まな大先生による壮大な爆弾

心が狭い @GN1008TK_ManA

@hey_shiki 「銀八、」坂本の掠れた声が冷たい教室に響く。坂田銀八は、確かにそこに存在したが、まるで興味を無くしたような、ガラス玉のような冷たい瞳で、坂本を映した。「ああ、…何」ザラザラした声音が、坂本の耳と胸をひと撫でして、腹に落ちた。嗚呼、そうか。「わしを捨てるんか」

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@hey_shiki 「銀八、」いつもと真逆の、温度を失った音が耳に飛び込んできた。ふざけた愛称で呼ばれることも、もうない。嗚呼、五月蝿い。如何して今頃目の前に現れる。「ああ…、何」視線だけ向けてやれば、ぐるぐる巡ったやつの表情が、すとん、と真っ直ぐ落ちるのが見えた。

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@hey_shiki 坂本辰馬には幼馴染がいた。薄い茶の長い髪。気づくとそばにいるその女を、坂本は「ただの幼馴染ぜよ」と笑って言った。そしてその口で、その夜、俺の身体に吸い付き、噛みつき、愛を囁いた。坂本の言葉を俺は疑いもしなかった。愚かだったろう。或る日、俺を呼び出した女は一言

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@hey_shiki 「おまんに、坂本を生涯幸せにする覚悟はあるがか」と問うた。ひやり、背筋を凍らせる間に、幼い頃からの許婚なのだと、彼女は続けた。「目を覚ませ」と言われているような心地がした。が、それ以上に、坂本に嘘を吐かれていた事実が、何よりも俺の頭を撃った。

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@hey_shiki 女は真っ直ぐ俺を見つめて、別れろとは言わないが、覚悟を聞きたくてやってきた、と告げた。俺は、すぐに、別れる、と答えた。吐き気がした。坂本には一言、「二度と会わない」とだけ断って、すぐに、スマホを叩き割った。そんな男だ。坂本辰馬は。そんな男が今俺の前で

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@hey_shiki 「わしを捨てるんか」と、俺に、他でもない、よりによって、この俺に！問いかけてくるものだから、あまりに可笑しくて、おかしくて、可笑しくて、可哀想で、哀しくて、俺は笑った。笑って、返事はせずに、足早に教室を出た。何故って？だって、あいつが、高杉が俺を待っている。

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@hey_shiki おしまい

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@hey_shiki 坂田銀八には男がいた。目を見ればすぐに分かった。分かってしまえば、情事の次の日の赤らむ肌にも気づくようになり、手を繋いだ日に大事に右手をさするのにも、すぐに合点がいった。「何見てんの、高杉、」そういう銀八の声は明るい。今日は坂本の家にでも行くのだろうか。

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@hey_shiki おかしくてたまらない。何も知られていないと思っている、何も知らない目の前の教師に、全て教えてやりたい気持ちになった、が、すんでのところで堪えて、笑った。嗚呼可笑しい。目の前の男が、欲しい。手元に転がり落ちてくるのも、時間の問題だろう。どこから崩してやろうか。

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@hey_shiki 銀八の愛は「ままごと」だ。と、高杉は常々思っている。本当は、坂本の隣にいる女が、ただの幼馴染でないのことくらい、余程の阿呆でもあるまいし、気づいていたはずなのだ。「先生、どうしたの」俺は、お前の為なら、お前の好きな、何も知らない生徒にだってなってやるのに。

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@hey_shiki 坂本辰馬はろくでなしだと、陸奥は常々思っている。誰よりも近いところで奴を見てきたので、女ができればすぐにわかるのだが、今回ばかりは確証を抱くのに時間がかかった。街を歩いていたある日、隻眼の少年が呟いた何気ない一言を気に留めなければ、気づかなかっただろう。

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@hey_shiki 高杉も銀八も坂本も、何て愚かなのだろう、と土方十四郎はぼんやり思った。あんなに惹かれ合い、ドロドロに絡み合っているのに、誰も「前」を覚えてない。なんて馬鹿らしい！「土方、帰ろうぜ」俺に声をかける高杉の目的は、茶髪の女に風の噂を吹き込むことだ。嗚呼おそろしい。

