【ミイラレ!第二十九話:『演者』のこと】(実況付き)
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それらはトリルの両脇を雪崩のごとく通り過ぎ、部屋の中でわだかまる。その密度が濃くなったと見えた瞬間に、蝿の群れは一瞬にして人型へと変わった。トリルは舌打ちする。「おい、病人がいるんだぞ。もう少し静かに」悪態とともに振り向いた彼女は、すぐに息を呑む。76 #4215tk
2016-02-09 20:16:00「ニコール……!?どうしたんだよ、それ!」「騒ぐな小娘」苦々しい声で蝿の王は言った。その右半身が抉り取られている。心臓部を中心に、円を描くような傷。片腕と片足を失っているにも関わらず直立し、その傷跡からは血の一つも流れていないものの、明らかに重傷だ。77 #4215tk
2016-02-09 20:20:09「……俺としたことがちと遅れをとった。おいトリルよ、よく聞け」「誰にやられたんだ、それ!」「取り乱すな。今から話すところだ……いいか、あの人間くんに伝えておけ。シェイプシフター。そう名乗る怪異が、君を狙って暗躍しているとな」ニコールが顔を歪める。78 #4215tk
2016-02-09 20:24:13「それとこれはお前への忠告だ、トリル。奴の仲間に『演者』なる怪異がいる。いいか、お前は『奴とは絶対に戦うな』」「……僕じゃ勝てないって言ってるのか?」呆然としていたトリルの目に怒りの火が灯る。ニコールは首を振った。「違う。『お前だから』だ。相性の問題だ」79 #4215tk
2016-02-09 20:28:26シュウ、とニコールの傷から見えない何かが漏れる。トリルにはわかる。それは魔力だ。悪魔の活動源であり、決して世界とは相容れないもの。ゆえに悪魔は肉体という器の中にそれを閉じ込める。トリルにはわかった。ニコールはもはやこの世界の上に自身を繋ぎ止めることはできぬ。80 #4215tk
2016-02-09 20:32:41「ハ!よもやこんな世界で深手を負うとは思わなんだ。ともかく、『演者』……黄衣の怪異は『羊飼い』だ。紛い物だが。わかるな?」トリルは大きく目を見開く。その反応に、ニコールは満足げに頷いた。「わかるよな。お前は聡い子だから。……重ね重ね言う。あれに手を出すな」81 #4215tk
2016-02-09 20:36:04最近、ミイラレも流し流しでしか見れてなかった… 「羊飼い」って解りづらいヒントな気もしないでもないけど、 七つの大罪の暴食枠の大悪魔に深手を負わせるって時点でかなり絞られてくる物ね…そのヒントだけで十分だわ…。
2016-02-09 20:59:01トリルはなにか言おうとした。しかし、ニコールの真剣な眼差しに、言葉を喉元に引っ込める。ニコールは笑った。「いい子だ。さて……俺はこれでお暇する。人間くんには、飽きたから帰ったと伝えておいてくれ。『七つの大罪』の第二席が無様を晒したことなど」「そこは黙っとくよ」82 #4215tk
2016-02-09 20:40:04トリルはすかさず言う。ニコールが目を細めた。「……すまない。もう一つ伝言を」「なに?」「あいつら絡みで困ることがあったら、俺を呼べと言ってくれ。あの大根役者にはそれなりの報復をしておいたが、まだ腹の虫が収まらん」「わかったよ」「ありがとう。ではな」83 #4215tk
2016-02-09 20:44:22あ…あぁ…いい…いいぞ…その去り方も残された側の感情も…僕に刺さる…お前これで言いつけ破ったりしてみろ、僕は死ぬぞ #ミイラレ
2016-02-09 20:59:35ニコールが残された片手を上げた。別れの挨拶。それと同時に彼女の体が塵と消える。一瞬のことだった。もはや跡形もない。トリルは溜息をつく。肉体を失った悪魔が死ぬことはない。ただ魔界に戻っていくだけ。……彼女にまだ新たな肉体を作るだけの力は残されているだろうか?84 #4215tk
2016-02-09 20:48:10