青葉島鎮守府 第十六話

そして兎が跳ねる 前回の話(http://togetter.com/li/929098
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跡地 @kkkkkkmnb

【青葉島鎮守府 第16話】 そして兎が跳ねる

2016-03-02 23:46:01
跡地 @kkkkkkmnb

足柄の連装砲が再び火を吹いた! 列車砲よりも小さいとはいえ、やはり巡洋艦の主砲である。サイレンサーをつけていない発射音は水上機関車を震わし、大きく揺さぶった。 その爆音は海に吸い込まれながら、反射することもなく響き渡った。

2016-03-02 23:50:03
跡地 @kkkkkkmnb

砲弾は風を切り裂き、足柄の思った通りの場所に着弾した。巨大な水柱が立ち上がり、数秒遅れて大きな大きな炸裂音が足柄の耳に届いた。だが、そこに敵はいなかった。 子鬼はうろちょろと駆けずり回り、足柄の砲撃を難なく回避したのだった。

2016-03-02 23:54:03
跡地 @kkkkkkmnb

「くっそ! ……畜生! 畜生! なんで……なんで命中しないのよ!!」 足柄が次弾を装填しながら吠えた。彼女の胸中に前回の装甲列車との戦闘がよぎる。あの時も結局、役に立たてなかった。今回もまた、自分は役に立たないまま水上機関車は敗走するのだろうか……

2016-03-02 23:57:40
跡地 @kkkkkkmnb

彼女の眼前に広がる海は足元にも広がり、後方の水平線の果てにまで続いていた。なのに海は、それ故にかも知れないが足柄のことも迫り来る子鬼のことも興味が無いと言わんばかりに平然としていた。海風はあっという間に硝煙の匂いをぬぐいさり、足柄の鼻は重苦しい潮の匂いしか嗅ぐことが出来なかった。

2016-03-03 00:02:51
跡地 @kkkkkkmnb

ガタン! 客車が縦に大きく揺れた。子鬼の放った魚雷を回避するために海面からの高度を上げたのだ。それにあわせて速度が落ち、慣性で足柄は大きくよろけた。白い航跡が二本客車の下を通り抜けていく。通過を確認して川内が指示を出すと再び水上機関車はその車体を落とした。

2016-03-03 00:08:01
跡地 @kkkkkkmnb

足柄が再び主砲を構えた。青葉島の設備で出来る限りの整備を行った彼女の主砲は照りつける太陽の光を浴びて静かに輝いている。 大井が子鬼の行動パターン解析を行っているが、言語を話す知能を持つ「鬼」である以上、イ級などのような明確なパターンは期待できないだろう。

2016-03-03 00:13:00
跡地 @kkkkkkmnb

足柄が叢雲からの観測報告を待った。

2016-03-03 00:13:13
跡地 @kkkkkkmnb

そしてそれは川内の判断であった。

2016-03-03 00:17:40
跡地 @kkkkkkmnb

「足柄、上下角-3度修正。左右角はそのままで……榴弾じゃなくて徹甲弾を装填して!」 足柄はそのオーダーに耳を疑った。三式弾と同じ榴弾でも当たらないのにそれよりも散布面積の小さいただの徹甲弾を撃てと叢雲が言うのだから無理はなかった。

2016-03-03 00:21:30
跡地 @kkkkkkmnb

口を開いた足柄の声には棘が混じっていた。 「……その意図が読めないわ」 「……私じゃなくて戦隊長の指示よ」 足柄が更に困惑する。その時、通信にノイズが混じった。二人の通信に誰かが混じろうとしている。足柄が怪訝そうな顔で通信を繋いだ。  その声は酷く場違いに思えた。

2016-03-03 00:25:45
跡地 @kkkkkkmnb

「ほーらーいちょぅー! ここからは叢雲じゃなくてこのうーちゃんが指示を出すぴょん!」 卯月の酷く場違いな声と少し遅れて叢雲のため息が聞こえてきた。この列車に乗って長い叢雲は川内の意図を汲み取ったのだろうが、まだ日の浅い足柄は眉間のシワを深めることしか出来なかった。

2016-03-03 00:29:24
跡地 @kkkkkkmnb

卯月は客車の乗車口に立っていた。肩掛けの軽機関銃を携え、腰元からはワイヤーが伸びている。 卯月が扉を開け放つと、凄まじい勢いの風が車内に吹き込んできた。卯月がおどけたように敬礼をすると川内が小さく敬礼を返した。 現在の列車の速度おおよそ50ノット。だが、卯月はためらわなかった。

