1 体育館の隣にあるプール。冬は誰も居らんけど、夏はいきなり華やぐ。 理由は水泳部。冬は地元の温水プール借りて練習しとるけど、夏は学校のプールでしとるから。 休憩で体育館の外に出るとプールから「きみくーん」の声。 「お、おぅ」 平然を装いながら、上を見上げるとアイツが居って……
2015-07-26 23:09:552 目のやり場に困るんやけど。水着って体のラインしっかりわかるし。 「きみくんも休憩?」 「お、おん」 あぁ、ほら、他の部員やって、アイツの方を見とるし。 「水泳部に彼女がいると、えぇ目の保養になってえぇなぁ」 あぁ、もうっ!村上までなんなん。お前まで! 「おいっ!」 「何?」
2015-07-26 23:10:023 フェンスを超えてタオルがプールサイドに落ちる。 「タオル?」 「あ、のさ、俺にその姿で話し掛ける時はタオルで水着姿、隠せや」 「何で?めんどくさい。また、泳ぐし」 「何でもや!俺が目のやり場に困るしやな……。他の奴らが……ホラ」 「……気にしすぎだよ」 ってヘラヘラ笑っとる。
2015-07-26 23:10:084 そんなかっこで、居って、俺含めて、ココに居る何人の今晩のおかずになるんかわかっとんのか?無神経さにも程がある。 「このタオル、汗臭っ……」 「しゃあないやろ?俺が汗拭いたやつなんやから」 「うそうそ、でも、きみくんの臭いがする」 「全く……」 「休憩終わったから、行くねー!」
2015-07-26 23:10:235 「あ、今日、一緒にかき氷食べて帰ろう」 その一言と一緒に、さっき投げ入れたタオルが戻ってきた。少し湿って塩素くさい……。 「ナイスキャッチやなー。ヨコ」 「うるさいゎ」 さっきまで、水着姿のアイツがこれを掛けてたかと思うとなんか、変なこととかいろんなことを考えてまうやんか……
2015-07-26 23:10:366 でも、この夏が終わるまでには。せめて、手をつなぐ……。いや、キスをする……くらいまでは。それ以上は……したい。いや、うん、無理やな。 pic.twitter.com/BLpC2EGG4n
2015-07-26 23:12:257 一緒に帰ろって言われたから、急いで仕度して、校門に向かう。 一緒に帰るときは校門待ち合わせやから。 「横山くん、バイバイ」 水泳部の彼女の友達。 「お、おん、またな。あいつは?」 「今日、きみくんと帰るから先に帰っててって言われたから知らない」 ってニヤニヤしながら俺を見る。
2015-07-27 20:57:068 めっちゃ、恥ずかしい…… それから、5分待っても、10分待っても、まだ、あいつは来ない。この時間がもどかし過ぎて……。何度もプールのある方向を見ては、まだなん?って思う。 「ごめんね。顧問に捕まっちゃって」 「ん、俺も今来たとこやから」 ウソ。ホンマは20分前から居ったけど。
2015-07-27 20:57:129 黒く、小麦色に焼けた肌。ほんのり香るプールの塩素の香りと薄ら湿った髪…… ドキドキがバレへんように早歩きになる。 「きみくん、歩くの早い」 「お前が遅いだけやろ!」 少し先で待ってると早足でやってきて。 「はぁ…。やっと追いついた」 って俺のこと上目遣いで笑いながら見てくる。
2015-07-27 20:57:1810 あぁ……もう、そんな顔されたら。恥ずかしくて目をそらす。 「ほら、行くで?かき氷食いに行くんやろ?」 「うん♡」 「でも、お前は焼けたよな」 もとが白い方やから、そう感じんのか? 「そうかな?」 ってワイシャツの胸元から、水着の跡をチラ見するアイツ。ブラが見えるんやないか?
2015-07-27 20:57:2111 「こんなとこで、そんなん確認せんでもええやろ?」 「えー」 「えー、やない!」 「じゃあ、後できみくんが確認する?」 「は?え?何、お前……」 「プッ。冗談だよ。じょ、う、だ、んー。きみくん、照れてる。かわいい♡」 かわいい♡って、なんやねん。誘われてるって思ったやないか。
2015-07-27 20:57:2412 「ほら、行くで?」 また、照れた顔を隠すために、少し早足で歩きはじめる。 「キミくん。待ってよー」 あ、クソッこのタイミングで、手を繋げば良かったか。そんなことを思いながら、彼女の歩調に合わせて並んで歩く。お喋り好きな彼女の話を聞きながら、相槌打って……。その途中で見つけた
2015-07-28 09:49:1113 花火大会のポスター。 「行きたいな……」 「い、行くか?」 「えっ?」 「お盆やし、お前も部活休みやろ?」 「……うん」 「そしたら、2人で行くか?」 知ってる奴らに、冷やかされるのは嫌やけど。それ以上に、楽しみだって笑う顔が見たいから。もう、俺。どんだけコイツのことが……
2015-07-28 09:49:1414 好きなんやろって思ったら、顔から火ぃ出るほど恥ずかしかった。 「ねぇ、キミくん。かき氷何食べる?あ、たこ焼きも食べたいー」 「そんなに食うたら太るで?」 「そうだよね……」 散々、迷った挙句…… 「じゃあ、私イチゴにアイス載せで!」 「アイス載せるん?ホンマに豚になるで?」
2015-07-28 09:49:1715 「キミくんの宇治金時はアイスも餡子も白玉も入ってるから、それに比べたら大丈夫」 「あなた達、仲が良くて羨ましいゎ」 ってお店のおばちゃんに言われて。 「うん、おばちゃん、羨ましいでしょ?だって、キミくん私のこと好きだし、私もキミくんのこと好きだから」 っておい、いきなりか?
