即興小説・雪の天使の話

即興で書いた話です。
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佐々木匙@やったー @sasasa3396

雪が、雲の上で暮らす小さな天使たちによって作られている、ということは人間には知られていません。彼らは真っ白な雲をちぎってはそれをきれいな結晶に形作り、天上から下へと落とすのです。毎日毎日、それは大変な仕事でしたが、彼らは皆満足して暮らしていました。

2016-01-13 03:42:14
佐々木匙@やったー @sasasa3396

さて、ここに一人の小さな天使がおります。この天使はかなりの凝り性で頑固者。やはり雪を降らす仕事に従事していましたが、結晶の形に凝りに凝り、いつも気に入らないとへそを曲げては壊してしまいます。なので、なかなか下に雪を降らせられないでいました。

2016-01-13 03:44:02
佐々木匙@やったー @sasasa3396

仲間は言います。「お前、多少気に入らなくても下手でも、ちゃんと形になっているんだから、いいじゃないか。勿体無いとは思わないのか」天使はそれを聞き流します。どうしても自分の結晶が気に入らなかったからです。おかげで天使は今年の冬は、一度も雪を降らせておりませんでした。

2016-01-13 03:47:18
佐々木匙@やったー @sasasa3396

なぜそんなにこだわるのか、と聞かれても天使は答えません。ただ黙々と、人には見せずに結晶を作り続けては壊し、を繰り返しておりました。それでも満足そうなら周りは放っておいたでしょう。でも、天使はだんだん暗い顔になりました。なんだか良くない気持ちになっていることがすぐわかるほどに。

2016-01-13 03:50:34
佐々木匙@やったー @sasasa3396

ある日、そんな天使を心配した友人の天使が、そっと彼の家にやって来ました。玄関は開いていましたから、こっそり中へと入っていきます。すると、何やら泣き声が聞こえるのです。隠れて覗くと、天使は寝室で静かに泣いているようでした。傍には雪の結晶。少し歪んだ形をしていました。

2016-01-13 03:53:43
佐々木匙@やったー @sasasa3396

友人は迷いましたが、天使に声を掛けました。天使はびくっと震え、それから涙の跡の残る顔を彼に向けました。「綺麗にできた結晶じゃないか」彼は声を掛けます。「どこが綺麗なものか。こんなに歪んだ結晶、見たことがないよ」声は掠れておりました。

2016-01-13 03:56:18
佐々木匙@やったー @sasasa3396

「僕は駄目なんだ、どんなに頑張ってこしらえても、こんなものしか出来ないんだ。みんなみたいに綺麗な形が作れないんだ」天使は続けます。確かにそれは少しひしゃげてはいましたが、十分ちゃんとした雪の結晶でありました。むしろ、面白い形になっているじゃないか、と友人は思います。

2016-01-13 03:58:35
佐々木匙@やったー @sasasa3396

そのことを、どうやってこのすねた天使に伝えたものか、と友人は頭を捻りました。「みんなと一緒に降らせたら、僕のがおかしいことはすぐわかってしまう。だから、僕はもういいんだ。雪は降らせないで、他の何か別のことをして生きていくよ」天使はすっかり諦めた声で言います。

2016-01-13 04:00:25
佐々木匙@やったー @sasasa3396

「駄目だよ」友人は言いました。雲の上の天使の仕事は、雪を降らせること。他にやることなんてないのです。「君はそう言うけど、降らせなかった雪はどこにも、誰にも届かないんだよ。君の中で砕けるだけで、何も意味を成さないんだ」ちらり、と歪んだ結晶を見ます。「僕はこの形、なんだか好きなんだ」

2016-01-13 04:03:03
佐々木匙@やったー @sasasa3396

天使は俯きます。「みんなと一緒が嫌なら、まだ雪の降ってないところに降らそうよ。すぐ溶けて消えてしまうだろうから、形を気にすることもないよ」友人はまだ暗い顔をしている天使の手を引き、結晶を持って外へと出ました。それから雲に乗って東へ行きます。そこはある島国の真上でした。

2016-01-13 04:06:24
佐々木匙@やったー @sasasa3396

友人は、天使に結晶を持たせ、さあ、と促しました。天使は躊躇い、迷い、そして、目を閉じて、雪を放り投げたのです。さあ、ここからだ。二人は双眼鏡で落ちていく雪の行方を追いました。雪は風に煽られつつもほぼまっすぐに、島国の地面目がけひらひらと落ちました。

2016-01-13 04:08:21
佐々木匙@やったー @sasasa3396

「あ」遠い地上で、一人の女の子が上を向きました。ちらちらと、小さな白いものが空から落ちてきます。女の子は、赤い手袋をはめた手でそれを受け取りました。「初雪。きれい」雪は手袋の上で、静かに形を失い、溶けて消えていきました。

2016-01-13 04:10:45
佐々木匙@やったー @sasasa3396

「ほら」友人は天使の肩を叩きます。天使はまた泣いていました。どうも今度は、悲しみとか、悔しさの涙ではないことはすぐにわかりました。「良かったなあ、聞こえたろ?」天使は何度も頷きました。観客はたった一人。でも、彼女は確かに雪を見て、きれいと言ってくれたのです。

2016-01-13 04:13:01
佐々木匙@やったー @sasasa3396

「また雪を作ろう」「うん」「あの形良かったよ。またああいうの作るといいよ」「うん」「泣くなよ」「うん」……

2016-01-13 04:14:11
佐々木匙@やったー @sasasa3396

それから、天使はまた雪の結晶を作るようになりました。やっぱり凝り性で、他の天使たちよりずいぶんこしらえるのに時間がかかっていましたが、それでもすぐに壊すことはなくなりました。彼は結晶が出来上がると真面目な顔で外に出て、できるだけ他の人から隠れるような場所を選びます。

2016-01-13 04:16:06
佐々木匙@やったー @sasasa3396

そうして、咳払いひとつしてから、おもむろに地上へと雪を落とすのでした。それを受け取る、どこか、誰かに向けて。ゆっくり、粛々と。

2016-01-13 04:17:04