ニンジャスレイヤーは手放しの人間賛歌である

腐れマーズ三等星 @p_pakira

極端な言い方をすれば、フジキドにとって復讐とは「建前」でもあったのだ。己の恨みと憎悪を己から覆い隠すための。憎悪と怨恨だけで行動すれば、それはもう人間ではなくなってしまう。修羅道に堕ちながら、なおも人として在りたいという願いのために、復讐という正当性が必要だった。

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勿論復讐は彼の本願でもあった。しかし彼の「復讐」の対象は最初から「全ニンジャ」であり、目的と手段が混乱していた。憎しみという醜い感情を見て見ぬふりをするために、復讐という名目はうってつけだった。時代や場所によって、復讐は法的権利により保証されていたことも多く、正しいとされていた。

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もとより復讐自体も、恨みと憎しみ故の感情的な行動でもある。かくして、復讐を口にしながら憎悪によって駆動する怪物が誕生した。そして第二部で名目であった復讐が終わったとき、戦う理由が分からなくなってしまった。それもそのはず、心の奥底で燃えていたそれからはずっと目をそむけていたのだから

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しかし一方では、戦っていくうちに人間的な感情が生まれ、それが恨みと憎しみに代わる大きな原動力ともなっていった。それがなければ、フジキドはこれまでのニンジャスレイヤーと同じく、他のニンジャと同じく、完全な怪物に成り下がっていただろうし、再び戦いに立ちあがることもできなかったはずだ。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

それが何なのか、未だ具体的には明かされない。受け取り方は人それぞれだし、もしかしたら非常に陳腐な青臭いものと見えるかもしれない。しかしこれが、世にある数多くの復讐譚の「それから」という問いへの、ニンジャスレイヤーなりの大きな意味のある回答になることが期待される。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

ニンジャスレイヤー第三部は「復讐譚、それから」なのです。いじょうです。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

フジキドがやっていることは傍から見るとかなり危うくて、一歩間違えれば他の邪悪なニンジャと同じになってしまうんですよね。 彼の正当性を担保してるのは「なんとなく」という、人間としての実感に基づいたあやふやな「感覚」でしかない。それを言い換えれば「感傷」とか「人間性」とかになる。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

なので、作者はそこを全面的に信じている、という前提で読まなければいけなくなる。人間の善性を。でなければ主人公の行いが全く正しいものではなくなってしまう。これはかなり繊細ですよ。すごいですよ。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

自分の感じるところでは、フジキドの正しさは、善性の非常に根源的な部分によってしか保証されていない。この善性こそが人を人たらしめ、法を作らせ、死者への悼みを為さしめる。これは、とても開けっぴろげな、人間賛歌です。なので非常に人を選ぶと思う。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

ニンジャスレイヤーは「開けっぴろげな」、あるいは「手放しの」人間賛歌だ。なぜこのように言い得るかというと、人間の善性に条件を付けないからだ。無条件の人間賛歌だ。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

しかし、ただそのように書けばいいわけではない。ニンジャスレイヤーが人間賛歌として機能するのは、逆説的に、その反対の「悪」をひたすら緻密に描いてきたからだ。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

ニンジャソウル憑依者は邪悪な者と化す。しかしそれはニンジャソウルの邪悪さではなく、人間が秘めた邪悪さが解放されるに過ぎない、ということはこれまで既に指摘されている。ニンジャでなくとも、ネオサイタマには邪悪なモータルは山ほどいる。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

それはニンジャであるか否かに関わらない、人間が本然的に持つ「悪」だ。人間は善にも、悪にもなれる。誤用であることを承知で言えば、ニンジャスレイヤーは楽観的な「性善説」にも、悲観的な「性悪説」にも依らない。どちらも人間の本質として認めている。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

ここで思い出されるのは、シルバーキーことカタオキ。彼は一度、目の前で倒れた人を助けそこなった。それが、彼が身を投げうって戦う、見出し得る唯一の理由らしき理由だ。それゆえに彼の境遇に疑問を持つ読者も少なくない。シルバーキーは、人間の持つ善性を無条件に体現する象徴めいた存在なのだ。

腐れマーズ三等星 @p_pakira

ヤマヒロはタロに言った。「人は、一瞬で、変われる。良い方向にも、悪い方向にもな」と。人は善人にも悪人にもなれる。それまでの行いも関係なく。自分の意志で選ぶことができる。だからこそ、善行を行うものは尊い。 twitter.com/NJSLYR/status/…

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエ……」タロは一方的に殴られ続けるヤクザ天狗を見ながら、恐怖に声を震わせた。「…自分はもう、変われねえとか、変化には、長え時間が必要だ、と思ってる奴は、腰抜けだ」とヤマヒロ。我ながら皮肉な科白だと思いながら「…人は、一瞬で、変われる。良い方向にも、悪い方向にもな」　25

2012-01-21 21:04:39

腐れマーズ三等星 @p_pakira

人は何の理由もなく善行を行うこともできるし、悪逆非道の大罪人にもなれる。その上でフジキドの、人間の善性を信じる。それが本作を「無条件の人間賛歌」としている。そう思います。