空想の街氷涼祭2016　歌歌いのベル (3ページ目)

今日も営業が始まったというのに、私の歌の調子は相変わらず上がらない。店のみんなはおろか、お客様にも心配される始末。氷涼祭の時は毎年こんな調子だが今年は特に酷い。こんな雑音にも近い歌を聴かせるぐらいなら、今日はもう休んだほうがいいのかもしれないわね。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-03 16:42:45

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

あなたを思うと私は震えるあなたを求めると私は壊れる手を伸ばしたのは遥か昔で垂れた腕はもう上がらない水辺の葦のように弱くロウソクの火はとうに消えたお願い私を探さないでお願い私を見つけないでもう私は眠るからあなたの思い出だけ抱きしめるから #空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-03 17:44:07

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

歌い終わると、店の奥がざわついていた。どうやら猫が入ってきたらしい。食べたり飲んだりするところに猫が入ってくるのは本来ふさわしくないが、そのへんもこの街の住人は大らかだった。バーナが「昨日の猫だわ」と言う。でも私は返事をするのを忘れていた。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:05:39

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

店の明かりが抑え目なので、私はその猫をはっきり見る事はできなかった。でも妹がもし生きていたとしたらあんな感じだったろう。「それでは最後の曲を」とバーナが言う。毎年氷涼祭の最後に歌う曲がある。その伴奏が流れ始めた。そして私が歌い始める。でも声は出なかった。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:10:07

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

口は動く。口は歌詞を口ずさむ。でも声は出なかった。お客様も最初はざわついたが、次第に伴奏と私の口に注目するようになる。声にはならない最後の歌。口を動かすだけの歌と伴奏が終わると、お客様が盛大な拍手をくれた。歌はなくとも、私の思いは伝わった。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:13:35

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

最後に歌えなかった事の驚きと申し訳なさで、私は一礼してすぐに２階の自分の部屋へ駆け上がった。独りになると、悲しいのか情けないのか分からない涙が出た。あの場ですぐに入ってきた猫の元に駆け寄りたかった。例えそれが妹ではなくても、私はそれでも良かっただろう。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:16:11

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

でもそれができなかった自分がとても腹立たしかった。悔しくて悔しくて、私は泣いた。もしかしたら妹は私を探し出したのかもしれない。何百年という長い間、私を探していたのかもしれない。でも私には妹を抱きしめる資格も勇気もない。今まで私は何をしてきたのだろう。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:19:48

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

泣き疲れて寝てしまっていたら、１階からバーナの「また明日」という声が聞こえてきた。営業も閉店後の作業も終えて、皆が帰ったのだろう。私はベッドの上に腰を掛けながら、窓から月を見て、歌えなかった歌を歌った。本当は妹に届けたかった最後の歌。#空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:24:22

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

寂しい時は月を見上げてそうしたら私も同じ月を見てる悲しい時は月を見上げて私も月に泣いているからいつかあなたに会えたら同じ夜の話をしましょう私はいつもあなたと一緒だったと気づくはずだわそうしたらどんな夜も怖くないあなたと一緒なら怖くない #空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:28:25

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

もしもあなたが泣くのなら私が涙を止めてみせるわ悲しい思いはさせないとあなたが生まれた時に誓ったから私はどんな方法を使ってもあなたの涙を止めたい私の心はそういう風にできてるの私の心はあなたの愛でできてるの #空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:33:03

咲良潤　#言の葉の点綴 @sakura77_sosaku

だから今はおやすみなさい安心してお眠りなさい私の大事な愛しい子私の大切な私の妹 #空想の街 #歌歌いのベル

2016-07-04 00:36:10