Don't forget me

深海さかな @dzurablk_kai

「・・・ごめん神通ちゃん」 「いいんです、気にしてないですから」 そう静かに返そうとするも、緊張からか自らの声が震えるのを、神通は抑えられなかった 「じーんつ！」 と、唐突に背後から声を掛けられ振り返る神通の頬を、川内の指がつつく 「引っ掛かった！」 #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

そう言って、満面の笑みに気持ち意地悪そうな表情も織り混ぜると川内は、背後から神通の両肩に手を置いて静かに続けた 「大丈夫だよ、心配しなくても 神通は絶対、私たちが守るから」 「・・・はい ありがとう・・・ございます」 「でも、二つ約束して？」 #今夜の神通

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姉の手に従って向き直る神通の瞳を、川内の優しげな眼差しが真っ直ぐに見据える 「一つ、何があっても戦場では足を止めないこと そうしないと危ないから」 「はい」 「そして、もう一つは・・・」 川内はそこで急に、神通の頬をつまんだ 突然のことにもがく神通 #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

「その、他人行儀な口の聞き方！ お姉さんはそんなの、教えた覚えないぞー？」 「ひゅ、ひゅみましぇん！」 「言うこと聞けないお口には、お仕置きが必要だねぇ？」 「ゆ、ゆゆひひぇくらしゃい！」 ひとしきり神通で遊べて満足したのか、川内はからからと笑って手を離す #今夜の神通

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「この出撃から帰ってきたら、また前みたいにため口で話してよ 寂しいじゃん」 「で、でも・・・」 「でも、じゃない！ あんたは、私の妹なんだから！ ・・・そんなに気を使わなくていいよ」 それだけ言うと川内はさっさと一人で部屋から出ていってしまう #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

「お姉ちゃんが一番、狼狽えてたんだよ」 気がつくと神通の背後に那珂が立っていた 「前に神通ちゃんがいなくなったときも、その後も・・・」 「その後？」 那珂はそこで、しまったと言う顔になる 「私がいなくなってから、何かあったんですか？」 #今夜の神通

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「い、いや！？ なんでもない！！」 だが那珂は即座にいつもの笑顔に戻ると 「まあ、私もお姉ちゃんも、神通ちゃんを大切に思ってるってことだから！ ほら、早くしないと遅れるよ！ 私たちも行こっ？」 神通の背中を押して、部屋を後にするのだった #今夜の神通

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「作戦本部、こちら三水戦 エリア内の掃討を完了した 所定を簡潔、指示を乞う」 目の前の川内の声を、神通は呆然として聞いていた 付近には焼け焦げた深海棲艦の死骸が漂い、無傷の艦娘との対比が嘘のようである 戦闘は終始、圧倒的だった #今夜の神通

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敵の合間を縫うように駆け抜けながら、砲の一撃で仕留めていく川内と、神通の背後からそれを援護して、一切の攻撃チャンスを与えない那珂 余りの実力差に、神通は何一つ手を出せないまま、弾を撃つことすら忘れて二人に見とれることしかできなかった #今夜の神通

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目の前の姉の背中が、背後で支えてくれる妹の腕が、遥かに遠い そう神通は感じずにはいられなかった 「おー、生きてたね！」 軽口混じりに川内が隊伍へと戻ってくる 「あの、私・・・ 何もできなくて・・・」 「しよーがないよー！ 初めてなんだもん！」 #今夜の神通

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気後れした様子の神通に、那珂に続いて川内もフォローの言葉を掛けた 「そーそー、やられないだけ上等だよ」 「ていうか、神通ちゃんだって一発も貰ってないし！ すごいよ！」 「えー！ 私だってほとんど食らってないし！」 その言葉にはっと二人を見ると、剥き出しの肌には擦り傷 #今夜の神通

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自分一人何もできず、守られっぱなしだった反面、姉妹は傷ついていたという残酷なまでの事実が、神通の胸を締め上げる 「すみません、すみません・・・！！」 もう何度目になるかわからない、涙混じりの謝罪 「でもね、神通ちゃん」 それに答えたのは那珂だった #今夜の神通

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「私たちだって、神通ちゃんには以前に何度も、命を救われてるんだよ」 「嘘です、そんなの私にできるわけ・・・」 「嘘じゃないよ、本当 神通ちゃんが、私たちの中で一番強かったんだから」 俄には信じがたい話に、神通は顔を上げる 夕陽が憎らしいほどに泣き顔を照らす #今夜の神通

