【ボーン・イン・ザ・スレイヤー】#9638njsly

黒宮(@km_correre)の二次創作ニンジャです。虚実転換前提のフジキドのクリスマスです。宿敵は匂わすくらいにしてあります。
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黒宮 @km_correre

【ボーン・イン・ザ・スレイヤー】前編

2015-12-24 13:21:35
黒宮 @km_correre

キョートにも雪は降る。その雪ですら奥ゆかしいのがキョートだ。その日フジキドは任務も無しに居室から外を見ていた。その日はそう、その日。典型的日本人ならば無条件に喜ぶ。祝う。メリークリスマス。何処かの聖人の誕生日。フジキドはぼんやりとその日について思い耽っていた。1

2015-12-24 13:21:59
黒宮 @km_correre

雪が降ると音は吸われる。フジキドは羽織りの首元をずり上げた。いかな立派な城とてこのマッポーの世。寒さにはいささか弱い。居室は歴史の重みを感じる畳敷き。だがかつて俗物であり、今も小市民的感覚を持つフジキドは温情で、部屋にコタツを置いている。冬はもっぱらこの中だ。2

2015-12-24 13:22:57
黒宮 @km_correre

この中では時間の流れが緩やかだ、とフジキドは常常感じている。それは過ごす者達の所作であるし、それは古代からのパワーを持ったアーティファクトがしっかりと収まっているからにほかならない。フジキドは装束を纏ってはいないものの背を伸ばし胡座をかいていた。 3

2015-12-24 13:24:00
黒宮 @km_correre

それというのもたった数年前のこの日に思いを寄せていたからだった。数年……数十年である気もするし、たった七日間しか経っていないようにも感ずる。1人で思えば思うほど精神へ働き掛けるものがひとつ。そう、切って離せない彼のソウルである。((そこそこに長い付き合いよの)) 「黙れ」4

2015-12-24 13:24:58
黒宮 @km_correre

宿敵・ラオモトを打ち倒し眠ったこのソウルを再び起こしたことは、はたして正しい行いだったのか、今でもフジキドは悩む。力の共振...行う度に重大なピースを落としてきたように思えるのだ。それがどのような物か?今のフジキドには理解することは出来ない。((イクサは無いのか)) 「無い」5

2015-12-24 13:26:32
黒宮 @km_correre

ソウルの悪しき囁きに短く答えていると、居室へ顔なじみがやってきた。「フジキド=サン!なにしてンの?」シルバーキー。このニンジャは極めて強力なユニーク・ジツを行使するものの、身内にはとても人間的だ。「なにも。今日は任務が無いのでな」「フーン。ケーキ食う?」6

2015-12-24 13:27:38
黒宮 @km_correre

「その為に来たのではないのか」「ま、そうだけど…」シルバーキー、カタオキはそそくさとコタツへとお邪魔した。「キョートで雪が降るって相当だぜ?オレでも、エート...10回もないくらい」「そうか」他のニンジャ、特に協力の間柄である者と共に居ればソウルは意識の淵へ沈んでいく。7

2015-12-24 13:28:44
黒宮 @km_correre

カタオキは思い出したかのようにフジキドを指さした。「そうだよアンタ!」「指をさすな」「ハッピバースデー!」「...私は誕生日ではない」カタオキは無邪気に笑う。「いや、ホラ...ニンジャスレイヤー=サンのさ」殺戮者の誕生日。聖人の誕生日ではなく。「...」「じゃあアンタの命日」8

2015-12-24 13:30:29
黒宮 @km_correre

「それは...ある意味では間違っておらぬが」「やっぱり誕生日の方が嬉しいだろ!ハッピバースデーだ!」カタオキはよく笑いよく喋る。一見するとニンジャらしくない男である。「嬉し...くはない」「喜べよ」「考えがごちゃごちゃと散らばるのだ」「マジメだもンなあ」 「……」9

2015-12-24 13:31:49
黒宮 @km_correre

実際、振り返ってみれば喜ばしい事のはずなのだ。このキョートにてロードにお使えできる立場であるのだから。懲罰騎士と同等の、システムの外に置かれたニンジャスレイヤー。1人の男の悲しみと血と怨嗟から生まれた殺戮者の誕生を...祝って良いものだろうか?フジキドには解らない。10

2015-12-24 13:32:49
黒宮 @km_correre

カタオキは一緒に買ってきたであろう紙皿などを出し、本格的に祝いの席を作るつもりだ。いくら拒もうとも帰りはしないだろうし、ケーキは無駄になってしまう。「..チャを淹れよう」「おおっ!」祝う者がいるのならば祝われよう。フジキドはシンプルに、そう考えた。意識下のソウルは眠っていた。11

