしからぬ絶叫を彼方で聞きながら、グラスキャットは目的地のチキンサンドショップに到着していた。「ドーモ、トマトチキンサンドひとつ……フフ!ああ、サラダもお願い」 19

2015-09-22 08:45:58
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

朝からとんだ日だ。だが、彼に自宅の場所はばれていない。帰ろう!グラスキャットはチキンサンドとサラダを受け取ると、大きく迂回路を設定してその場を後にした。 20

2015-09-22 08:46:40
【テキストカラテ用】ユラウ @yulou_text

【ア・エンカウント・オブ・トラブルサム】 終わり

2015-09-22 08:47:13