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《犬になりたい》side-A 490 「ね、だから、どう思います？この感じ」 夏休み、バイト代、花火大会、ワーホリ、レポート、宅飲み、サークル、夏フェス、実習、補講、フットサル、オール。 ぽんぽんそんなワードが出てきて、少しだけ羨ましい。
2016-03-13 22:31:19
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《犬になりたい》side-A 491 前途洋々、未来は明るい。 そんな感じ。 「うーん、どうって言われてもなぁ...」 友達の彼女の友達に告白されて、でもその子は先輩の好きな子で、こいつ自身はナースの元カノに復縁を迫られてて、と。 登場人物多すぎるわ。
2016-03-13 22:31:35
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《犬になりたい》side-A 492 「...どっちがかわいいん？」 「うーん...どっちもまあ普通です」 スマホをあちこちいじくりまわして、インスタグラムの画像見せてくれた。 年相応にかわいらしい女の子がふたり。
2016-03-13 22:31:46
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《犬になりたい》side-A 493 「ぶっちゃけめんどくさいっす。ケンセツテキじゃないでしょ、こういうの」 新種の化学物質みたいな口調で言うから混乱するけど、建設的、か。 そんなん考えたことないわ。 建設的な恋愛。
2016-03-13 22:31:55
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《犬になりたい》side-A 494 もうあらかた食べ尽くしたテーブルの上の皿を重ねて、彼はまたメニューを開く。 まだ食うんかい！ 凄まじいな、10代の食欲。 「あのー、これ、フォンダンショコラのバニラアイス添え...」 それだけ言って、じーっと俺を見てる。
2016-03-13 22:32:10
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《犬になりたい》side-A 495 「...ええよ、何でも好きなもん頼ん...」 言い終わらんうちにもう店員を呼んでる。 「安田さんは...どっすか？最近」 なんちゃらショコラのオーダーをして、弟くんは向き直った。 「...まあ...仕事ばっかやで、最近」
2016-03-13 22:32:28
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《犬になりたい》side-A 496 「そういうことじゃなくて」 急にマジメな顔になって、ふっとため息をついて...。 「ねーちゃん、元気です」 いきなり、そう言った。 「.........そっか」
2016-03-13 22:32:37
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《犬になりたい》side-A 497 ............。 ...なんも言われへんもん。 俺に、なんか言う資格は、ない。 弟くんはそれ以上なんも言わんくて、壁に貼ってある“本日のおすすめ”を見て、あー、ユッケあったのかぁってボヤいた。
2016-03-13 22:32:53
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《犬になりたい》side-A 498 あの子と別れて、もう半年が過ぎた。 早いような、長いような...。 「もう、あれっすか？綺麗さっぱり、なんの未練もないって感じっすか」 弟くんは、あえてなのかなんなのか、軽い感じで言う。
2016-03-13 22:33:11
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《犬になりたい》side-A 499 「......そんなんあったらな、お前とこんな何回も焼肉食われへんわ」 そう、嘘をついた。
2016-03-13 22:33:23
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《犬になりたい》side-A 500 昔遊んでた女の子たちに、適当に連絡して、適当に遊んでみたこともあったけど...。 虚しくなって、すぐやめた。 友達と遊び行く気にもならなくて...。
2016-03-14 22:21:22
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《犬になりたい》side-A 501 心配した大倉が、無理矢理女の子紹介してくれようとしたけど、２回ドタキャンしたら、もう何も言わんくなった。 仕事と家を往復するだけ。 そんな毎日の繰り返しの中、ただ、あの子の歌ばかりが次から次へと出来た。
2016-03-14 22:21:34
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《犬になりたい》side-A 502 こんな辛気臭い歌ばっか歌われへん。 渋やんがそうボヤいてたってマネージャーに聞いたけど、それは無視した。 自分の中に湧いてくるものに正直に。 そうすることが、俺なりの償いのような気がしたから。
