シャドードッグ『宝で埋まる砂浜』

人に化けるミュータント、擬人を相手にバウンティ・ハンターが戦う! 戦えシャドードッグ!
0
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

灯台めいて海際に建つポートタワー周辺刑務所を取り囲む塀は、擬人の脱獄を阻むためにかなり高い。その塀を見上げるようにして、バウンティ・ハンター協会の神戸支部は建っている。賞金として支払われた電子通貨『ポイント』を物理通貨に換金するため、そこにシャドードッグは訪れていた。

2015-11-24 21:50:51
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

支部には数人のハンターがおり、各々換金や人探しや護衛の依頼のチェックをしている。協会に登録しているハンターのほとんどは依頼を請け負うなんでも屋として日銭を稼いでいるのだ。シャドードッグは擬人や賞金首の捕縛及び殺害をメインとしているが、擬人の現れない日が続けばその限りではない。

2015-11-24 21:53:04
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

残り少ないポイントの換金を終え、支部を出たシャドードッグを呼び止める声。「なああんた、戦う方のハンターだろ? 見りゃあ分かるんだ」立ち止まった彼に、大きなリュックを背負った外国人の男が流暢な日本語で続ける。「俺はこの辺でジャンク屋をやってるんだが、護衛を頼まれちゃあくれないか?」

2015-11-24 21:54:47
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

男は懐から取り出したナイフの切っ先で自分の人差し指を撫でた。男の指先に赤い線が浮かぶ。「ここではなんだ、場所を変えよう」シャドードッグは通りの喫茶店を指差した。

2015-11-24 21:57:11
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

古びたCDプレーヤーがクラシック音楽を再生し、危険極まりない外界に疲れた客を癒している。『太陽と月』。支部の近くに建っているためハンターたちがよく立ち寄る喫茶店だ。「ごゆっくりです」尻尾のない従業員フェンリルが二人の前にコーヒーを置き、空いているカウンター席に腰かけた。

2015-11-24 22:01:31
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

コーヒーを一口すすってから、トレイルと名乗った外国人は声をひそめる。「須磨の海岸、知ってるだろ。あそこはミチキやらテッコンやらが色々捨ててくから重宝してたんだが、最近メカニック野盗どもが住み着いてな」シャドードッグはコーヒーにミルクを注ぎながら言った。「それで護衛が欲しいと」

2015-11-24 22:04:19
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「その通りだ。頼めるか?」「いくらだ?」トレイルは人差し指を立てた。シャドードッグは思案するようにカフェオレ色のコーヒーを口に運ぶ。「悪いがこれ以上は出せないぜ。こっちもギリギリなんだ」彼は空になったコーヒーカップを皿に戻して言った。「支払いは現金。半分は先払いだ」「オーケイ」

2015-11-24 22:06:02
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

シャドードッグ『宝で埋まる砂浜』

2015-11-24 22:06:26
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

須磨海岸。淡い虹色の光を放つ海のそばを申し訳程度の装甲を追加した武装バギーが走る。海とバギーの間にはスクラップが山積みになった砂浜が存在し、陸に住む人々と工業廃水に汚染された海を隔てるバリケードと化していた。潮風が腐食した金属を撫で、辺り一帯に吐き気を催す臭いを漂わせている。

2015-11-24 22:09:25
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

バギーは『海を綺麗に』『名乗り出れば不法入国ではない』などの看板がかかったフェンスの前に停まった。フェンスの向こうでは山積みになったスクラップが海の光を浴びている。「じゃあ頼むぜ」トレイルがフェンスの穴を通り、砂浜に入る。シャドードッグもマントをひっかけぬよう砂浜に入った。

2015-11-24 22:11:54
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

『まだ昼なのに暗いわね』マントから出た右腕の端末からミキが言う。「そういう場所だ」シャドードッグは振り返る。汚染された海の輝きを“海上のオーロラ”として楽しむ権力者や金持ちのためのレストランビルが立ち並んでいる。海の光を阻まぬよう街灯は取り払われ、薄暗い空だけが街を照らしている。

2015-11-24 22:13:53
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

山積みになった数世代前の義肢や効果がないと証明された超能力開発キットなどの間を抜け、状態のいいパーツを回収しながらトレイルは砂浜を散策する。シャドードッグはその後ろで辺りを警戒し、時折ガラクタを拾い首をかしげては放り捨てていた。『今のは?』「分からん」その時。「チェーッヒヒヒ!」

2015-11-24 22:15:48
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

スクラップの影から奇声をあげ何者かが跳躍した。振り上げた右腕は肘から先がチェーンソー! 改造した機械義肢を装備するメカニック野盗だ!「チェエーッ!」メカニック野盗はシャドードッグに向かいチェーンソー義腕を振り下ろす。シャドードッグはそれを難なく回避し、トレイルを突き飛ばした。

