信五先生とみかん狩り

∞すみれ∞ @magic88word

1 引っ越してきて数ヶ月 この町にも しんちゃんとふたりの生活にも やっと慣れてきた 毎日バタバタと忙しいけど 新しい保育園のおかげで 気兼ねなく仕事することができる そしてほんの少し… 信五先生に会えるのが 嬉しかったりする

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2 入園手続きの日に 告白めいたことを言われたけど ひとりでしんちゃんを 育てるのに必死で 今まで正直そんなこと 考えたこともなかった 信五先生は 返事を急かすわけでもなく …むしろあれ以来 そんなことは口にしなかった

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3 いつも時間ギリギリに お迎えに行く私を 笑顔で迎えてくれて 用事がないときは 一緒に帰ってくれる うちの家まで15分ほど… 並んで歩くだけ 中学生みたいだけど それだけで私は満足してる 信五先生はどうなのかな…？ 聞きたいような このままでいいような…

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4 『すみません！遅くなって…』 「おかえりなさい～ しんちゃん、ママやで」 『しんちゃんただいま… 遅くなってごめんね』 しんちゃんが遊んでいた おもちゃを片付けてるうちに 手早く戸締りをして 信五先生が戻ってきた

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5 「お外は寒いから着とこか〜」 そう言いながら しんちゃんに上着を着せてくれてる 「おっしゃ帰ろか」 『すみません…ほんと いつもギリギリになっちゃって』 「そんなん、 こやって一緒に帰れるし」 『え？』 照れることサラッと言ってる 信五先生を慌てて追いかけた

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6 ふたり並んで 自転車を押して歩く 私の後ろに乗せたしんちゃんを 見守るみたいに 少しだけ後ろから歩いてくれてる 『あ、お弁当のおかず買わなくちゃ』 明日は保育園の遠足 しんちゃんもずっと前から 楽しみにしてる

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7 スーパーの前で自転車をとめる 信五先生に初めて会ったのも ここだったな 「僕ここでしんちゃんと待ってます パパっと買い物してきてください」 スーパーの前の自販機コーナーで 早速しんちゃんは ジュースを選んでる

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8 『じゃあお言葉に甘えて… しんちゃん、いい子にしててね』 「あの…！」 『え？』 「もしよかったら…なんやけど」 『？』 「僕のお弁当も作ってくれたり せーへんかな…て」 『え…』 「いやいや…やっぱり…すいません」

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9 『お料理…得意じゃないですよ？』 「え？そんなん全然… やったー！ほんまにぃー？」 こどもみたいに喜ぶ信五先生 わー！どうしよ 献立考えて今夜は眠れないかも…

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10 大慌てで自転車をこぐ…！ お弁当を作るのに手間取って 遅くなっちゃった しんちゃん以外の人に 作るお弁当なんて久しぶりすぎて いろいろ考えた結果やっぱり しんちゃんの大好きな 唐揚げと卵焼きに落ち着いた

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11 『気をつけて行っておいでー』 しんちゃんにリュックを背負わせて 信五先生を探す こひつじ組さんのお部屋の前は お母さんたちでごった返してる あ…信五先生…

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12 "信五せんせー！これどうぞ♡" "あら、りょうちゃんママ なに？その大きな風呂敷包…" "信五先生のお弁当よ！ 上が幕の内、下の段はフルーツね" "ぶっ、フルーツって！ みかん狩りに行くのにあなた…"

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13 "きゃはは！バカねー 信五先生はサンドウィッチが 好きなのよ～はい♡せんせー" "すーくんママうぐいす組さんでしょ しゃしゃり出ないでよ！" "いーじゃないの〜" …す、すごい 豪華なお弁当がたくさん とても私のお弁当なんて…

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14 職場に持ってったら 誰か食べてくれるかな… そう思ったとき 後ろで声がした 「うわ～こんなよーけすんませーん ただねー僕… 彼女に作ってもろたんあるんです」 "えー！！彼女ぉー！？" "いやーっ！信五先生彼女いるの？"

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15 "しょうがないわね…じゃあ うぐいす組さんの大倉先生でいっか" "ちょっとりょうちゃんママ！ うぐいす組まで荒らさないでよ" "すーくんママに言われたくないわよ" お母さんたちは大騒ぎで 隣のクラスに流れていった

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16 「おはようございます！」 『お…はようございます…あの…』 「これ、僕のですよね」 『でもやっぱり… あんな…全然豪華じゃないし…』 「ええの！喜んでいただきます」 『あ…』

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17 「彼女のお弁当…とか言うてもーた …怒ってます…？」 『え、っと…そんな』 「みかんいっぱい取ってきますね」 私の手からお弁当の包みを取ると 二カッと笑って 信五先生はお部屋に戻って行った

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18 今日は遠足だったから 早く帰ってあげないと… そう思って 少し早く職場を出たけど やっぱり今日も お迎え最後だったみたい 『遅くなりました…！』 「あ、おかえりなさい… しんちゃんさっきまで 起きてたんですけど…」

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19 机に座ったしんちゃんが オレンジのクレヨンを 握ったまま眠ってた 「しんちゃん… みかん狩りの絵描いてたんです ママに見せるんだーって」 『…しんちゃーん、ただいま』 "…zzz" 『ねえちょっとだけ起きて…』

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20 みかん狩りではしゃいで 電池切れのしんちゃんは どうやっても起きなくて 自転車の後ろに乗せて 押して歩いた たくさんあった荷物は全部 信五先生が自分の自転車に積んで 運んでくれた

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21 『ほんとにいつもすみません…』 「そんな謝らんといてください」 『他のお母さんの目とか… 私ご迷惑おかけしてるんじゃ…』 「こども達のことは 分け隔てしてないですから…！」 信五先生はそう言って うちに着くと 荷物をサッと背負って しんちゃんを抱き上げた

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22 慌てて信五先生についてって ガチャガチャと 部屋のドアを開けた 『ありがとうございます』 先に上がって横抱きになった しんちゃんを受け取るけど 信五先生も手を離さなくて ふたりでしんちゃんを 抱っこしてるみたいになる

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23 『あ…の…』 「あの… 僕、一目惚れした言いましたけど 変わってないですから…その もっと好きになってるっちゅうか 特別な存在っちゅうか…」 顔を上げたら 予想外に近いとこに 信五先生の顔があって目が合う 恥ずかしくて逃げ出したくて でもしんちゃんが落ちちゃうし

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24 動けずにいたら ひとつ大きく息を吸って 信五先生の唇が重なった… "…ん、んー" しんちゃんがなにか言って 慌てて離れた 「…寝言…？」 『…みたいです』 「しんちゃん寝かそか」 『そうですね』 しんちゃんを受け取って ベッドに運んだ

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25 玄関に戻ると 信五先生がリュックから 袋を取り出した 「しんちゃんもお土産のみかん 持って帰ってますけど これは僕からの… お弁当美味しかったです！ 特に卵焼き、僕好みの味付けで」 『お口に合いましたか…？』 「今度は一緒に食べたいなーって」