いいねされた数だけ行ったことある架空の街ご紹介

架空の街と宝飾からめて書いてみました
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絹田屋 @kinuta_ya

❶私の生業は宝飾商でして、この前仕入れに行った街の話。暑い国の小さな所なのだけど、ルビーと金が良く出土する土地でしてね。商店街には所狭しとそれらが並び、薄く剥がした雲母を縫い付けたストールを被った若い娘が売り子をしていた。日差しが強いから、キラキラと反射して宛ら運河の様だったよ。

2016-05-13 22:35:00
絹田屋 @kinuta_ya

❷そのすぐ側には洞窟があって、地底人の末裔が暮らしている。出土するのは黄鉄鉱。金ではないが、あそこで採れる原石は一度目にするべき!大ぶりでかつ輝きが全く違う。それから血石。これもルビーとは違う赤だけど、子どもの健康や妊婦を守る石。薄暗いと思うかもしれないけど、目に優しい良い所さ。

2016-05-13 22:39:17
絹田屋 @kinuta_ya

❸アンデザンという地下水が溜まった川を下って…いや上るのかな。まぁ幾つか小舟を乗り継いで行き着くのは、地中の機械島。そう、地中なのに島。歯車で動く鳥や猫、人々の背中には螺子があった。そこの名産は意外なことにフローライト。古代文明が何故かその石を吐き出し続けているんだそうな。

2016-05-13 22:43:28
絹田屋 @kinuta_ya

❹名物の魚、マルシタチは美味だった!ムニエルにする事が多いらしい。家庭の味が出るのもこの魚を使った郷土料理だった。個人的には塩焼きが一番だと判断して、岩塩塊を宿と一番近所の定食屋に渡した。滞在中、二食弁当付き。悪くない取引だったと思う。塩は貴重品の部類に入る。物々交換が盛んだ。

2016-05-15 16:37:48
絹田屋 @kinuta_ya

❺機械島から真上に伸びる名物トロッコに乗って移動。初速からフザケた速度が出るから首が弱い人はビーズクッションを持参することを強く推奨しておく。十番目の駅、ウィスコ。酒と実用の街。合理的な思想が根付いているおかげで宝飾は盛んではない。彼らが欲するのは権威の象徴ではなく装備品だ。

2016-05-15 16:42:02
絹田屋 @kinuta_ya

❺さて、酒と聞いて前のめりになった人がいると思うので先に記しておこうと思う。ウィスコは豊穣な土地を知識と技術で作り出した。徹底した温度管理で世界各地の気候を再現するサルメロイトで作られた作物はどれも味も良い。安価で味わえるので楽しんで欲しい。

2016-05-15 16:50:44
絹田屋 @kinuta_ya

❼ヤーパン酒、薬草酒、モロコシと松を蒸留した強い酒。それから南国の果実を絞った芳醇な酒。豊富な種類が試せるテイスティングバーがある。何かしら好きになるものがあるはずだ。それに加え、肴になるのはナッツ類も中々。ドライミックスフレークをミルク酒に投げ入れた雑なツマミが個人的にお勧め。

2016-05-15 17:24:45
絹田屋 @kinuta_ya

❽話を戻して。ウィスコは技術革新により力をつけた街だ。よって実用的・実践的・論理的・知性的なものを好む風潮がある。無宗教に近く、哲学は学問の範囲となっているだろう。そこでの宝飾品はアーツアンドクラフツ。素材の価値よりもデザインや他の付加価値を重視した物が多く仕入れられる。

2016-05-15 17:39:38
絹田屋 @kinuta_ya

❾アーツアンドクラフツは悪く言えば素人臭のする物が多いが、実用に重きをおく慣習のおかげか、職人でなくとも作品の水準は高い。また、ウィスコ出身の宝飾師は装備品としての腕時計を得意とするものが多い。装着時のフィット感、円盤の見易さを追求した完成品には美が宿る。

2016-05-15 19:14:36
絹田屋 @kinuta_ya

➓ウィスコは高い建物が立ち並ぶが、郊外はカントリー感満載の田舎だったころの面影が強く残る。彼らは実践的・実用的な面にこだわるからこそ、歴史をきちんと保存している。穏やかな流れの小川、野草の茂る野原、夕焼けは都市部と自然の対比もあって、さぞかし美しいだろう。

2016-05-16 07:49:11
絹田屋 @kinuta_ya

11.何が、急激に技術の進歩をさせたか。諸説あるが、隕石の墜落が関連していると考えられている。ギベオン隕石は腕時計に用いられることもあり、隕石としては比較的有名だ。変容する手助けをするとともに地に足付けた考えを促す力を持つと言われている。まさしくこれは、ウィスコの考えではないか。

2016-05-16 07:55:29
絹田屋 @kinuta_ya

12.さて、次の街はウィスコから2日ほど掛けて列車で向かった。海の街シヒチリ。気温が通年を通し15度で保たれる。革が名産であり、ここで放牧された家畜類は肉、毛、革どれを取っても品質がよく、ハイブランドがこぞって注文を入れる。羊の耳で作られた御守りはここの土産としても有名だった。

