スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

あたし死のうと思ってこの街に来た。なんで選んだのかって言えば、これだけ大きな街ならあっちこっちに廃ビルとかありそうだから。人気がなければ落ちたって誰にもぶつからない。この世でないものになってもきっとずっと見つからない。そのまま土に還れる。そう思ってた。　#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

具体的に何がってわけじゃないの。なんだかもう疲れたの。病気になって、仕事なくして、家族に見捨てられてなんてありふれた話じゃない？でもなんだかもう生きてるってことに縋りついていける気がしなかったの。明日がもう来なくてもいいって思った朝。家を出てバスに乗ったわ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

世界がまぶしいようだった。朝日の中で橋を越えてこの街に来た時、不思議とふっと肩の力が抜けたわ。もう頑張らなくていいんだって、明日のこと明後日の事、ずっとずっとずっと先のこと、もう考えなくていいんだって思ったら、凄く楽になった。このまま消えてしまいたかった。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

いつもは人見知りで中々初対面の人に声もかけられないのに、今なら誰とでも話せる気がして喉が渇いてよったスタンドのおじさんと少し話しこんだの。もしかしたら誰かに覚えていてほしかったのかもしれない。おじさんは病気のこと、これまでのこと黙ってきいてくれた。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

お代を支払おうとしたら、おじさん言うの、ようこそSBへ。おのぼりさんには皆お代は頂いてないんだって。ついでに俺のでよかったらって、朝奥さんが焼いてくれたタルトもつけてくれた。こんなに親切にしてもらったのにあたし心が石みたいになってて、涙もでなかった。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

おじさんは住むところ探してるって言ったあたしにあそこなら危なくないだろうって、ブロンズの安いロフトを紹介してくれるお店を教えてくれた。生まれて初めてトラムに乗って空が切り取られた街へ降りていったわ。遠くの海がきらきら光ってて、なんて綺麗な街だろうって思った。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

一番下の階層だし、日当たり悪くて薄暗いのかもしれないなんて思い込みで、明るい日差しで足元に上階層の影が不思議な幾何学模様を作ってていつまでも追いかけて歩けそうだった。ふらふらしていたからか、少し変わった格好をした人達がわらわらよってきて吃驚したわ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

迷子ですか？観光？ここから先はちょっと危ない地域なんです。どこへ行かれるんですか？よかったら送るでごわす。俺達怪しいもんじゃないっす。二部のヒーローで･･･って･･･あ･･･ヒーローってわかります？？口々に話しかけてくれる。あたし曖昧に薄く笑うのが精一杯で。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

結局教えてもらった不動産関係のお店に連れて行ってもらったの。中の一人が別れ際にぎゅってあたしの手を握って「辛いことも楽しいこともあるかもしれないけど、俺達はあなたをいつでも歓迎してます。何かあったら声かけて！」って。あたし急に泣きそうになって俯いたわ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

だってこんな事何一つない毎日だったじゃない。どうして今になって急にこんなに色々起こるの。あたし、あたし、楽に、楽になりたいのに。もう頑張るのやめたいのに。息をするだけで苦しい命なんていらないのに。お店には入らなかった。そのまま歩いて歩いて廃工場へ向かったの。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

すっかり夕暮れになって、人っ子一人いない廃工場は宵闇にしずんで行こうとしてた。あたしやっと少しほっとする。この街はあたしには明るすぎる。まぶしくて目を開けていられない。全部が前向きで、輝いてて、希望と夢ばかりが一杯に詰まって、窒息しそう。　#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

割れた路面に躓きながら、あっちこっち鍵がかかっていないビルを探したわ。重いチェーンの南京錠がさびて一つ壊れてた。真っ暗な中に歩いていくのは怖いのかと思っていたけどそうでもなかった。だって命を投げ出しに行こうとしてるんだもの。それより怖いことなんてないわ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

階段をひたすら昇って昇って昇って。屋上の扉を祈るような気持ちで開けたわ。大丈夫。開いた。こんなことばかり順調だって分かってたわ。ところどころコンクリートのかけた屋上に出ると驚いたわ星が見えたの。ブロンズの端っこでネオンが届かないほど暗いからなのね。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

