加賀さん観察日記(実況版) その25

#加賀観 実況行為重点 (不都合ありましたら @chi_sa_to までご連絡を) 続きを読む
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キタユキ @k_t_y_k

もし何だったら携帯使って連絡とってもらってもいいので……気の利いた言葉の一つもかけられなくて情けないが、何かしらしてあげたい気持ちだけ伝わればいいかと思い付け加えると、女は小さく笑い声を零した。笑った口許が桜の間から見えた。声の印象よりも更に若く、幼い。 #加賀さん観察日記

2016-04-04 23:56:01
キタユキ @k_t_y_k

「お優しいんですね。でも、大丈夫です。電話番号もわからなくて。それに、これ以上ここにいると、私の方がおかしくなってしまうかもしれない。お話できなくなってしまうかもしれない。ごめんなさい。もし、その……覚えててくださるのなら、お願いがあるんですけど」 #加賀さん観察日記

2016-04-04 23:57:45
キタユキ @k_t_y_k

「もし、もし……あの人が来たら、私がここに来たことを伝えてください。きっと、赤い車に乗って来ると思うんです。男の人。どんな人で、どんな顔になっているか、今の私にはわかりません。ごめんなさい。約束したのはもう何十年も前で、私も彼も、子どもだったから……」 #加賀さん観察日記

2016-04-04 23:59:54
キタユキ @k_t_y_k

「名前も、お教えできません。ごめんなさい。あの人が見つかったら、あの人が今まで築き上げてきた時間が無駄になってしまう。この場所に築いてるものも、全部。でも、赤い車に乗って来るのは間違いないです。絶対に、私を向かえにくるときは、赤い車で、って約束したから……」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 00:02:21
キタユキ @k_t_y_k

わかりました。彼に、あなたの名前を伝えることはできますか。再び尋ねると、女は少しだけ間を置いて、「ええ」と答えた。 「……あの人だけに、伝えてくださいね。待ってる、って」 桜が吹きすさぶ。風の音が強くなる。 「私の、名前は」 噛み締めるように、名を告げた。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 00:05:18
キタユキ @k_t_y_k

気づけば桜もなく、女もなく、自室で机に向かっていた。書類を書いている途中で意識が飛んでいたらしい。低い寝息に振りむけば、加賀がベッドで勝手に丸まって寝ている。まあいつものことか、と居直ると、書類の上には大量の花弁が積まれていた。ほんの数秒の間のことだった。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 00:11:35
キタユキ @k_t_y_k

地面に落ちた奴を拾ったのか微妙にしっとりしていて、紙にへばりついて取れない。もしこの花弁が信濃の仕業だとしたら「夢ではない」とか「忘れないで」とメッセージを送るにしても、加減ってものがあるのではないだろうか。覚えておこう、というか、お前会ったら覚えとけよ…… #加賀さん観察日記

2016-04-05 00:14:54
キタユキ @k_t_y_k

信濃との接触から一晩。車庫に赤い車があったことを思い出し、ガレージを開ける。普段使いの軽トラ、矢矧や朝霜のバイクに並んで、それは置かれていた。響が貰い受けた、軽のオープンカーだ。確か先月、鎮守府の前に放置されていて、男の死体がどうとか―― #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:07:25
キタユキ @k_t_y_k

「あら、提督。やはり此方に」 声に振り向くと、瑞穂がいた。 「お部屋にいらっしゃらないから加賀さんに尋ねたんですよ。そうしたら、提督はガレージですって。ドライブでもされるのかしら?ロマンチックね」 高下駄を踏み出す音が、半閉じのシャッターと天井に木霊する。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:13:13
キタユキ @k_t_y_k

財布が見あたらないから車に忘れてないかと――誤魔化そうとして、ふと以前瑞穂から聞いた話を思い出す。 瑞穂は確か、一時期信濃と行動を共にしていたはずだ。赤い車についても、知っているかもしれない。だが、本人から自分のことは待ち人以外に話すなと釘を刺されている。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:17:42
キタユキ @k_t_y_k

今ひっかかっているのは、信濃の待ち人である『赤い車の男』の存在だ。赤い車は鎮守府の前に置き去りにされていた。その近くには男の死体、それも自殺を計ったものがあったはず。あと、鎮守府の中には”阻まれていて””二人とも”入れないとも言っていたような気もする。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:19:51
キタユキ @k_t_y_k

もし男が信濃の待ち人その人だとしたら、何故彼は死を選んだのだろうか。何かしらの理由で入れないにせよ、別の手段で合図するとかはできなかったのだろうか。男の存在自体、突然聞かされた話なのもあって状況がよくわからず、点同士が上手く繋がらない。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:22:59
キタユキ @k_t_y_k

