指輪にまつわるエトセトラ

国桜と指輪の話。
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※※※ @numa_fu

のちのち、最終決戦的なあれで桜哉と御国さんが一騎打ちすることになって、お互い泣きそうな顔で笑いながら同時に指輪を投げ捨てて戦いが始まる

2015-11-20 10:32:41
※※※ @numa_fu

「ごめんね、桜哉」 「…なんで椿さんが謝るんですか」 「でも、桜哉も桜哉だよ。自由にしていいって言ったのに、みーんな僕のところへ来ちゃうんだもの」 「それだけ、慕われてるってことでしょう」 「ふふ、嬉しいなあ。でも君は、彼のところへ行ってもいいんだよ?僕は、独りでも大丈夫だから」

2015-11-20 16:16:29
※※※ @numa_fu

「…“彼”って誰のことですか」 「誰でもいいよ?親友のところでも、恋人のところでも。…どっちにしろ、変わらないけどね」 …ああ、やっぱりこの男は優しすぎる。だから自分達が付いていてやらないといけないのだ。慕われていることにこれっぽっちも気が付かないどこまでも孤独な自分達の主。

2015-11-20 16:20:34
※※※ @numa_fu

「…オレ達には、椿さんがいないと何も出来ないんです。それに、アンタを独りにしたら何をしでかすか」 「貴重な桜哉のデレを聞けるのがまさかこんなところなんてね。いや、こんなところだからかな」 じゃあ、ちゃんと答えないとね。行こうか、桜哉。最後まで付き合ってくれる?

2015-11-20 17:00:28
※※※ @numa_fu

そう言って伸ばされた手があの日自分を救いあげてくれた手と重なって、ぐっと息を詰める。当然すぎることを訊く主に、思わずふっと笑いが零れた。 「何言ってんですか、当然でしょう」 ―たとえ、大切な人達と二度と笑いあえなくなっても。

2015-11-20 17:04:36
※※※ @numa_fu

「まさかこんな事になるなんてね。君とオレがこうして向かい合うことになるなんて、どんな運命の巡り合わせだろうね?」 対峙する先、悲しそうに顔を歪めながらわざとらしく手を広げる御国。付き合ってきた今だから分かる。これは全て御国の演技だ。

2015-11-20 17:20:26
※※※ @numa_fu

「そんな怖い顔しないでよ。これでも悲しんでるんだ。今まで楽しかったよ、ありがとう桜哉くん」 「まるで、これから死ぬみたいな言い方するんだな」 「死ぬかもしれないでしょ?これは戦争だ。犠牲なしには終わらないよ。それは桜哉くんも一緒だよ。いくら桜哉くんだからって手加減は出来ないな」

2015-11-20 17:32:15
※※※ @numa_fu

「は、そんなのいらねえよ」 「だよね」 静寂。周りの喧騒が掻き消え、一瞬この場には二人だけしかいないのだと錯覚する。この立場を選んだのは自分だ。手を差し伸べてくれた親友も、自分の全てを包み込んでくれた恋人も裏切って、自分は今ここにいる。左手の薬指で鈍く光る指輪が目に入った。

2015-11-20 17:52:12
※※※ @numa_fu

ある朝、ベッドで目が覚めたら突然嵌められていた指輪。プラチナ製のシンプルなそれは、シンプルである中に細やかな緻密さを漂わせていた。そういうものに疎くても一目で高級なシロモノだと分かる。 『びっくりした?』 けらけらと笑いながら紅茶のカップを片手にドアに寄り掛かり立っていた御国。

2015-11-20 18:01:10
※※※ @numa_fu

古い家具に囲まれて(御国曰く“アンティーク”らしい。前に古いって言ったら怒られた)カップ片手に佇む御国は悔しいが様になっている。その御国がカップを煽る左手の薬指にも、同じ鈍い光を見つけた。 『…なに、これ』 『指輪だけど』 『分かるわそんなん。なんでって、聞いてんの』

2015-11-20 18:09:35
※※※ @numa_fu

『オレ達ってさ、こういうの似合わないじゃない?』 『……?』 『だからだよ』 ベッドの方へ歩いてきた御国は、ベッドサイドの小テーブルにカップを置いた。そのままベッドに浅く腰掛けて、指輪が付いている方の桜哉の手に自分のそれを絡めた。カチ、と指輪同士がぶつかって遠慮がちに音を立てる。

2015-11-20 20:59:37
※※※ @numa_fu

『…意味わかんないんだけど』 少し前までの自分なら即座に手を振り払っていただろう。それをしないのは、自分達の関係が変化していたから。 歪んだ恋であることは分かっている。立場も、種族も、性別だって。でもこの“非普遍的”が、桜哉にはとても心地よかった。いつか終わると分かっていても。

