《Madness and rapture》『第三話』

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ジュセー @shiroboshi2

《Madness and rapture》 『第三話』 実況タグ→ #textS57

2016-01-11 21:35:15
ジュセー @shiroboshi2

「ん……」 目を開ける。 夜の闇は、去っていた。 陽の光が、差し込んでいる。 いつのまにか眠っていたようだ。 「あいつ、どういうことだ?」 黒星は室内を見回す。白星が帰ってきた形跡は、無い。何か、嫌な予感がした。ベッドから身を起こし、パーカーを羽織る。 1

2016-01-11 21:40:18
ジュセー @shiroboshi2

日照り。季節はもう、夏になろうとしていた。 太陽の熱。炎天下の中を、夢遊病患者のように独り言をブツブツと言いながら歩く少年がいた。 灰崎 黒星である。 「世話の焼ける……焼ける……暑い……」 彼は今、白星の行方を捜していた。 「あいつは。あいつは、俺が。俺が……」3

2016-01-11 21:43:45
ジュセー @shiroboshi2

学校の周辺を歩く。 今日は土曜日である。部活に勤しむ生徒の掛け声が黒星の耳に入ってくる。 「うるさい。うるさい、うるさい……」 彼は忌々しげに、同じ単語を、何度も何度も。 同じ場所を、何度も何度も。 繰り返し、繰り返し。 繰り返し、繰り返し……。4

2016-01-11 21:48:22
ジュセー @shiroboshi2

陽がゆっくりと、着実に夜へ旅立とうとしているのがわかる。 あと四時間もすれば、完全に陽は落ち、夜の闇に染まるだろう。 「夜は、好きだ。そうだ、夜だ。夜……夜だな、早く夜に」 彼の双眸は髪色と同様に、異常に黒く染まっている。その瞳の焦点はてんであやふやだ。5

2016-01-11 21:53:00
きゃんてら @Cantera36

空虚とかそれ以前に自我大丈夫かこいつ #textS57

2016-01-11 21:54:38
ジュセー @shiroboshi2

ーー空が、黒く染まっている。 「……夜か?夜だな?あは、ははは」 部活に勤しんでいた生徒達は、もう帰宅しているだろう。 「場所を、変えるか。ここじゃない、ここじゃない。もう少し遠く。遠くへ行くか」 ようやく彼は、違う道へと歩き出した。 どんどん突き進む。 暗い。暗い道へ、進む。7

2016-01-11 21:57:14
きゃんてら @Cantera36

職質とかには気を付けなさい #textS57

2016-01-11 21:59:32
ジュセー @shiroboshi2

この町の夜は、とても静かだ。 人口がそこまで多くないからだろうか。フラフラと歩みを進める黒星……不意に彼は立ち止まった。 「アァ……?」 心底苛立たし気に、首を巡らす。喧騒の声の方へ。この町の夜は、とても静かだ。だからこそ、そういったモノは聞こえやすい。8

2016-01-11 22:02:06
ジュセー @shiroboshi2

何かゴタゴタがあったのだろう。 そう遠い場所で聞こえているわけではない。 「行って、みる、か」 ポツリと呟く。 空虚を、満たすため。何かをやらねば。 黒星は声の方へと歩き出した。 暗い路地裏。 そこに、複数の人間が屯していた。9

2016-01-11 22:08:48
ジュセー @shiroboshi2

黒星はそれらを見やる。 見るからに柄の悪そうな集団。人数は……5人。絵に描いたような悪人。 そしてその奥には、彼らによって追い詰められたであろう少女がいた。 「強姦、か」 独り言。 彼らの中の何人かが黒星に気づき、彼を睨みつける。黒星は彼らを見据え。口元に弧を描いた。10

2016-01-11 22:12:22
ジュセー @shiroboshi2

飛びかかる。まずは一人。折る。悲鳴。追い打ち。倒れる。追い打ち。もう一人。繰り返し、繰り返し。返り血。 「もっと、もっとだよ、なあ……なあ」 黒星はどこか寂しそうに言う。その声は悲鳴に掻き消されていく。 「やっぱりだ、やっぱり。うまく行き過ぎるんだよ。つまらない」 ……。 11

2016-01-11 22:19:03
きゃんてら @Cantera36

あ、あ…? うわ何だこの夢遊病患者強い #textS57

2016-01-11 22:21:00
ジュセー @shiroboshi2

彼らが死に物狂いで逃げ出すのを一瞥した黒星は、少女を見た。 整った顔立ちをしている。可憐だが、どこか、幸薄そうな印象を受ける。 歳は……歳は、黒星とそく変わらないかそれより上かだろう。 「お前。大丈夫か。立てるか?」 声を掛ける。 「……大丈夫、です」 冷たい声が返ってきた。12

2016-01-11 22:22:48
ジュセー @shiroboshi2

「一人でも、帰れます」 少女は立ち上がると、黒星に向かって深々とお辞儀した。黒星は興味なさ気にその場を立ち去ろうとする。その背に、また冷たい声が投げかけられた。 「ありがとうございました。私は、霜月 氷華と言います。よければ、名前を。いつか、お礼をしたいです」 13

2016-01-11 22:26:49
ジュセー @shiroboshi2

ピタリと立ち止まる黒星。 「……灰崎 黒星」 鬱陶しそうに、それだけ言うと、彼は踵を返した。 礼が欲しくてやったのではない。正義感から行動したのではない。ただ何となく、だ。正義漢気取りではなく、やはり彼は、空虚を満たしたかったのだ。 それでも。 それでも、曇天は晴れなかった。14

2016-01-11 22:32:15
ジュセー @shiroboshi2

黒星が元居た通り。 そこに。 「~~~♪♪」 陽気に鼻歌を歌う少女がいた。 大きく、禍々しい異形の鎌……鎌のような物を持った少女が。 無垢な笑顔を顔中に浮かべ、スキップをしながら。16

2016-01-11 22:36:12