小説「社長少女」榊正宗 冒頭部分本文をツイッターにて公開

社長少女冒頭1万文字の全文公開ツイートです!
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榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

それは余りにも出来すぎたストーリーだったので、ライバル企業の陰謀だといううわさがネットに流れたものの証拠らしきものはなく、バグそのものが非公開のプログラムに起因していたことから、それらは単に匿名掲示板のうわさの域を出ないものとして、いつしか忘れ去られていった。

2015-12-15 20:25:33
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

会社の破綻はその保証に関するトラブルが発端だったが、もっとも致命的だったのは、創業者である天宮総一郎(そういちろう)の体に巣くったバグ、つまりは病魔、病名で言えばすい臓がんが全身に転移していたことだった。

2015-12-15 20:27:07
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

その、あらがえない呪いによって、世界に類を見ない発想を持った天才的経営者の頭脳はこの世界から完全に消滅したのだ。その頭脳を失ったワンマン企業の末路は推して知るべしという結果を迎えたのである。pub.fundee.in/projects/view/… PDF、Kindleはこちらで公開中です!

2015-12-15 20:28:51
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

田園調布に君臨していた天宮御殿と呼ばれる天宮総一郎の自宅には、債権者の委託を受けた業者やヤクザのような、ガラの悪い取り立て屋が殺到していた。

2015-12-15 22:05:03
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

この天宮御殿は、ぼくがふだん散歩しているコースからよく見える場所にあったが、漫画にでも出てきそうなほどのいかにも金持ちが住んでいそうな、世界遺産をそのまま小さくしたような外壁が印象的な建物だった。

2015-12-15 22:10:36
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

その御殿の中にぎっしりと詰められた大英博物館に展示しても恥ずかしくない世界中から集められた宝物の数々は、日曜日に公園で行われるバザーよろしく差し押さえのふだが貼り付けられ、あたらしい主人の元へ送られるのを今か今かと待っているように見えた。

2015-12-15 22:11:53
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

そこに一人、長く美しい髪をした、おおよそバザーの売り子には見えない高貴なたたずまいをした少女が、淡々とその行く末を見守っていた。

2015-12-15 22:13:25
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

美しい目、美しい手、美しい髪、 どうして俗悪なこの世の中に、こんなきれいな娘がいるか…というのはある小説の一文だが、そんな言葉もつぶやきたくなるほどに少女は美しかった。身長は一五〇センチメートルよりやや低いくらい。

2015-12-15 22:14:44
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

見た目の年齢は、高校生にしては少し幼いが、小学生ほど幼くもない、大人でも子供でもないような年頃に見えた。その容姿をひとことで例えるなら「天使」と言っても差し支えのない特別なオーラを漂わせていた。

2015-12-15 22:16:11
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

その少女が微動だにせず腕を組んで立っているので、御殿の宝物のひとつに間違えられて、どこかへ配送されるのではないかと心配してしまうほどであった。

2015-12-15 22:18:23
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

広大な御殿に、宝物を運び出す作業者をのぞけば住人の姿はなく、その天使のような姿をした高貴な少女ただ一人だけが御殿の最後を事もなげな様子で見届けていた。

2015-12-15 22:19:54
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

もちろん、その少女は御殿の宝物でも備品でもなかった。その少女こそ、天宮総一郎の一人娘、天宮翼(あまみやつばさ)であった。 pub.fundee.in/projects/view/… … PDF、Kindleはこちらで公開中です!