2015-11-20 21:24:59
※※※ @numa_fu

はっ、と意識が浮上する。走馬灯のように再生された少し昔の記憶。きっとこの左手の光のせいだろう。結局、あれから一度も肌から離すことはなかった。 「『桜哉くん』」 記憶の声と、目の前の男が発した声が重なる。男を見ると、左手を桜哉に差し出すように開いて見せた。

2015-11-20 21:32:42
※※※ @numa_fu

男はそのまま左手を自分の口元へ持っていき、その指輪に静かに口付けを落とす。 「…好きだったよ」 「…ああ、オレも、好きだった」 言ってから、そう言えば自分は御国に直接気持ちを伝えたことがあっただろうかと考える。多分、ない。心のどこかで、御国の嘘くさい「好き」を信じていなかった。

2015-11-20 21:45:18
※※※ @numa_fu

指輪をくれた時でさえ、何だかんだ言いながらも、結局これは自分を逃がさないためのただの鎖なのだと思った。 でも、今の御国の顔を見ればよくわかる。数分前とは違う、御国の本心の顔。こんな時に気が付くなんて。 桜哉は御国と同じように、自分の指輪に口付ける。不思議と心は晴れていた。

2015-11-20 21:51:23
※※※ @numa_fu

「ふっ、」 「ははっ、」 同時に笑いが零れた。こんなところで、戦争の真っ只中で一体自分達は何をしているのか。周りから見たらさぞ奇妙だったに違いない。しかし周りは銃声や金属音が飛び交い、きっと誰も自分達に気が付いてはいないのだ。それが尚更可笑しくて、暫く二人で笑い続けた。

2015-11-20 22:00:59
※※※ @numa_fu

「はあ……さて、そろそろ時間かな」 「ああ…」 もう、十分だ。 「それじゃあ、戦争しようか、桜哉くん?」 「椿さんの真似か?似てねーな。そんな奴に負ける気はしない」 そもそも、いつかは終わるものだった。人間と吸血鬼、他にも隔てられた壁は厚く重く自分達にのしかかっていた。

2015-11-20 22:07:00
※※※ @numa_fu

その壁が壊れたのがたまたま今日だっただけだ。何も後悔はない。 御国が、ゆっくりと自分の左手の指輪を外す。桜哉も同じようにし、二人同時にそれを遠くへと思い切り投げ捨てた。カン、と指輪が地面に落ちる音が聞こえたような気がした。実際聞こえていたかどうかは分からない。

2015-11-20 22:11:06
※※※ @numa_fu

鎖だと思っていたものは、こんなにもあっけなく自分の手から離れていった。 (…なんだ、簡単なことじゃないか) 気付いたところで、もう遅いけれど。 ――これは、決別だ。きっともう以前のような関係には戻れない二人の、最初で最後の命を懸けた大喧嘩。椿なら笑ってくれるだろうか。

2015-11-20 22:15:43
※※※ @numa_fu

世界を揺るがす戦争中に何をしているんだと呆れられるかもしれない。…いや、やっぱり、きっと笑って応援してくれるに違いない。だってあの人は優しいから。 「行くよ」 「死んでも知らねーぞ」 「それはこっちのセリフ!」 ニヤリと互いに目を合わせ、走り出す。

2015-11-20 22:21:15
※※※ @numa_fu

すかさず銃を乱射してきた嫉妬の真祖を素早く交わして、主人たる男の元へと向かう。真祖と戦う時にはまず人間である主人から狙う。基本中の基本だが、真昼風に言えば“シンプルイズベスト”だ。 ナイフを構えて、男の首筋を狙う。確実に入ったと思ったが、するりと交わされていた。

2015-11-20 22:25:51
※※※ @numa_fu

「あっはは、そんな簡単な手に乗るわけないでしょ?」 「そんな簡単にやられちまったらつまんねぇよ」 言うねえ、じゃあ暫くは楽しませてくれるんだろうね?なんて、勝ちを確信したような物言いにカチンとくる。それでもやっぱり可笑しくて、時折双方からは笑いが零れた。

2015-11-20 22:30:26
※※※ @numa_fu

世界の運命を巻き込んだ痴話喧嘩。なんて贅沢で愉快なことだろう! この喧嘩の顛末は、未だ誰にも分からない。ただ一つだけ言えるのは、二人は確かに同じだけ互いを愛していたし、同じだけ愛されていた。 結果がどうであれ、今や土に塗れた二つの指輪は、確かに存在していたのだ。

2015-11-20 22:36:15