小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

「イチョウの葉？」 麗の手の中にある、綺麗な黄色。 「麗、実の方は触るなよ」 ニコニコと頷く娘に政は安堵した。 「かぶれたら一大事だ…俺はそれでも素手で拾わざるを得ぬ時もあったが…」「大王様…私も飢饉の時はそうでした」「そうか…」 その悲しみに、寄り添う秋－ #小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

楚子と喧嘩した翌日、奴が俺んちの庭で焚き火を始めた。 「狼煙のつもりだろ、ホラ行ってやりな」 姉に背を押されて行けど、楚子は背を向けたまま。 「オイ、楚…」 …パァーン！！ 「「わッ！」」 2人で腰を抜かした。 「焼き栗、戦で使えるな！」 「へッ…バーカ！」 #小さい秋見つけダム

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「あ、ぽんど～！」 「毅ィ！あれはトンボだよっ、ト・ン・ボ！」 「…トンぽ？」 「あぁ…オッシイなぁ！」 「フォ！だんだん言葉が増えてくるのぅ」 *** 「じーちゃんの肩車で見てるとさ、空が近いように見えたんだよねぇ」 「…今でも届かないですね、彼処までは」 #小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

「刈入れ終わったら…藁干して保存食作りだな」 「その後ズーッと草鞋編みか…つまんねぇ」 「…まともに編めないだろ信は」 「薪割りはやってンだろ！？」 *** (…もうそんな時期か) 畑に落ちる麦穂を拾いながら見た故郷の景色を…信は西陽眩しき戦地で思い出した－ #小さい秋見つけダム

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初めての狩りは、何も獲れぬ屈辱に満ちていた。 「賁様お気を落とされませぬよう」 父の隊と山程の獲物が目の前を通る。 (…あ) 足下でつやめく椎の実、俺だけの収穫。 「らいねんこそは…」 不思議な事にその実は夜袖から無くなると、翌日独楽になって己へ届けられた－ #小さい秋見つけダム

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『えっ、さっき腹一杯って…』 『もうッ！それは王騎様がいたからよ！』 それから行軍中、ボコボコにされぬよう必ず兎は残しておいた。何故かアイツが将軍になった後も。 *** 「録嗚未…焼き過ぎだぞソレ」 「あぁ…」 未だに太い兎の腿は、必ず残る。…馬陽の後もだ－ #小さい秋見つけダム

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落ちた柿を虫が齧り、それを狙いに鳥が来る。そこに狐が来るから… 『その狐を俺が射る…ッと』 恵みなんて言葉は、元々恵まれてる奴の驕り。俺は唯、掠奪の順番の最後にいればいい。 (山の教えに従ってただけだ) 全ては勝つためだ。熟さぬ青柿さえ、這う虫には生きる糧－ #小さい秋見つけダム

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「楓の葉が紅いのは、昔死んだ神の血を吸った為だって…里のバァが言ってた」 「へぇ…」 そんな話をしつつ焚き付けの落ち葉を集めた。やがて鼎の中から溢れる湯気に貂と羌瘣は恍惚となる。 「でもなぁ…やっぱり」「美味いよな」 温めた山羊の乳は、戦神でも止められぬ－ #小さい秋見つけダム

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「鶴翼…否…或いは敢えて退くか」 兵書を紐解く秋の長夜に… 「蛾か…」 幽けき闇に潜むそれを手で払う。その風に逆らえぬまま蛾は灯火に呑まれ… (鱗粉すら残らぬ、か…) この身は、風上におらねばならぬ。 「闇が濃き場所にも、山は在る」 例えうぬ等に見えぬとも－ #小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

「ホレ、これ食って眉間の皺取れ」 「あ、木瓜の干し果だ」「…美味い」 用意周到だ、と皆が視線を向ける。 「まぁこの隊はさ…男の汗臭い力と女子の柔軟な力で成り立ってるしな」 「我呂らしい意見だな」 岳牙の視線もふんわり流し空気を変える。秋雲の如く、風にノる男だ #小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

「…雨が降るかもしれません」「え…？こんなに晴れてるのに」「羊を早めに戻した方がいいでしょう…人もです」「？」 遠くから大きな灰色の叢雲－ 「遂にですね…」 冬前の略奪、否…もう何も奪われまいと… 「出陣！」 ただ闘う、雁門の嘆きを…血の雨を止ませる為に－ #小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

『見よっコレが趙軍の厩舎じゃ！』 『ワハーッ！』 ズラリと並ぶ馬は皆毛艶が良く、カッコ良い。 『秋は麦や豆を与えて肥やす』 『飼葉でなく？』 ドンと胸を押された。 『…冬を越す為じゃ』 殿が握る僕の指はまだ細かった。 拾われた年の秋、まだ剣は握れなかったな－ #小さい秋見つけダム

茂雛（もな） @mms_piyo

『やっぱ…似合わねぇなぁ！』 『余計な事言うなよ、翼』 『…ヘイヘイ』 芳しい蘭は、楚の謡でも馴染み深い。一輪でも薫り高く。 『麗！あら翼殿も』 『どーも』 『姉上、コレ臨武君から』 『まァ！』 *** あの時笑顔にした花は尚、秋風に揺れている。姉の胸中で－ #小さい秋見つけダム