2016-03-03 00:36:16
跡地 @kkkkkkmnb

卯月が乗車口を蹴って海へと躍り出た。慣れていない艦娘なら横転してもおかしくないが、列車勤務が長い卯月は難なく着水してのけた。 そして乗車口から引っ張っている腰元のワイヤーがピンと張られて卯月を引っ張った。こうしないと50ノットの列車に置いて行かれてしまうのだ。

2016-03-03 00:41:00
跡地 @kkkkkkmnb

卯月は腰元のワイヤーを巧みに操り、まるで水上スキーのようだ。卯月が軽機関銃を構えると子鬼に向かって突撃していった。それをみた足柄は卯月の、そして川内の意図を理解した。砲撃で吹き飛ばすのではなく蜂の巣にしようとしているのだ。

2016-03-03 00:44:47
跡地 @kkkkkkmnb

だが相手はあくまでも鬼。如何程の装甲を持つかもわからない未知の敵。だが、卯月は全く臆することもなく円を描くようにして子鬼向かって肉薄していった。 そして足柄もまたこの打開策にかけて砲門を開いた。

2016-03-03 00:47:14
跡地 @kkkkkkmnb

今の大井と先ほどの足柄のどちらのほうが眉間にしわが寄っているだろうか? 子鬼の行動パターンを解析するために水上機関車の処理能力の一部を借り受けている大井の額には加えて汗も滲んでいた。

2016-03-04 00:09:21
跡地 @kkkkkkmnb

その客車内は乗り込んだ艦娘たちと比べると随分と広く、普段ならば地方の路線のように静かだが、その客車は今、足柄が砲撃を行うたびに大きく揺れ、緊張の糸が極度にまではられていた。 その中であのように振る舞う卯月はやはり奇怪であり、その肝っ玉の大きさに川内たちは呆れるよりほかになかった。

2016-03-04 00:23:00
跡地 @kkkkkkmnb

「足柄、上下角そのまま鬼の右側に向かって撃つぴょん!」 「それだとあんたと子鬼の間に撃つことになるわよ!」 「かまいましぇん!」 「…… ……どうなっても知らないわよ!」 砲撃が完全に卯月のペースに持って行かれている。叢雲は黙って見つめている。

2016-03-04 00:28:43
跡地 @kkkkkkmnb

もうすでに子鬼は目を凝らさなくても見えるほどにまで迫ってきている。だが、それでも卯月は彼女と子鬼の間に砲弾を撃ちこめというのだ。 足柄の砲弾は難なく、指定された場所を打ち抜いた。もう何度も上がったものと同じ水柱が立ち上る。

2016-03-04 00:36:21
跡地 @kkkkkkmnb

それを見た子鬼はせせら笑うかのように波間を跳ねた。そしてその先にいた卯月に気がついて更に笑った。そしてその短い手を叩きながら卯月から距離を取った。 まるで、鬼ごっこで鬼を囃し立てる子供のようにケラケラと笑いながら。

2016-03-04 00:47:22
跡地 @kkkkkkmnb

卯月が手にする軽機関銃など所詮は射程距離700m程度で彼女たちの主砲からすればおもちゃのような射程距離だ。だが、それでも一分間に数百発の弾丸をばらまき、至近距離であれば戦艦の装甲をも撃ちぬく。

2016-03-04 00:53:21
跡地 @kkkkkkmnb

卯月が一気にワイヤーを巻き取り始めた! 50ノットで航行する水上機関車に対応した強力な巻取り機はまるで水上スキーのように波飛沫をあげながら卯月の加速に手を貸した。 だが、それでも射程は届かない。

2016-03-04 00:56:26
跡地 @kkkkkkmnb

その子鬼の行動は侮り、あざ笑う油断の象徴していた。あえて、卯月の軽機関銃の射程距離ギリギリまで迫ってきたのだ! そのあたりの間隔は見事なもので、本当に有効射程と非有効射程の境界上で子鬼たちはケラケラと笑った。

2016-03-04 01:01:12
跡地 @kkkkkkmnb

そして卯月はニヤリと笑った。 「だーかーらー、言ったぴょん。うーちゃんに任せておきなさいってね♪」 次の瞬間、子鬼たちにめがけて何発もの砲弾が降り注いだ! 軽機関銃の射程距離ではない。だが、彼女たちの主砲は難なく届く。

2016-03-04 01:04:07