2015-12-24 13:34:47
黒宮 @km_correre

【 ボーン・イン・ザ・スレイヤー 】後編に続く。

2015-12-24 13:36:21
黒宮 @km_correre

【ボーン・イン・ザ・スレイヤー】後半

2015-12-25 01:11:30
黒宮 @km_correre

────深夜。暗さも満ちる中煌めくような雪が儚げに降り続いている。猥雑なテレビ番組からは宣伝宣伝、また宣伝。まるで洗脳だ。ニンジャスレイヤーは思う。ラジオがわりに流していたテレビを消す。今日は殺戮者の誕生日であるのだから、こんなものはいらない。居室のフスマを開け外を見た。12

2015-12-25 01:12:05
黒宮 @km_correre

いつか見た、懲罰騎士と共に舞った空だ。舞った...それは比喩に過ぎない。刀をかわし、拳をぶつけ─罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰罪罰そう、彼とキョートの月を見ていたのだった。古代の趣、変わらない月をだ。こんな日でも彼は任務なのだと聞いていた。少し、虚しさを感じる。 13

2015-12-25 01:13:26
黒宮 @km_correre

木製の枠。音もなく開く窓から手を出す。冷たい。温度差で感覚が鋭敏になっていく。指先に雪が落ち、雫へ変わる。そこへ上から影。それはひたりと殺戮者の手に触れた。「……カタクラ=サン」「冷えるぞ」部屋より窓から来る方が多いのではないかと、フジキドは思い馳せる。「オヌシこそ」14

2015-12-25 01:14:40
黒宮 @km_correre

「手が見えたのでな」「入り口ではない」「開けたのは貴様だ、フジキド=サン」「屁理屈を」「気にするな」軽口のような、じゃれあいのような。そばから見ればやっかみ合いにも見えるはずだ。でも、この男との距離はこの距離だと、ピースがハマるようだと、殺す男は思う。15

2015-12-25 01:15:47
黒宮 @km_correre

「甘い」「…シルバーキー=サンが居た」「菓子か?」フジキドは空を見納め、窓を閉めた。「私の、誕生日などと言ってケーキを」何故かフジキドは彼を振り向けずにいた。「誕生日」「殺戮者の、だそうだ」「そうか」後ろで音。座る衣擦れの音だ。フジキドは振り向けない。16

2015-12-25 01:16:26
黒宮 @km_correre

「いつか話したな、お前に」「……」「家族をなくした話を」ニンジャスレイヤーは思う。居室に雪が降り始めたと。それは気配である。語り口である。「ナムアミダブツ、フジキド=サン」張り詰めている。傷ついた者が醸すアトモスフィアで苦しいほどだ。「そして」 17

2015-12-25 01:17:52
黒宮 @km_correre

「ハッピバースデー・ニンジャスレイヤー……サン」冴えた空気はぬるんだ冬の温気へと戻る。「オヌシまでそんな」「ロードのご意思だ」「なるほど」はっきりと言われてしまえば頷く他ない。フジキドはようやくカタクラと向き合い、座った。相変わらず読めない表情をしていた。18

2015-12-25 01:19:44
黒宮 @km_correre

祝われる以前に、自分には本当に救いようの無い理不尽な悲劇があった。あったはずだがそれは記憶の輪郭を亡くし、衝動として中から突き上げるばかりであった。悲しみに身を浸したくも言葉が亡い。目の前の男と歪に支え合うくらいしか出来ることは無かった。19

2015-12-25 01:20:49
黒宮 @km_correre

「どうして、オヌシらはこう……」「今日だけだ、折角なのだから意味もなく祝われておけ」ハッピバースデー・ニンジャスレイヤー。謎深いキョート城に渦巻く格子の中であれば彼らは平穏に。平穏に過ごせるのだろうか?綻びは生まれ始めている。今晩はこの城も雪化粧に身を包むであろう。 20

2015-12-25 01:22:14
黒宮 @km_correre

【ボーン・イン・ザ・スレイヤー】終わり。

2015-12-25 01:23:04
黒宮 @km_correre

〜後書きのなんか〜 設定を層に絞りすぎたとハンセイしているところです。虚実転換法は本当に素晴らしいものです。今度はもっと気合入れて書きます。ありがとうございました。◆終◆

2015-12-25 01:24:50