クリスと響が靴を買いに行く話

春の天気の良い日々に二人でお出かけするイメージが湧いたので書いてみました。 実際にはどこかへ行く前の準備のようですが。 切歌と調が僕の書いた話の中では初登場。
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ばん @vande1021

「翼さんが卒業後はすっかり海の向こうへ行っちゃったし、クリスちゃんとももう会おうとしても簡単には会えなくなるいんじゃないかと……」 こんなことを言ったらクリスは何と言うだろうか。響は表情を見るのが少しだけ恐がった。 26

2016-05-01 00:15:25
ばん @vande1021

「それなら、お出掛けか、せめてトレーニングでも!」 なのに胸の内の言葉を伝えるときにはやっぱり相手を真っ直ぐに見て、思ったことを口にしていた。 27

2016-05-01 00:17:02
ばん @vande1021

「お前、そんなこと考えてたのかよ……」 クリスは怒るでもなく、バカにするでもなく、真剣に受け止めていた。 28

2016-05-01 00:19:02
ばん @vande1021

「それに最近は切歌ちゃんや調ちゃんと仲良くしてるし、ここにも可愛い後輩が一人いるのになぁって。ねえ、センパイ?」 最後に念押しでくだけて可愛らしい一言を加える。これなら余計にクリスの胸中に届くだろう。 29

2016-05-01 00:21:01
ばん @vande1021

「……お前からはなんかソンケイを感じない」 クリスには余計な一言だったので、こちらもふざけて返していた。 そんな言葉を添えなくても十分届いている。 30

2016-05-01 00:23:01
ばん @vande1021

「ええッ、そんなぁ~」 響はさっきまでの真剣な様子からすっかり肩を落としてしょげた様子だ。 「けど……そうだな」 何か言いかけたが、ここで店員がサイズの合う靴を運んで来て話が中断されてしまった。 31

2016-05-01 00:25:06
ばん @vande1021

靴紐を結び立ち上がる。店内を少し歩いて戻る。 この一足は響が選んだものだが、かなり履き心地が良い。デザインは普段の好みとはやや離れるがクリスによく似合う赤を選んでいる。 32

2016-05-01 00:27:01
ばん @vande1021

「あれ?ところでクリスちゃん?気のせいかな?」 目の前に戻ってきたクリスを見て響は気付いたことがあった。もうずいぶん一緒にいたのに気付かなかったことだ。 33

2016-05-01 00:29:03
ばん @vande1021

「なんだよ。この靴、ちょうど良さそうなんだよ」 思いがけず抜群の一足だったためか、それとも普段の靴とはまるで異なる履き心地だからかクリスはどちらかというと今は靴に集中し、その他のことには油断していた。 34

2016-05-01 00:31:02
ばん @vande1021

「ちょっとだけ背が縮んだ?」 わずかな隙を突いた一言がこの日一番の鋭さでクリスのやわらかい脇腹を貫いた。 「~~このバカッ!!」 足下を眺めていた顔を振り上げ、頬を染めて、人の目も気にせず叫んだ。一瞬、周りの客が二人をちらりと見たがすぐにまた元の店内に戻った。 35

2016-05-01 00:33:12
ばん @vande1021

「なんで今そんなこと言うんだよ!」 先の響の気持ちや靴の履き心地に覚えた感動はどこかへ消え去ってしまった。 36

2016-05-01 00:35:28
ばん @vande1021

「いやあ、こうして面と向かって並ぶ機会が少なくて。ひょっとしてクリスちゃんが普段履いてる靴の底が厚いのって」 バツの悪そうな、申し訳なさそうな笑顔で目の前の後輩はこういうことを言う。 37

2016-05-01 00:37:06
ばん @vande1021

「ああ、そうさ!あたしはなッ!ヒールが平らな靴を履くとッ!目線が低く……なるから……。お前より……」 言ってしまったことはもはや仕方がない。しかし響がそれに気付く日が来るとは考えていなかった。 38

2016-05-01 00:39:03
ばん @vande1021

「そうだったんだ……クリスちゃん、いつも私のこと気にしていたんだね」 思いのほか面白いことになったので響は悪ふざけを続ける。やっぱりさっきの告白は照れてしまうのだ。 「そういうのじゃないから!お前ホント……ああ、もう」 その場ではそれっきりにして靴を買い騒がしいまま店を出た。39

2016-05-01 00:41:02
ばん @vande1021

何も歩き疲れるだけが理由ではない。響といるとクリスは他の誰かとはまた異なる付き合い方になり、こうしてかき乱される。心地良いけど、騒がしくて忙しくて。 40

2016-05-01 00:43:01
ばん @vande1021

「それじゃあ今度、一緒にお出掛けする時は今日買った靴できてね!」 響は別れ際に晴れやかな笑顔で言った。ずっと思っていたことを叶えられたという点で満足なのだ。 41

2016-05-01 00:45:04
ばん @vande1021

「まったく、しょうがねーな!分かったよ!」 一緒にいると疲れてもつられて笑顔になることがクリスには不思議で、でも悪い気はしなかった。 42

2016-05-01 00:47:01
ばん @vande1021

クリスと響は次の休みの予定を入れた。たとえダメになって断っても、他の誰よりきっと気まずくはならないだろうと思いあえた。 出掛けるには良い日和が続く。 43

2016-05-01 00:49:01