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@hey_shiki 煙草をもみ消し、笑顔で応えてやる。知ってるか？俺とお前は遠い昔、殺しあう仲だったんだぜ？グツグツと煮えたぎるような怒りが、腹の底で育つのがわかる。俺たちを苦しめた張本人。転生しても銀色に固執する愚かさよ。「坂本と坂田、怪しいよな」今はお前の噺に乗ってやるよ。

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@hey_shiki 誰も「前」を覚えていないらしい。沖田総悟は絶望した。このままだと姉が亡くなることも、坂本は遠いところへ越していくことも、近藤さんが傷つくことも、誰も、何も分からないらしい。「ミツバ、元気か」お前がそれを言うのか、と、目の前の整った顔ぶら下げた男を睨みあげた。

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@hey_shiki 今回のイメージは坂本→銀八→←高杉で、銀八は高杉の策略通りハマってるし、坂本は今までとは違って銀八だけは本気だったのにいつも通りの別れ方で、陸奥は別に坂本は好きでもなんでもなくて、土方は銀八と高杉が幸せになることが許せないだけ。

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@hey_shiki 「おまん、金時に何吹き込んだ」珍しくドスのきいた声に、おや、と陸奥は心の中で首を傾げた。「別に、なにも」珈琲を啜りながら答えると、一層目の前の男の目が据わっていくのが見えたので、正直に、いつも通りの言葉で問うただけだと伝えた。伝えると、坂本は愕然とした様子で

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@hey_shiki 「それだけか」と、まるで重さを失った声で呟いた。「それだけじゃ」そういうと、「ほうか、」と言って、机に乗り上げるようになっていた身体をソファへ沈めた。だが、本当にそれだけなのだ。あまりに素直に私の言葉を信じる坂本もどうかと思うが、嘘はついていない。

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@hey_shiki 「本気じゃなかったんじゃろう、おまんは、いつもと違って、本気だったようじゃが」チーズケーキが珈琲と混ざり合い、口の中で溶ける心地を味わいながら、何の気なく、思ったことを呟いてから、視線をあげた先には、ぼろぼろと大粒の涙を零す奴がいた。嗚呼、何故胸が痛い。

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@hey_shiki 憎くてたまらない土方くんは、周りが少し見えなくなっている。ので、ミツバさんを幸せにする猶予があまりないことに気づいてない。

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@hey_shiki 「おい、あれ坂本じゃねぇか？」隣を歩く男は、片目が見えずに死角が多い。さりげないような声音で呟けば、彼は大袈裟に振り返る。嗚呼可笑しい。そんなに自分の策が気になるか。最後は俺に、ぐちゃぐちゃに踏み潰されるというのに。「誰だあの女、つか泣いてんのかアレ」

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@hey_shiki 何故、泣いているのか、気になるだろう？「別れ話かなんかみてーだなぁ」坂本と女が、上手くいかなかったと、そう、勘違いして焦ってしまえ。焦って、坂田を縛り付けて、そうして壊れてしまえばいい。平静を装う綺麗な横顔を、一筋の汗が伝う。肌寒い冬のことだった。

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@hey_shiki 「土方さん、」最近のやつは、どこかおかしい。思い詰めたような顔をして、近藤さんにも心配かけて。だが、隠せていると、そう思っているらしい。ギラギラした目を、するり、と綺麗な瞬き一回で隠して「どうした？総悟、」と、甘い声音で、笑顔さえ浮かべてみせる。気持ち悪い。

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@hey_shiki 「俺の姉、長くないです」そう告げると、綺麗な顔を、青白くして、まるで恐ろしい夢を見たかのような顔で、そんな、だとか、嘘だ、だとか言葉を零した。零して、最後に「早すぎる、」と。奴は確かに、そう言った。ハァ？なんだそれ、おい、土方テメェまさか全部覚えてたんじゃ、

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@hey_shiki 土方十四郎が身投げしたらしい。らしい、というのは、俺も暫く意識を失っていて、人伝に聞いたまでだったからだ。どうやら、死んじゃいないが、意識不明の重体だとか。唯一友人だと思って利用していた相手だ。見舞いくらい行ってやろうかと、足元の銀八の血を拭いながら思った。

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@hey_shiki 今日で8日目。高杉は今日も規則正しく起きて、俺の世話をして「行ってきます」とキスをする。俺の脚は綺麗に整えられていて、傷痕も殆ど見当たらない。一介の学生なのに、刃物の扱いは上手いらしい。「いってらっしゃい」ホルマリン漬けの脚の入った瓶越しに、高杉を見送った。