2015-12-15 23:03:32
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

天宮翼は恵まれた環境で育った筋金入りのセレブだった。学校は裕福な娘が多い名門の女子校ではあったが、天宮翼はその中でも明らかにトップクラスの容姿と頭脳、高貴な気品を兼ね備えていた。

2015-12-16 00:08:33
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

そんな天宮翼が、かつて栄華を極めた天宮翼が、今置かれている状況は、どうひいき目に見ても絶望的と言える状況だった。すべての資産は差し押さえられ、いずれはこの屋敷も人の手に渡る。明日にはもう住む場所もなくなるかもしれないのだ。天宮翼の幸せだった世界はもはや終わりを迎えようとしていた。

2015-12-16 00:08:51
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

「お嬢さん、ここの家の人かなぁ? 破産管財人を担当してるものです」部屋の隅でたたずんでいた天宮翼に小太りでスーツ姿の男が話しかけてきた。「はぁ……天宮総一郎の娘です…なにか御用ですか?」天宮翼は相手の濁ったような目が疑念に満ちているのを感じて、ため息まじりの小さな声で返事をした。

2015-12-16 00:09:06
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

「お嬢さんの後ろにある大きな箱を見せてもらっても、いいですかねぇ?」「た、ただのガラクタです。自分で処分しようと思って、ここにまとめてあるんです」「いやぁ、よくあるんですよねぇ。ゴミに見せかけて財産を隠そうとするケースがねぇ」

2015-12-16 00:09:16
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

天宮翼は何度も何度も躊躇(ちゅうちょ)した末に、天岩戸を開く引きこもりの神様のように、やっとしぶしぶ箱を開いた。そこには古今東西のあらゆるゲーム機のハードやソフトがぎっしり詰まっていた。

2015-12-16 00:09:39
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

高貴なお嬢様の絶対に人には見せられない秘密の宝箱。天宮翼にとってそれは自身の内面世界そのものだった。単にゲームが好きというだけでなく、そのコレクションはそれを買ってくれた父との絆(きずな)でもあった。

2015-12-16 00:10:10
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

もし、このコレクションを失えば自分が作り上げてきた小さな世界は終わりを告げてしまうだろう。「ああ、やっぱり。これは非道い。あのねぇ、お嬢さん、この家の財産すべてを競売にかけて現金にして、それでもあなたのお父さんが世間に迷惑をかけた損害の、ほんの一部にしかならないんですよ!」

2015-12-16 00:10:46
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

「こんなに隠して泥棒と同じですよねぇ! 親が親なら子も子ですよ。世間であなたのお父さんが何て言われていたか知ってますか? 社会のゴミですよ!社会のゴミ! わかりますかぁ!」「おやおや、随分仕事に精が出ているようですなぁ」

2015-12-16 00:11:05
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

二人のあいだにヤクザ風の男が割って入ってきた。傷だらけの顔、縁なしの眼鏡、ソフト帽に白のスーツ、紳士的な格好だが明らかにその風格はかたぎの人間のそれではない。「な、なんですかねぇ? さ、債権者の方でしたら財産の配分は後日ですので……」

2015-12-16 00:11:14
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

小太りの男は、ネットの匿名掲示板を読み上げるように言葉を続けた。

2015-12-16 00:10:56
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

小太りの男は相手の気迫に気押され気味にそうに言った。「ああ、これはガラクタですわ。競売にかけても値段はつきませんぜ! 昨今、破産管財人の不正もあるんでね。社長に見てくるように言われてたんでさぁ。しかし――」ヤクザ風の男は小太りの男をにらみつけながら続ける。

2015-12-16 00:11:23
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

「子供のガラクタを差し押さえるのに無駄に時間を使っているようでは、債権者としても、だまっていられませんがね」少し震えながら、箱をぎゅっとにぎる少女の手を見て、そのヤクザ風の男は箱のふたを丁寧にしめるとゴミ収集用のシールを貼りつけた。

2015-12-16 00:11:32
榊正宗@BlenderQuiz @megamarsun

再度ヤクザ風の男がにらみつけると小太りの男はそそくさとその場を立ち去っていった。「ここにあるガラクタの処分はお嬢ちゃんにおまかせします。ただ……自分のようなヤクザ者が言えた義理じゃあねぇが、財産なんてものは執着すればするほど人を不幸にする。

2015-12-16 00:11:40