2016-03-14 22:21:44
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《犬になりたい》side-A 503 守れなかったこと。 危険な目に合わせてしまったこと。 好きな仕事を奪ったこと。 あの子とその家族の日常を、めちゃくちゃにしてしまったこと。 それから...。 初めての恋の思い出を、辛く苦しいものにしてしまったことへの。
2016-03-14 22:22:03
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《犬になりたい》side-A 504 「おお！」 弟くんの声に顔をあげると、ちょうどなんちゃらショコラにフォークを入れて、チョコレートが流れ出したとこだった。 「お前、いつか太んで、そんなん」 「俺もそう思います」 幸せそうな顔で、アイスとチョコを混ぜた。
2016-03-14 22:22:15
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《犬になりたい》side-A 505 「いいんですよ。好きなもん無理してガマンして、健康になって長生きするほどいい世の中じゃないでしょ」 若者っぽいなぁ。 そんなんも。 兄貴ヅラするには年が離れすぎてるし、親戚のおっちゃんにしては若すぎるし。
2016-03-14 22:22:27
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《犬になりたい》side-A 506 この不思議な友達関係が、あの子と別れたあともよーわからんまま続いてる。 なんやろな、これ。 少しおかしくなったとき。 「あ、そう言えば、彼氏できたみたいです。ねーちゃん」 世間話のついで、みたいな感じで弟くんが言う。
2016-03-14 22:22:41
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《犬になりたい》side-A 507 「そか。よかったな」 自然に笑顔が出てくれて、ほっとする。 我ながら、今まででいちばんいい芝居。 アカデミー賞もんやで...。 まあ、そんなん来るんやろなって途中から心の準備してた。
2016-03-14 22:22:53
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《犬になりたい》side-A 508 弟くんとメシを食うのはもう何回めかで、でも不自然なくらいあの子の話をすることはなかったのに。 なのに...。 今日に限っていきなり「元気です」とか言うんやもん...。
2016-03-14 22:23:08
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《犬になりたい》side-A 509 弟くんは、なんちゃらショコラを完食して、手を合わせた。 「ごちそーさまでした。いつもすいません」 彼氏...か...。 そっかぁ...。
2016-03-14 22:23:19
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《犬になりたい》side-A 510 「たまには俺とも飲んでくださいよぅ」 「未成年が何言うとんねんアホ！」 弟くんはシラフなのに酔ってるみたいなテンションで夜の街を歩く。 「今からうち来ません？こないだ先輩来て、酒いっぱい置いてったんで」
2016-03-15 22:18:37
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《犬になりたい》side-A 511 ひとりになりたいようななりたくないような...。 突然突きつけられたあの子の今に、俺の今が揺さぶられたような気がして。 いいのか悪いのか、明日は休みで...。 「お前...エラいとこ住んでんなぁ...」
2016-03-15 22:18:55
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《犬になりたい》side-A 512 流されるままタクシーに乗せられて連れてこられたのが、大きなマンションのエントランスで面食らう。 フツー大学生のひとり暮らしって、外階段のアパートで洗濯機おかれへんようなとこちゃうん？ ってドラマの見過ぎか、俺...。
2016-03-15 22:19:06
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《犬になりたい》side-A 513 「あ、あれっす、かーちゃんの、ゼーキンタイサク的な」 RPGの隠しアイテムみたいな調子で言って案内された部屋は、案の定、学生のひとり暮らしには不釣り合いなほどキレイで広い。 すぐにちっこい黒いかたまりがすっ飛んできて、短い尻尾を振る。
2016-03-15 22:19:22
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《犬になりたい》side-A 514 「おわ、ひーちゃんやぁ、久しぶりやなぁ！」 ひーちゃんは俺のことを覚えててくれたようで、少し、嬉しくなる。 「あー、つまみとかなんもないんで、ちょっとテキトーに買ってきます」
2016-03-15 22:19:37