SS「雨の日には」

藍田宗汰の日記。
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ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

雨音と、ジムノペディ。 薄暗く、君の顔が見えない部屋で、 そっとページをめくる音が聞こえる。

2016-01-29 15:25:47
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

僕の筆を進める音。 窓に打ち付ける雨音。 君の擦るページの音。 そこに広がる静寂は、とても心地よいものだった。

2016-01-29 15:29:34
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

今は、ここには僕と君しかいない。 僕は君の斜め前でただひたすらに数式を並べていた。 こんな雨の日に学校に残る生徒も少ないだろう。 運動部の皆は示し合わせたようにそそくさと帰り、文系の部活の皆も、今日の強い雨に直帰する者が多かったようだ。

2016-01-29 15:32:22
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

もちろん、図書館に残る連中など僕と君だけだった。 そもそも、図書館部なんてものはないのだから、放課後に残って本を読む物好きか僕のように自習する者以外はいない訳だ。 君は分厚い小説を読んでいた。 今までここに通った生徒何人もが読んできた、そんな歴史を重ねた本。

2016-01-29 15:35:46
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

言われれば思う位だが、図書館というものは不思議だ。 何人もの生徒が触れてきた本を、まるでバトンのように渡していく。 そのバトンはただ沈黙を守り続け、そこに鎮座しているだけ。 埃を被っても、どんなにページが汚くなっても、誰かの痕跡が繋がっていくのだ。

2016-01-29 15:38:56
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

君は、読み飛ばさず、ゆっくりと目を通す。 僕はカリカリと筆を動かす。 小気味良いリズムだ。 ー下校時刻になりました、部活の生徒は… 放送部の下校予告は図書館の閉まる合図。 僕は参考書とノートを畳んで、バッグに入れる。 君はパタン、と本を閉じて棚に戻す。

2016-01-29 15:42:30
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

僕らは一言も交わさず、目も合わせず ただ”目の前にいる誰か”として認識しあい、散り散りに帰っていく。 君は立ち上がり、長い髪を翻しながら図書館を出て行った。 僕は傘を探しつつ、下駄箱へ向かう。 「嗚呼、酷い雨だ。」 ただ、呟いて、イヤホンをつける。

2016-01-29 15:46:22
ゆうきサァンは嫁になった @yuki8271

こんな雨の日にはジムノペディを聞く。 少し感傷的になれる……そんな気がして。 僕は片手をポケットに仕舞い込み、我が家へ歩みを進めるのだった。

2016-01-29 15:47:50