2015-11-24 22:17:54
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「下がっていろ」「あ、ああ!」「だが離れすぎるな」「どっちだよ!」距離をとったトレイルを後ろ目に見て、シャドードッグはチェーンソー野盗の出方を見る。ゴーグル型機械義眼の中を二つの光が忙しなく動いている。無理な義体化を繰り返したことによって精神に異常をきたしてしまったのだろう。

2015-11-24 22:20:05
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

文字にならない奇声をあげてチェーンソー野盗が駆け出した。右腕のチェーンソーが砂を巻き上げながらシャドードッグに迫る! シャドードッグは回転刃を跳躍して回避し、そのまま後ろ回し蹴りを叩き込んだ! 蹴りを受けてよろめいたメカニック野盗のチェーンソーが砂浜に突き刺さり、砂を巻き上げた。

2015-11-24 22:21:52
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「ペッ! ペーッ!」高速で巻き上げられる砂を顔に受けてメカニック野盗はチェーンソーを停止させ、引き抜いた。「オオオッ!」シャドードッグの右拳が義眼ゴーグルに覆われたこめかみを捉える!「グウェッ!」義眼ゴーグルにノイズが走り、バランスを崩した野盗に追撃を――「下がれ!」

2015-11-24 22:24:08
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

声と同時にシャドードッグとチェーンソー野盗の間に火炎が割って入った。『上よ、パパ!』ミキの声にシャドードッグはスクラップの山を見上げる。ひょっとこのように口の突き出たマスクで口元を覆った男が虹色の光に照らされて立っていた。マスクから伸びたチューブが背中の燃料タンクに繋がっている。

2015-11-24 22:26:00
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「下がれマサ、二人で攻めるぞ!」「アニィ!」チェーンソー野盗、マサはチェーンソーを停止させ、アニィと呼んだガスボンベの男の元へ駆け寄る。アニィはスクラップの山を滑り降り、マサと並び立った。その左腕は手首から先が金属棒になっている。「ミキ、頼むぞ」『オッケー』

2015-11-24 22:28:15
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「イヨオッ!」ポン! 着火音とともにアニィのマスクから火球が飛ぶ! シャドードッグはマントでそれを払いのけた。彼のマントは強い耐火性を誇る強化フェンリル革製だ。払ったマントの向こうから重い回転音! チェーンソーだ!『後ろに跳んで!』シャドードッグはバックステップ回避!

2015-11-24 22:30:29
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

ポン、ポポン! 火球とチェーンソーのコンビネーションは彼に反撃の隙を与えない。じわじわと追い詰められ、彼の背にはスクラップの山が迫っている。「どうすればいい」『まず火の玉の方をなんとかした方がいいわ。だから』「こうだな!」シャドードッグは振り返り、スクラップの山めがけ駆け出した。

2015-11-24 22:32:37
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「逃がさんぞ!」ポポン! 火球が形の悪い黒き犬の意匠の施されたマントを襲う。「グウッ……!」耐火性と言えども熱いものは熱い。シャドードッグは表情を歪ませながらスクラップの山に足をかけた。「チェエェーッ!」突き出されたチェーンソーが背後から迫る!

2015-11-24 22:34:14
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

シャドードッグはスクラップを踏み台に回転刃をバク宙回避! マサの突き出したチェーンソーがはためいたマントの端を掠め、スクラップの山に突き刺さる。右腕を突き出した前傾姿勢のマサの背中を踏み、アニィめがけ走る!「チェアァ!」シャドードッグをマサが追う。BANG!「アギッ!?」

2015-11-24 22:36:36
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

マサの足を銃弾が貫いた。マサが銃弾の飛んできた方向を見ると、そこには拳銃を構えたトレイルの姿があった。「最低限の武装はしてんだよ、俺もな!」彼はなおもシャドードッグを追おうするマサの足を撃つ。「チェーンソーは気にしなくていいぜ!」『だからって割引はナシだからね!』「マジかよ!」

2015-11-24 22:38:27
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

「マサ! ……よくも!」ポン! アニィは向かってくるシャドードッグへ向け火球を発射! シャドードッグは火球をマントで回避し、距離を詰める! ポン! マント! ポン! マント! ポン! マント! ポン! マント! ポン! マント! ポン! マント! ポン! マント! ポン!

2015-11-24 22:40:29
しずにえ @4z2E_PK0ZYHD

もはやマントで払う必要はない。二人の間合いは拳が届く距離だ!『待って、あの左手――』「オオオッ!」屈みこむように火球を回避し、ボディブローを叩き込む!「ゴボ……オオオッ!」火炎放射マスクから苦悶の声を漏らしながらアニィは左腕を振り下ろした。「ガアアッ!?」おお、どうしたことか!?

2015-11-24 22:42:22