かすかに遠く瞬いてたわ。ここから見るとSBはこの世の楽園みたい。光と言う光が皆集まって、まるで王冠だわ。住む人はきっととても誇らしく思うのでしょうね。昼間の二部ヒーローって人たちも皆とても幸せそうだった。生きるってことにきらきらしてた。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

あたしはどうしてそうならなかったのか。何度も自分に尋ねた疑問。どうして疲れちゃったのかしら。どうしてもっと生きるってことを、あたしを愛せなかったの？何になれていたら、生きていていいって思えたの？あたしはいつもあたしに応えてあげられなかった。　#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

屋上のフェンスはあつらえたみたいに人一人くぐれる位あいてたわ。そこに腰掛けて、足をぶらぶらさせてみる。おかしいのね。怖くはないの。このままふぅっと風でも吹けば闇に溶けて落ちていけそうだわ。溶けるだけ、あたしが解けて消えるだけ、泡みたいに。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

なんどか目を閉じて勢いをつけた途端、あたし文字通り突風で後ろにひっくり返されたわ。何が起こったのか全然わからなかった。頭や腰をぶつけると思ったけど痛くもないの。まるで掬いあげられたみたいよ。あたしの周りを風がいつまでも渦巻いているの。何事なの？#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

やぁ！君は随分スリリングな体験が好きなんだね！驚いたよ、なんて勇気だ！しかし危ないよ、そして危険だ！ ････誰なの？？マント？？ヘルメット？？スーツ？？あなた浮いてない？？ああ、怪しいものではないよ、私はスカイハイ、この街のヒーローだ。 ヒーロー？ #スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

結局あたしの人生最後の最後で邪魔が入ってケチがつくって事には変わりがなかったみたい。スカイハイは風を使うヒーローであたしは彼をどうにかしないと泡にはなれないみたい。そして彼は立ち去る気なんて露ほどもないようであたしを風から下ろすと自分もふわっと屋上に。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

ここは寒いねぇなんて言ったのに、ぱちんとマントを外すと座り込むあたしにかけてくれて、一緒に隣に座り込むの。あたしもうやけになってスカイハイにぶちまけたわ。あたしは死ぬためにこの街にきたの。今更頑張って生きろなんて言われても無理なの。どうか放っておいて。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

そうか･･･私は君の邪魔をしてしまったんだね。ヒーローはとても寂しそうな口調で言うのよ。私も時々明日を生きるのが心底面倒な時があるんだって、内緒話をするように小声で彼は言ったわ。朝日が私を照らすのが嫌だ、心地よい風が肌をくすぐるのが嫌いだ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

大好きな相棒が鼻を寄せて起こしに来るのが辛い、何も食べたくないし、朝の挨拶もしたくない、散歩にはどうか君一人で行ってきてくれ、僕は今日は膝を抱えていたいんだ。そう一日中だよ。もう頑張れないよ。放っておいてくれ。息をするのも億劫だ。目なんて開けたくない。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

あんなきらきらした街に住んでいる、皆の尊敬を集めてやまないヒーローなのに、何をそんなに落ち込むの？あたしの声にはちょっと嫌味が混じってたと思う。すると彼は私には救えないものがたくさんあって、それでもヒーローでいるのが時々とても辛いと応えたわ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

あなたならなんでも出来そうなのに。そういうといやいやと彼は首をふる。この街の皆はヒーローが自分達を助けてくれていると思っている。でも違うんだ、皆が自分で自分を助けているんだよ。自分で立ち上がって、自分で歩こうとしてるんだ。私は少し背中に手を添えているだけ。#スカイハイとSBの星

星杜 @hosimori025

もしも倒れそうになっても、もしかしたら倒れても、まだここに差し伸べる手があるから。転んで痛くて怪我をして立ちあがれそうにない時は呼んでほしい。叫んでほしい。どこからでも私は行くからって。そう信じているって皆言って自分で歩いていってくれるんだ。#スカイハイとSBの星