【ミイラレ!第二十八話:悪戯ジャックのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。悪戯ですむのだろうか。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/921551
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第二十八話:悪戯ジャックのこと】 #4215tk

2016-01-04 20:03:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

人間誰しも居心地の悪い思いをすることはあるだろう。しかし、今の自分ほど微妙な立場に置かれた人間もそういないのではないか。神社への道を歩きながら、怜はげんなりとそう思った。なにしろ周囲にいるのは怪異ばかり。それも揃って強力な連中ばかりときた。1 #4215tk

2016-01-04 20:06:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「充虎ちゃんが戻ってこねえから、心配になって来ちまったけど」ぼやくように言ったのは赤づくめの女。道を行く一同の中でも頭一つ抜けて背が高い。その口は大きなマスクで覆われている。「まさか入れ違いになるとはなぁ。なにが悲しくてこんな陰気くせえ鬼女と……」2 #4215tk

2016-01-04 20:09:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「さっきからそのぼやき、わざとやってんのかい」今まで聞き流していたらしい当の鬼女、巡がさすがに苛立ったように口を開いた。「ちっとは黙って歩いたらどうだ。こっちまで辛気臭くなる」「元から辛気臭い女がなに言ってやがんだか」売り言葉に買い言葉。肩身が狭い。3 #4215tk

2016-01-04 20:12:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『やれやれ。見苦しいことこの上ないの』うんざりとした声を上げたのは怜の首元に巻きついた朽縄御前。『子どもじゃあるまいし、もうちっと静かにしたらどうじゃ?おっと、片方はまだ子どもじゃったかの』「ガキ扱いすんじゃねえ。ぶち殺すぞクソヘビ」「ああ言えばこう言う……」4 #4215tk

2016-01-04 20:15:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

呆れた様子で巡が首を振った。どこからか取り出した扇子を開き、口元を隠す。「いったいどこの誰に似たのやら。親の顔が見てみたいもんだ……まあ飽きるほどに見てるんだがね。あんまり口が過ぎるようなら、ちと北山のと話し合わにゃならん」「あ、卑怯だぞテメエ!」5 #4215tk

2016-01-04 20:18:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あからさまに狼狽え始めた赤づくめの怪異……口裂け女こと龍造寺 美咲を見て、白蛇が笑った。『ほほほ!親に頭が上がらぬところなどまさに子どもむぐっ』「それくらいにしておいて、御前様」片手で白蛇の頭を包み込むようにして黙らせた怜は、小さく溜息をついた。6 #4215tk

2016-01-04 20:21:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

改めて怪異と一緒に行動すると、よくまあ四季は彼らといられるものだと思う、この場にいるのが見知った怪異の中でも特に口の悪い面々であることはさておくとしてもだ。怪異と暮らして平静を保っていられるのはもはや異常というほかない。自分と四季。この差はどこから来るのやら。7 #4215tk

2016-01-04 20:24:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ギスギスした空気の中、美咲はなおも不満げにぶつぶつ呟いている。憤懣やるかたなしといった有様。正直近くでこれをやられると怖くて仕方がない。だがまあ、四季の側にいるとはこういうことだ。いずれ慣れることを願おう……とりとめもなくそんなことを考えていたそのときだ。8 #4215tk

2016-01-04 20:27:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

三人は同時に足を止め、同じ方角へと振り返る。『怜』「わかってる。今、誰か見てたね」朽縄御前に答えつつ、怜は眼を細めた。視線の主の姿はない。もう逃げ去ってしまったのだろうか?「ムカつくぜ。こそこそしてねえで出てこいっつーんだよ」吐き捨てた美咲が早々に歩き出す。9 #4215tk

2016-01-04 20:31:46
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

巡は黙って視線の方向を睨んでいた。が、やがて肩を竦めると美咲の後に続く。「あ、ちょっと!」不意をつかれた怜は慌てて彼女に追いすがった。「いいんですか?放置しておいて」「逆に聞くが、探し出してどうするんだい?追いかけっこでもする気か」巡の言葉は冷たい。10 #4215tk

2016-01-04 20:33:33
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「もうすぐ日が沈む。あたしはね、あんたを守りながらあんたらの探す怪異と戦うなんてごめんだよ。やるなら一人でやんな」突き放すような一言。怜は眉間にしわを寄せつつも黙ってその後に続く。情けないが、対人に特化した怪異と一対一で戦うのは明らかに無謀だからだ。11 #4215tk

