それはある日、何の前触れもなく地球へやってきた。全長70~80メートル。薄く緑色に光り、円形で、側面は平ら。分かりやすすぎるほどに分かりやすい、フィクションによくあるU.F.O(未確認飛行物体)の形をしていた。
2016-04-19 23:38:01人々は空に浮かぶその物体を見上げ、「世界の終わりがやってきた」とか、「きっといい友達になれる」とか、勝手な事を言っていた。各国の政府は一応の迎撃態勢を整えつつ、相互に連絡を取り対応を検討していた。そうこうしているうちに、光る円盤から数十匹の生き物が現れ、ゆっくりと降下してきた。
2016-04-19 23:40:05その生物は全身が真っ黒で、六本足で、目も耳も見当たらなかった。大型犬くらいの大きさから、ネズミのように小さいのまで、サイズは様々だった。謎の生物たちがすべて地面に降りると、光る円盤は空の彼方へと飛び去って行った。
2016-04-19 23:41:50謎の生物の一団は、地面に生えている草をむしゃむしゃと食べ、日当たりのいい場所でごろりと横になった。起きている個体は、近づいてきた無人機のあとをついてのこのこと歩き、麻酔銃で撃つまでもなく簡単に捕獲された。この生物は紆余曲折を経てドットと名付けられた。
2016-04-19 23:43:35ドットは胎生で、哺乳類で、草食性だった。目も耳もないが、鼻と口が有り、きゅるきゅるとテープを巻き取るような音で鳴いた。鼻の近くには細かい毛がたくさん生えており、それを使って周囲の状況を察知していた。
2016-04-19 23:45:28ドットの体内からは未知の細菌や元素が見つかったが、地球上にあるものと大差はなかった。食事と排泄と散歩をして、あとはほとんど寝て過ごす生き物だということがわかった。食事の量も体型に見合ったもので、繁殖によって爆発的に数を増やしたりもせず、他の生物と交配する能力も無かった。
2016-04-19 23:46:49人々は少し安堵し、大いに落胆した。まさか宇宙からやってきた謎の生き物が、自分たちの生活に何の変化も齎さないとは思っていなかったのだ。ドットは宇宙からの侵略兵器であり、やがて一斉に凶暴化して人類を滅ぼすのだという設定の映画が作られたが、たいして受けもしなかった。
2016-04-19 23:47:50人々の興味は、ドットという生き物を地球に連れてきてすぐに去ってしまった円盤の方に移っていた。いったいあの円盤はどこから、何のために、この、さほど変わったところの無い生き物を地球へ連れて来たのか。その答えは程なく示された。円盤は再び、人々の前に姿を現したのだ。
2016-04-19 23:49:37円盤からはどこの国のものでもない言葉(というよりも、思念波のようなものだ)が発せられ、人々はドットがこの星へ来た経緯を理解することができた。ドットはこの宇宙の外で、とある場所を支配していた生き物だったのだという。だが、ドットたちが住むには、その場所はあまりに狭かった。
2016-04-19 23:51:55ドットは自分たちが生きていくための食料も全て食べ尽し、あとは滅び去るだけだった。円盤の主はそれを不憫に思い、ドットたちをまとめてこの地球へと連れてきたのだ。人々はこれを聞いて興奮し、歓喜した。この円盤の主こそが、自分たちが求めていた宇宙からの来訪者、高次の存在に違いなかった。
2016-04-19 23:53:36円盤に向かって、様々な国の言語、様々な通信手段で、あなたと友好を築きたい、というメッセージが発せられたが、円盤からは何の返答も無かった。 やがて円盤は来た時と同じように、あっというまに空の彼方へと消えていった。
2016-04-19 23:54:25ありとあらゆる装置と技術で分析しても、円盤の行先も、飛行方法も、何もわからなかった。人々はもう気が付いていた。自分たちの住むこの星は、とあるエピソードのエンディングに登場したガジェットに過ぎなかったのだろうと。この気付きは、人々を静かに落胆させ、一つの夢が失われた。
2016-04-19 23:55:51