《Madness and rapture》『第五話』

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ジュセー @shiroboshi2

《Madness and rapture》 『第五話』 実況タグ→ #textS57

2016-01-16 22:26:12
ジュセー @shiroboshi2

闇を駆ける。 既に視界は歪み切っていた。 「追いついちゃうよ!もっと早く早くぅー☆」 背後から聞こえる無邪気な鳴聲の声。近い。 「はぁ……くそ、もう……もう限界、限界?嫌だ……こんな……!」 焦点が定まらず、不安定な足取りで独り言を叫ぶ彼は、狂人のようであった。 1

2016-01-16 22:31:54
きゃんてら @Cantera36

なんか○○○○ダー!ってかんじの手軽な略称欲しいなあと。どうしたものか #textS57

2016-01-16 22:32:22
ジュセー @shiroboshi2

「アハハ、行き止まり!行き止まりだねクロボシくん☆」 壁。壁が、目の前にあった。 飛び越えようと思えば、飛び越えられるだろう。万全の状態ならば、だ。 黒星は、憔悴しきった様子で右腕を……右腕のあった場所を見る。血は最初ほど出ていない。が、止まってはいない。 後ろを振り返る。2

2016-01-16 22:36:29
きゃんてら @Cantera36

よじ登る、じゃなくて 飛び越える、だもんなあ。やっぱりとんでもない #textS57

2016-01-16 22:38:34
ジュセー @shiroboshi2

満面の笑みの鳴聲。鳴聲と……もう一人。 「いやぁ、よく頑張ったね、黒星君。流石……だね」 含みのある微笑みを見せながら、その人物は黒星を讃えた。 若い。黒星とそう変わらないように見える。赤い髪。右目はその髪に隠れている。3

2016-01-16 22:42:54
ジュセー @shiroboshi2

白い長袖のシャツに、黒いベスト。幾何学模様のネクタイ。 その顔は端麗で、男性か女性かもわからない。 「誰だよ……もう一人……もう、一人、お前!男?女?……誰だ、誰だ!」 錯乱しながら黒星は怒声を上げ、 直後、フラリと壁にもたれかかる。4

2016-01-16 22:48:06
ジュセー @shiroboshi2

「ふふ、馬鹿だなぁ。そんなに出血をしているのに大声出しちゃ、そうなるよ?」 「へへークロボシくんバカ!アハハ☆」 殺伐とした空気にそぐわない、陽気な声。 黒星は、朦朧とした意識の中で、一人、思考していた。 何を考えているのか、自分でもわかっていない。それでも、何かを考えていた。5

2016-01-16 22:54:39
ジュセー @shiroboshi2

「おっと、自己紹介が遅れたね。ボクはマルジャーク」 微笑みを絶やさず、おどけた口調で喋るマルジャークは、いつの間にか黒星の目の前に立っていた。 「……!」 「ふふ、少しお話をしようと思ったけど……まずは、その腕からだね。それ!」 マルジャークが、黒星の右腕を指差す。6

2016-01-16 22:59:37
ジュセー @shiroboshi2

「あ……?」 不思議な感覚がした。 どう形容すべきかは、わからない。ただ、黒星の右腕はそこにある。その事実があった。 「……!な、あ?」 呆気に取られている黒星を見て、マルジャークはくすりと笑う。 ボクの気まぐれさ、この世界の黒星君。君だけだよ?こんなサービス!」7

2016-01-16 23:06:31
きゃんてら @Cantera36

別世界の黒星も知ってるってことか?パラレルワールドの? #textS57

2016-01-16 23:10:07
ジュセー @shiroboshi2

黒星の耳には、マルジャークの声が入ってこなかった。手を開いては閉じ、開いては閉じ、を繰り返す。右腕。確かに、ある。新品の皮の服を着た時のような、微かな違和感。それも、すぐに慣れた。右腕。確かに、ある。 「あー聞いてない、ね……相当気に入ってくれたみたいでボクも嬉しいよ」8

2016-01-16 23:17:35
ジュセー @shiroboshi2

「ねぇ、マルくぅん?」 鳴聲がマルジャークの袖を引っ張り、頬を膨らます。 「もう、アソんでいい?ねぇ、ねぇ」 「ダメ。彼は、大事な存在なんだ。白星君もそうだったけど……キミが殺してしまったから。黒星君まで殺されたら、ね」 「えー……つまんないの」 9

2016-01-16 23:25:24
ジュセー @shiroboshi2

白星。鳴聲も知っていた。そして、このマルジャークという男も。殺してしまった。殺してしまった? 「おい……白星を、白星を……お前ら、白星、お前ら、虚無……」 「うーん、黒星君。キミ、相当錯乱してるみたいだ。まぁ、仕方ないか。今日はゆっくりとおやすみ。また今度。じゃあね」10

2016-01-16 23:31:47
ジュセー @shiroboshi2

「じゃあね、クロボシくん☆またアソぼーね!」 そう言って彼女は手を振り、無邪気そうに笑う。黒星は手を伸ばす。 「待て……待てよ、おい……!」 喉が異常に乾いている。視界が暗転していく。世界が歪む。歪む……。11

2016-01-16 23:38:59
ジュセー @shiroboshi2

いない。自分以外、誰も。 黒星は周りを見渡す。 鳴聲も、マルジャークも。夢だったのかと疑うほどに、何もない。右腕を見やる。自分の右腕。本当に?微かな違和感はもう無い。だが。13

2016-01-16 23:45:48
ジュセー @shiroboshi2

「白星……」 ボソリと一つ、言葉。 「白星……白星」 ゆっくりと、歩みを進める。 まだ、闇。 「……くそ、くそ!あぁ……」 闇、闇、闇。黒星は頭を掻きむしった。 (illust:夏樹@xxhrodvitnir 様)14 pic.twitter.com/VJmQSH3hzr

2016-01-16 23:53:57
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ジュセー @shiroboshi2

《Madness and rapture》 『第五話』終 #textS57

2016-01-16 23:57:33