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ピィーピィーピィーギョロゴロオオオ…バヅンバヅン…キィーシュゴオオ… <<切断されました。再接続を待っています。29>> 28 .. 27.. 灰色のダイアログが無慈悲にテレホタイムの開始を告げる。「クソっ、暇人ともめ」1
2015-11-03 11:00:57ヅダ・オナリは場末の中古UNIX屋で労働する、ごく一般的なネオオーサカの底辺さらりまんである。 月収のほとんどは通信費と、高額なデジタルコンテンツに消えてゆく。 もう何年も同じ服を着、毎晩向かいのメギド・バーガーを食べている。2
2015-11-03 11:03:35「四重連ES艦載機ガチャにそろそろジェムが届くな…」そう一人ごちて口元の火のないタバコに手をやる。 もうとっくにタバコはやめた。ガチャ課金のためだ。だが肉体はニコチンとおしゃぶりを求める。 だからライターを捨て、シガレットをしゃぶっている。3
2015-11-03 11:05:59彼、ヅダの生活は破綻している。それも、10年前から。 暗黒メガコーポである財団Gとギンガナム・コーポレーションがリリースする社交性の高いソーシャル・ゲームは暗黒非合法ICT労働者の熱い支援を受け、今なおトップの株価を更新し続けていた。4
2015-11-03 11:09:09「賭博ではない」「実際安い」「基本無料」「弊社のコンプライアンスは日本国法をたいせつにしています。あなたのプライバシーはまるで要塞だ」 空虚なフレーズが踊る宅内CMネオン。 彼はプライベート空間までも暗黒メガコーポに売り渡したのだ。ガチャのために。5
2015-11-03 11:11:02「あと実績を三つ解除すれば、グランドスラムハイパークロックアップメガ粒子ガチャに手が届くぞ……ヨシヨシ」 そのとき、唐突に彼のニルヴァーナを破るノイズが訪れた。 呼び鈴が鳴ったのだ。 「ん……?」6
2015-11-03 11:13:54呼び鈴?呼び鈴が鳴っただと? そんなはずはない。呼び鈴はもうはるか昔に、俺がこの手で破壊したんだ。 ちゃんと確認したし、どんなに強く殴っても二度と鳴らなかった。 だから呼び鈴なんて鳴るはずが…7
2015-11-03 11:16:07その闖入者は、奇妙だった。 暗黒非合法ICT労働者にはおおよそ似つかわしくない、少女だ。 帯刀している。 そして、覆面をしている。 10
2015-11-03 11:19:47「離れて」 「えっ」 「いいから、離れて」 「言っている意味がよくわ」 「イヤーッ!」CRAAAAAAAASH! 11
2015-11-03 11:20:47彼女の帶びるカタナは何の予備動作もなく、ズダの背後にあるUNIXに突き立ち破壊した。 「あっ……ガチャが……」 12
2015-11-03 11:22:20「そのゲームはクラウド運営だからあなたのガチャは無事よ。そんなことより命の心配をなさいな」「イヤーッ!」SPAAAAAAAARK! 13
2015-11-03 11:23:46少女の佩く魔剣は誰に命ぜられることもなく、自然に、おそるべき自然さでヅダの楽園を侵略してゆく。 まるで、そこに何か見えない敵が居るかのように…… 14
2015-11-03 11:25:16「あなた」「アッハイ」「これを飲みなさい」「飲む」 少女は小瓶から錠剤を取り出すと、ヅダに投げて寄越した。 「飲む」 「死にたくなければね。もうガチャが回せなくなってもいいというの?」 ヅダは考えるのをやめた。15
2015-11-03 11:27:14「うわっ」 ヅダは自分の視覚素子の故障を疑った。彼の五感はガチャのために、暗黒医療メガコーポの金銭提供モニター装置に置換されている。故障したことは、なかった。 16
2015-11-03 11:30:11空を飛ぶ魔剣が、おどろおどろしい影を縫い留めている。 視覚素子に、この世ならざるもの、ゲームの中にしか居ないはずの存在が踴っている。 ありえない。 ヅダは視覚を捨てたことをはじめて悔やんだ。この光景を眼球で知覚したかった。 ヅダは、感動していた。 17
2015-11-03 11:33:32意思を持つ魔剣が冷たく、青く輝いた。 その刀身が黒く染まり、少女から肌色のもや を巻き上げる。 冷たい輝きはまたたく間に爆発的にふくれあがり、その中に冷気を孕んだ。 ヅダの部屋はメギドバーガーの冷凍庫よりも寒くなった。 20
2015-11-03 11:38:42「イヤーッ!」「グワーーーッッッ!!!」 恐しいほどの体積を得た局所的ダイヤモンドダストは獲物を狩る大蛇のごとく鎌首をもたげると、荒々しく「影」へ喰らいついた。 「アイエエエエエ!」あまりの冷気にヅダの鼻毛が凍りついた。 21
2015-11-03 11:41:06凍りついた鼻毛をあわててむしり取ると、全ては終わっていた。 少女は右手を虚空にかざす。その掌には、赤い渦が描かれている。 獲物を貪り終えた「魔剣」は、その掌へ吸い寄せられた。 「おいおい、まだ全部食ってないぞ」「次よ、次」「貪欲だなァお嬢」「あんたには負けるわ」「違いない」 22
2015-11-03 11:44:03「魔剣」が「渦」に吸い込まれてゆく。同時に、「影」の返り血で汚れたヅダの部屋も壊れたUNIXの火花に変わってゆく。 「弁償は、これで足りるかしら?」 「渦」から抜き出した金塊を投げ付けられ、ヅダは正気にかえった。 23
2015-11-03 11:46:00「なんなんだ……なんなんだ一体」 「あなたは狙われた。私はそれを狩った。それだけのことよ」 「どうして」「あなたは欲望に忠実すぎる。だから、『使いやすい』の。気をつけなさい」 「『使いやすい』…」 24
2015-11-03 11:47:25「おいおい。あんまり被害者に入れ知恵すんなよ。強くなれんぞ」「わたしは正義で居たいの。雑魚を育てて刈り取る、そんな情けない弱虫では居たくないのよ」 「あの……」「何」「せめてお名前を」 「名乗るような名はなくてよ」「そんな~」 25
2015-11-03 11:49:19