――なので、信濃との接触についてはぼかしつつ、信濃について聞いてみることにした。以前、信濃について話してくれたけど、と切り出すと、信濃はにんまりとねちっこい笑みを浮かべる。 「あの方は可哀想なお方ですよ。杓子定規な言い方をすれば、『神になった』のですから」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:28:29
キタユキ @k_t_y_k

神になった。 「ええ、まあ人間的な表現ですから、艦娘的な表現に正しますと『信濃の神霊に適合してしまった』のですよ。おせっかいな神様から余計なお恵みをちょうだいしてしまったおかげで、可哀想な田舎娘は老いず死ねず永遠に存在し続ける。自分の意志と関係なく、ですよ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:35:00
キタユキ @k_t_y_k

瑞穂は下駄音を響かせながらこちらに近づき、赤い車のボンネットに触れた。 「マア、この”軸”なら大事にもならなかったものを、艦娘も神霊もない”軸”で起こってしまったが運の尽き、としか言えませんわ。人間はすぐ伝承に当てはめたがるし、何かを崇めたがるんですもの」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:38:37
キタユキ @k_t_y_k

「……とまあ、信濃様の生い立ちなど百篇でもお聞きになられたことでしょうし。提督がお知りになりたいのは、『どうして彼女が人を探しているか』、でしょう?」 車体に指を滑らせながら、瑞穂はくつくつと笑う。人の内面を見透かして、小馬鹿にしたような笑い方だ。 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:40:32
キタユキ @k_t_y_k

「ボーイミーツガール、ですよ。彼女を唯一理解しようとした村の少年、その少年こそが信濃様が待ち焦がれている白馬の――いえ、赤い車の王子様です。本当ならもっと早くに大団円でしたのに、ねえ。流石の茨姫も城から追い回されては目覚めざるを得ませんから、ねえ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:43:19
キタユキ @k_t_y_k

追い回すとなると、大和か? 「ええ、勿論。この瑞穂も旗上げした身でしたので、あまり大口は叩けませんけれど。信濃様の神霊を口車に乗せて、無限の”軸”を移したり、入れ物を作ったり、諸々の設備を整えさせたのはあの女ですよ。提督がどう話をされたかは、存じませんけど」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:48:31
キタユキ @k_t_y_k

信濃の神霊から『信濃を助けてくれ』みたいに言われた、とかそういう話だったような……。 「やっぱり、やっぱりですか。根性の悪い女」 瑞穂はケラケラ笑う。 「”軸”を移りすぎるとですね、どんどん起点が何かを忘れて、都合のいい風に記憶が歪められていくんですよ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:50:13
キタユキ @k_t_y_k

「何千何万と繰り返し”軸”を移れば、自分が誰だったかすらも忘れてしまいますよ。そうならないように入れ物を作ったのでしょうけど、箱だって使えば傷みますわ。もう大和も武蔵も他の方々も、自分が何者で、何故艦娘を装っているか、正しく覚えてらっしゃらないでしょうねえ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:53:07
キタユキ @k_t_y_k

ということは、大和が言っていることも、武蔵が言っていることも、めちゃくちゃなのか? 「滅茶苦茶も滅茶苦茶ですよ。SAN値がゼロ、と表現した方が解りやすいかしら。武蔵の方は別の”歪み”が入ってしまったようですけど、まあ、誰も本来の目的なんか覚えてやしませんよ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:54:58
キタユキ @k_t_y_k

「瑞穂、そういうお前はどうなんだ、というお顔ですね。瑞穂は、覚えていますよ。大和は信濃に私情があって、追い回してるんです。救う救わない、ではなく、個人的な欲求を解決する為にね。瑞穂はそれを知って、嫌になったわけです。醜い女の嫉妬にね、嫌気がさしたんですよ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:56:55
キタユキ @k_t_y_k

「ああ、瑞穂はもう、人間ではありませんから。元はそうですけどね。人間に嫌気が差したので、艦娘になりました。深海の存在になりました。楽ですよ、艦娘になってしまうのは。そういえば、あの朝霜の妹さんも、人間を辞めてしまったようですねえ。正しい判断だと思いますよ」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 22:59:12
キタユキ @k_t_y_k

「……ああ、提督。そんなお顔なさらないで。お話を戻しましょうね。信濃様についてですよね。あの方を迎えに来られる赤い車の王子様、この”軸”にもなんとか碇を打ち込んでおられるようですけど。大和の築いた壁が大きすぎて、入れなかったようですね。信濃様も含めて。」 #加賀さん観察日記

2016-04-05 23:01:19
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