2016-05-16 07:59:51
絹田屋 @kinuta_ya

13.シヒチリは山がなく、平坦な土地だ。だが森は深い。豊かな緑は時に仄暗い道を作り出す。お伽話は無闇に森へ進まないように戒めるものが多い。狼や熊は脅威の象徴であり、厄除けとしてモチーフに用いられる。人気があるのは馬の骨にそれらの彫刻を施したブローチだ。丁寧に磨くと良い艶が出る。

2016-05-16 08:05:24
絹田屋 @kinuta_ya

14.シヒチリに住む人たちは穏やかだ。自然とともに生き、自然とともに土に還る。死んだら薄い麻ぶくろに包まれ、母の胎内にいた時と同じ体勢で埋められるという。その真上に、故人が好きだった木や花を植えるのだそうだ。大地の一部となって、エネルギーを肥大させず、循環する思想とも言える。

2016-05-16 08:09:34
絹田屋 @kinuta_ya

15.シヒチリには海があり森がある。革が一番の名産ではあるが、真珠を忘れてはならない。森で磨かれた水とミネラルは、海に住む微生物を豊かにし、魚介がよく育つ。天然物の真珠は大変希少だ。私はその中でも特に形が良いものを獲得した。一粒の存在感は群を抜いている。無論、貝は美味しく頂いた。

2016-05-16 08:13:11
絹田屋 @kinuta_ya

16.彼らにとって恩恵と脅威は自然全てだ。土着信仰が強く、シヒチリで生まれた者の多くは故郷に帰り自宅で死ぬという。一家が何かしらの職人である事も珍しくなく、その技巧は独特だ。彼らの持つ宝飾品は目新しく、だが何処か温かく懐かしい気持ちになるのは、自然への想いを強く感じるからだろう。

2016-05-16 08:22:35
絹田屋 @kinuta_ya

17.今年行ったのはその3つの街だ。まだ聞きたい?それなら今までに見た強烈な街を話そうか。 学園都市のマホロバ。最も多くの学園を抱え、教育の街だ。若者ならではの流行が生まれ、ハイスピードで消化されていく。4つのエリアに分かれていたっけ。頭脳、体躯、感性、爪弾きの分類さ。

2016-05-16 12:30:44
絹田屋 @kinuta_ya

18.マホロバに住まう為には、いずれかのエリアに所属する学園へ合格せねばならない。大抵は頭脳と感性、体躯と感性の分野で併願し、入学する。入学が決まって半年はエリアが決まらず、見定めの期間になる。そこで分類されるのさ。爪弾きはどれも特筆せず、どこの水準にも届かない生徒が集まる。

2016-05-16 12:33:03
絹田屋 @kinuta_ya

19.マホロバの学校へ行っていただけでもある種のステータスとなるから、爪弾きになったとしても退学する生徒は皆無だ。しかしながら、彼らもまたその流行を生み出す一端になる。流行は生み出すだけでは意味がない。消化されなければ、次が生まれない。言うなれば代謝の1つを担っている。

2016-05-16 12:34:57
絹田屋 @kinuta_ya

20.正しくそれは皮肉と言って良い。頭脳も体躯も感性も、生み出すばかり。彼らの主張は隙間なく埋められていて、少々押し付けがましい。頭が回る連中だと密度が目に付いて手に取られる事もない。だから爪弾きがそれらを消化する。悲しいかな、意図を汲み取れない人間だからこそ、評価の決定を握る。

2016-05-16 12:38:24
絹田屋 @kinuta_ya

21.そんな街で手に入れた宝飾がこちら。圧倒的にピアスとイヤリングが多い。彼らはバリエーションにうるさい。同じものを色違いで揃え、写真に収め友人に自慢をする。イミテーションビジューを散りばめ、太陽光を反射するカットが好まれる。色使いは王道か、王道の対極にあるものがセオリーさ。

2016-05-16 12:42:21
絹田屋 @kinuta_ya

22.よく売れたもの?そうだなぁ、その時は夏真っ盛りだったのもあって、海辺から仕入れたものがとても動いた。美しい貝殻とパールのリング、シーガラスはすぐに売り切れた。海の虫を琥珀の様に加工したものは男子に人気が出た。より珍しく、自ら作れなければ、なお良いものとして映るのだろう。

2016-05-16 12:45:30
絹田屋 @kinuta_ya

23.変な街を思い出した。ヤパという所は知っているかい?私もその時まで名前すら聞いたことなかったんだけど、中々強烈だった。まずヤパは、人間は不完全で未完成であるというのが根底の共通認識だ。助け合ってこそ人間、という思想のもと、生まれてすぐに四肢のどれかをそぎ落とす。驚くだろう?

2016-05-16 12:48:33
絹田屋 @kinuta_ya

24.あるいは目や耳の片方を潰すこともあった。そうすれば平等に、すべての人間は不完全で未完成だ。宝飾もその欠けた部分を補うか、残った部分をさらに美しく見せるものが盛んだった。曲線の美しい義足になめらかな肌触りの義手。持ち主を表す宝石が嵌められ、家紋が彫刻されていたな。

2016-05-16 12:50:47