ぱちあや神隠し編

山神東堂尽八と箱学生古美彩香の話 ※夢注意
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アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

いつもの通学路をいつもの時間に通っていた。昨日よりも金木犀の香りが強いなあ、と目を閉じて大きく息を吸う。目を開けた瞬間、ぶわっと風が吹き目の前に男の人が現れた。彩香、と名前を呼ばれ思わず返事をする。そういえば箱根の山神に名前を呼ばれても返事をしてはいけないっていう噂があったっけ。

2015-10-18 19:17:33
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

返事をし終える時には既に私はいつもの通学路にはいなかった。すまない、と後ろから声が聞こえ、振り返ると私の名前を呼んだ彼が立っている。「誰…?」聞くと、少しだけ後ろに下がり背筋をしゃんとし、聞き取りやすくとても通る声で「箱根の山神、東堂尽八。君を隠したのもこの俺だ」と頭を下げた。

2015-10-18 19:59:33
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

私は、と自己紹介しようとすると先に山神様の方が私の名前を言ってしまった。「古美、彩香ちゃんだろう。いつも見ていたよ」いつも、という彼だが私は彼を一度も見たことがなかった。「山神様は金木犀の香りがするね」そうかもしれんな、と笑う彼からはいつもどこからか漂ってくる金木犀の匂いがした。

2015-10-18 20:37:11
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

辺りを見渡せば赤い鳥居や小さな祠。ここは神社なのかな、と考えていると山神様はすぐ隣にやって来て「神社ではないんだ」とまた笑った。神様というのは案外すぐに笑うものなのだと知っている人はいるのだろうか。「どうして、私を連れてきたの?」なにか悪いことをしたのだろうか。心当たりは、ない。

2015-10-18 22:10:42
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

「君が好きだからだよ、彩香ちゃん」好き、というのはそういう意味でだろうか。どこで出会ったのだろうか。そんなことを考えていると、山神様は大きな声で笑い出す。私の手を取って「さあ、俺の山を案内しよう。怖がることは無い、おいで」という山神様の手を私は握り返してしまった。

2015-10-18 22:22:51
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

ここは、あそこは、それで…と話す山神様があまりにも楽しそうに、嬉しそうにするものだから私も楽しくなってしまう。「そこのお家は、山神様の」ここまで言ったところで山神様の指が私の言葉を閉じ込めてしまった。「尽八、と呼んでくれないか」山神様の小さなお願いに私は「尽八くん」と呼び直した。

2015-10-18 22:40:53
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

「そこは俺の家だ。もし、よければ、なのだが…」ごにょごにょと口ごもる尽八くんはとてもじゃないが山神様には見えない。なあに、と返事をすると握った手に力が入った。一緒に、住まないか…?と私の目を見つめる。「一緒に…?」一緒に、ということは私も神様の仲間になるという事なのだろうか。

2015-10-18 22:53:40
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

神様にはならないさ、と再び心の声に返事をする尽八くん。「私は、帰れないのかな」そう聞くとやはり帰りたいよな、と尽八くんは眉を下げてしまう。別にあっちの暮らしが特別好きなわけでも嫌いなわけでもなかった。なにより悲しい顔をする尽八くんを見たくない、という気持ちの方が大きくなっていた。

2015-10-18 23:18:38
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

おかしな話だ。自分の生活よりも、たった数十分前に出会った人、それも神様である。そんな人の方が大切だと思ってしまう。私はそんなふうに自分を犠牲にしてまで他人を守れる人間だったのだろうか。それとも彼は自分よりも大切な、人だったのだろうか。理由はまだ分からない。

2015-10-18 23:26:39
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

尽八くんと一緒にいる、と伝えるとぱあっと明るくなる。と同時に私の足元に花が咲き始めた。色とりどりの花が咲き驚いていると尽八くんは私の足元の花をぷつん、と摘み私に手渡す。「この花は俺から彩香ちゃんへのプレゼントだ。これからもこの山は花が咲き続けるだろう!」そうだ、彼は山神様なのだ。

2015-10-18 23:52:56
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

靴を脱いで尽八くんのお家に上がらせてもらう。こっちだ!と嬉しそうな尽八くんを見ると来てよかったと心から思う。そんな彼の後ろを付いていくと後ろからぱたぱた、と足音のようなものが聞こえた。思わず振り返るとそこには誰もいない。小さな足音だったから聞き間違いかな、とまた前を向く。

2015-10-19 00:25:40
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

私の部屋だという場所に案内される。そこには私の好きな色、好きなキャラクターの小物等が置いてある。「これ、どうしたの?」そう聞くと尽八くんは照れたように「彩香ちゃんが、好きだと思って」と教えてくれた。私のことをいつから知っていたのだろう。色々と気になるがとりあえず、「ありがとう」

2015-10-19 00:33:30
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

尽八くんは自由にしていいぞ、と言い残し部屋を出ていった。外を見てみようと障子をゆっくりと開けてみる。そこには大きな池があり、色々な鯉が泳いでいた。少し目を凝らすと小さな人形のような物が鯉に餌をあげているようだ。窓を開けようと手を掛けた途端後ろから金木犀の香りに包まれる。

2015-10-19 08:15:58
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

「窓は、開けてはならんよ」いつの間に戻ってきたのだろうか、尽八くんが私の手を握った。少し焦ったように、でもどこか言い聞かせるように尽八くんは私に言う。「ごめんなさい、外に誰かいたの」誰が…と悩む尽八くんを見つめていると顔を上げ「あぁ!紹介していなかったな!」と笑顔を返してくれた。

2015-10-19 18:29:53
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

ばたばたと二人で玄関に向かうとそこにいたのは真っ白いオコジョだった。「オコジョ…」「こいつは山の妖精と呼ばれていてな、庭の鯉の世話や手紙の配達等を任せているんだ」庭の鯉、餌をあげていたのはこのオコジョだったのだろうか。しかし、見た時は人の形をしていたのだ。

2015-10-19 19:33:04
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

「人になれるの?」そう聞くと彼はワッハッハ!と大きく笑う。「いくら山の妖精とはいえ、人にはなれんな。どうかしたのかね?」じゃあ私の見間違いか、山神様が言うのならそうなのだろう。「なんでもないよ、お腹がすいた」今朝は少し寝坊をしてしまったため、パンをひとかけらしか食べていないのだ。

2015-10-19 19:48:48
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

昼食にしよう、と尽八くんが言うとさっきのオコジョがたたっと走り出し火をつけ、お鍋を温める。オコジョというのはお料理の手伝いまで出来るのか。と感心していると「今日の夜までにはご馳走を用意しよう」と尽八くんはウインクをする。山神というのはルックスも保証されているのだなあ。

2015-10-19 21:42:03
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

尽八くんはオコジョのことを名前で呼ばない。名前はないのだ、と言われ「付けてもいい?」と提案すると「こいつも喜ぶ、是非付けてやってくれ」と尽八くんも笑う。真っ白いオコジョを見て、同級生の男の子が思い浮かぶ。彼もオコジョのように綺麗な色の髪で、お世話上手なのだ。「雪ちゃん、」

2015-10-19 21:51:11
アヤカチャン⚓︎ @amam_ak

「白いから雪ちゃんか!ワッハッハ!彩香ちゃんらしいな!」尽八くんが楽しそうなのでそういうことにしておこう。雪ちゃん、と呼ぶとオコジョはきゅっと姿勢を正し私を見つめた。丸くて愛らしい目はあの同級生には似ても似つかないものである。頭を撫でると目を瞑り気持ちよさそうにしていた。

2015-10-20 08:14:47