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確認するように川内の方を向くと、那珂の言に川内も頷いていた 「神通は、私よりもよっぽど敵に突っ込んでたしね」 「それなのに射撃の狙いは正確なんだから、タチが悪いったら！」 「演習でもいつもコテンパンだったし」 「挙げ句、敵の駆逐艦なんか神通ちゃん見ただけで #今夜の神通

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足並みを崩して狼狽える始末でさぁ！」 クックック、と忍び笑いを漏らす二人 「だから気にすることはないんだよ」 「焦んなくても神通ちゃんは神通ちゃんだから！」 「最初は誰だってそんなもんなんだし あ、でも演習で敵わなかった神通に色々教えられる、ってのは楽しいかもね」 #今夜の神通

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「あー！ お姉ちゃん性格悪ーい！」 そう言い合って笑う二人に、神通も笑みを溢した時だった 「至急、至急、至急！！ 司令部より三水戦！！ そちらに未確認艦が向かっている！」 耳元の無線が、風雲急を告げた #今夜の神通

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「三水戦より司令部、至急現場を離脱する ボギーの報告を逐一求む」 無線に答える一瞬で、川内の顔が戦場のそれに取ってかわる 無線の声を聞いた神通にも、マズイ事態であることは明らかだった 司令部直卒の長距離偵察機からの報告と、現場への通達 考えられるのは、 #今夜の神通

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姫や鬼と呼称される拠点級の接近に他ならなかった 「神通、私から離れないで」 そう告げる姉の背中が、演習や出撃前に目にしたそれよりも遥かに大きく頼もしく感じる 「那珂、最大戦速で離脱 殿は頼んだわよ」 「了解」 那珂の声も今は静かだ あたかも息を潜めるかのよう #今夜の神通

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川内は二人に流し目をくれて頷くと、足の艤装から甲高い駆動音を奏で、水飛沫を後ろに蹴り立てながら一気に巡航速度へと加速した 隊列は敵進路と直交する方角へ 「三水戦三番艦より作戦本部、至急音紋の照会を依頼する！」 不安と嫌な予感を駆り立てる、那珂の緊迫した声 #今夜の神通

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「作戦本部より三水戦、ボギーは５隻 だがそれは囮だぞ 進路上に大型反応がある」 「離脱経路を誘導されたし」 「承知した、データを送る」 「今転送した座標に航空支援並びに支援砲撃を要請したい」 「今、近接航空支援を築城基地にオーダーした 到着まで１０分」 #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

「支援艦隊は！？」 「今からだと最低でも一時間はかかる 現有の戦力で対処されたし」 「間に合わなくなる！！」 「今、付近を航行中のおおすみから戦闘捜索救助が出た 今しばらく耐えてくれ」 「了解、オーバー！！」 #今夜の神通

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そんな無線のやり取りの最中 神通の耳にほ、別の声が聞こえていた 「ｺﾉ・・・ｳﾗｷﾞﾘﾓﾉ・・・」 遠く海の彼方から聞こえたその声は、まさしく敵の拠点級がいる方角から聞こえている その時無線が鳴った 「作戦本部より三水戦、音紋照会完了！ 敵は・・・軽巡棲鬼だ！！」 #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

「目標、近づく！」 水平線の彼方から現れた黒い影は、機関が焼き付く寸前の出力で航行している神通たちにみるみる近付き迫ってくる 「ECM！？ これは・・・」 腕の甲に装着された電探のディスプレイを見る川内の短い舌打ち #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

「オノレ、ニガサン・・・ ウラギリモノメ・・・」 「あの声は・・・」 気がつくと敵は、振り返った神通からでもはっきりと表情が見えるくらいに近付いていた その虚ろな目が神通を捉える 「神通、そいつに構うな！！」 川内の声にはっと我に返って前を向き直ると、 #今夜の神通

深海さかな @dzurablk_kai

すぐ背後で爆発音がした 一瞬身体を縮こませる神通だったが、直後那珂の「爆雷投下！！」の声に足止めだと気付く それでも、敵の船脚は一向に衰えていない 既に太陽は水平線に沈み、薄墨を流したような闇が敵のいる東から空を覆い始めている 逢魔が時が、迫り来る #今夜の神通