2015-07-28 09:49:1916 ホンマにこいつと居ると俺の心臓がもたへん。わざとなん?天然なん? そんなこと思いながらかき氷受け取って、店先のベンチに2人で腰掛ける。 「よく考えたら、このかき氷、ちょっと豪華過ぎたね。花火大会までにお小遣いなくなっちゃうかな?」 「まぁ、たまには贅沢もえぇんとちゃうか?」
2015-07-28 09:49:2317 「そうだね。じゃあ、白玉頂戴」 やっぱり、そう来たか。 今となってはよう思い出せへんけど、多分……いろんなこと話したと、思う。 「かき氷食べたら持ってた方の手、冷たくなっちゃった」 そう言って、彼女に手を握られた。 「ホンマやな」 彼女の手はほんのり冷たくて、やわらかくて、
2015-07-28 09:49:2718 このまま、離したくなかった。ようやく掴んだ彼女の手。 彼女の方を見るとかき氷のシロップで薄ら紅く色付いた彼女の唇。口紅刺しとるみたいでなんか、妙に色っぽく見える。 「このまま……帰るか?」 「えっ?」 「…………手、繋いで帰ろって言うとんの。嫌か?」 「ううん、嫌じゃない」
2015-07-28 09:49:2919 「へぇー。それで、候隆、その彼女と初めて、手を繋いで帰ったんだ。何だか今と違ってかわいい。それに、私にはそんなんじゃないじゃない」 って彼女が笑った。 「今思っても、めっちゃ初々しいって思うし、俺は彼女を幸せにする!って息巻いとった」 「それで?」 「あぁ……その後な?」
2015-07-29 08:57:0320 翌日、補習があるというすばると学校に向かう途中に会った。 「昨日な、手ぇ繋いでん。女の子ってなんか、やっぱりちゃうよなー。ちっさくて、柔らかい……。花火大会も一緒に行く約束してん」 「ほーなん?順調そうやな。お前チューくらいはしとるんやろ?」 ってすばるにニヤニヤしながら、
2015-07-29 08:57:0521 聞いてくるすばる。 「な、そんな……。その、まだこれからやけど」 「ふぅん。なぁ、ヨコ。よく聞けよ?女はなぁ……。手よりもなぁ……。唇とか、胸とか、いろいろ、柔らかくて、触ると気持ちえぇぞぉ」 思わず生唾を呑み込んだ。 そんなこと言われると俺の妄想……大爆発してしまうやろ。
2015-07-29 08:57:0822 「あれ?今日は水着やないの?残念やな」 「何?信ちゃん。水着期待してた?」 「まぁな。やっぱり、一応、俺も男やし。もしかして、生……」 「村上っ」 「おー、怖っ。ヨコ。話のあややんか。なぁ?」 「軽いセクハラかな?訴えようかな?」 そんなこと言いながら、いつも通り笑ってた。
2015-07-31 08:46:5923 「今日も一緒に帰るか?」 「うん♡」 屈託のない笑顔にまたドキドキする。 「なあ、誰としゃべとんの?」 「あ、先生」 「なんだ、村上に……横山か……」 「なんだって何やねん!」 「いや?たまに覗きが居るからさ……。2人はそんなんやないって散々、こいつに、昨日言われたからな」
2015-07-31 08:47:1024 そう言って、顧問の安田が彼女の隣に立っとった。先生と生徒なんに、親しげなのが、妙に腹が立つ。 俺より背が低い癖に。チンパンジーみたいなのに。美術室でわけのわからん制作物作ったりしとるのに。女子からの人気が絶大な教師。 「なぁ、横山……。コイツのこと好きなん?」 「えっ?」
2015-07-31 08:47:2225 「そんなん、安田には関係ないやろ!」 「せやね。あ、休憩終わるで?行くぞ」 「はーい」 って返事をして安田に付いていく彼女を見送った。 「なぁ、ヨコ。安田とあの子の噂、知っとる?」 「ん?噂?」 「昔、付き合ってたって話し」 口に含んだスポーツドリンクを吹き出しそうになる。
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