2016-01-04 20:36:27
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そもそも、視線の主が噂の怪異と決まったわけでもない。今日は気分を切り替えて、四季のところに行くとしよう。……一緒にいるであろう、あの曲者ぞろいの昆虫怪異たちのことは考えないことにした。彼と違って、まだ自分に怪異と仲良くなるのは難しいのだ。12 #4215tk

2016-01-04 20:39:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……彼らが立ち去った住宅街は静かである。ただ夕日の赤だけが広がり、人影一つないように見える。『ははは、スリリングだったな。あと少しで気づかれるところだった』突如虚空から声が響いた。男とも女ともとれぬ、無機質とも言える声音。音源は道路にほど近い家の屋根の上だ。13 #4215tk

2016-01-05 20:12:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そこに揺らぎが生じる。水面の波紋のごとく広がった揺らぎの中から現れたのは二人の人影……否。人ではない。見た目こそ人に似ているものの、それは明らかに怪異だった。『まあバレたところで困るわけでもないんだがね』シルクハットを調整しながら呟いたのは、燕尾服姿の怪異だ。14 #4215tk

2016-01-05 20:16:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

夕日に照らされているにも関わらずその顔は不自然に影に覆われている。唯一見える口元に笑みを浮かべながら、燕尾服の怪異は連れへ向き直った。『しかしジャック。盗み見るにしてももう少し遠慮を知った方がいいね。あれじゃあの鈍感な少年だって気がつくぜ』15 #4215tk

2016-01-05 20:20:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「どうだっていいだろ、そんなこと」不貞腐れたように連れの怪異がこぼす。頭に被った南瓜の飾りのために表情は伺えないものの、その声が如実に不満を伝えている。「好きに遊んでいいんじゃなかったの、シェイプ?別にさっき仕掛けてもよかったじゃないか」16 #4215tk

2016-01-05 20:24:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『おいおい、場所くらい選びなよ。もっと大勢と遊ぶ方が楽しいだろ?』「……それは、そうかもしれないけど」『私がせっかく『影』を使ってお膳立てしてあげたんだ。その場でお披露目するといいさ。私があげた力をね』ジャックと呼ばれた怪異は小さく鼻を鳴らし、消えた。17 #4215tk

2016-01-05 20:28:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

燕尾服の怪異……シェイプシフターは喉を鳴らして嗤う。『さてさて。あいつに頑張ってもらってる間に、こっちも仕込みを済ませなきゃ。楽しもうぜ、諸君』呟いたシェイプシフターの体が見る見るうちに崩れ、砂となる。唐突に吹いた風が砂を乗せ、町の中へ広がっていく……18 #4215tk

2016-01-05 21:51:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……「襲撃?」巡が眉をひそめ、訝しげな声を上げる。「ええ」答えたのは狐面を被った巫女服の女。イナメの神使である御狐衆、その一人である。彼女の案内の元、怜たちは本殿の廊下を歩いていた。「私も随分長くこの社に務めておりますが、あそこまで大規模なものは初めてです」20 #4215tk

2016-01-05 20:36:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「四季は無事なんですか?」思わず声を上げる怜に、御狐衆が笑みを漏らした。「ご心配なく。ご無事ですよ。伊奈殿のご息女やそちらの鬼女殿の配下がよく動いてくれたおかげです」「おお!さすが御笠ちゃんだな!」美咲が嬉しげに言う。巡はといえば、なにやら思案しているようだ。21 #4215tk

2016-01-05 20:40:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「こちらです」案内されたのは客間の一つであるようだった。「失礼いたします。日条殿のご友人がお着きです」『お疲れ様ー。入れてあげてー』『え!?あの、ちょっと待って』中から聞こえたのはヒルメと四季の声。後者の声に構わず、御狐衆が襖を開く。22 #4215tk

2016-01-05 20:44:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

中を覗き込んだ怜は目を丸くした。「……何事?」「えっと……その、事情を説明する時間をくれない?」胡座をかいていた四季が弱り切った様子で呟く。非常に肩身の狭い思いをしているらしいことは怜にも見て取れた。何しろ、昆虫怪異たちにぴったりとくっつかれているのだから。23 #4215tk

2016-01-05 20:48:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「おやまあ」わざとらしく目を見開いた巡が扇子を開き口元を覆う。「若旦那も多少は色気が出てきましたか」「違うよ!?」「でしょうな。霊気の補給、お疲れ様でございます」鬼女が丁寧に一礼。少年は渋い顔を向ける。ああ、四季でもああなるのか。なんとなく怜はほっとした。24 #4215tk

2016-01-05 20:52:15
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