五代ゆう先生による、「なにを語るか」と「いかに語るか」との話

まとめました。
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五代ゆう @Yu_Godai

設定と描写の差についてはしばしばツイートしていますが、今回とくに注意してみたのは、「語り口によってどのように物語の雰囲気が変化するか」です。今回意識したのは、コージーなユーモア・ミステリ風のファンタジイで、ユーモラスでクスッと笑えるゆったりした語りをテーマに置いています。

2016-07-15 23:55:34
五代ゆう @Yu_Godai

同じ一人称でも、語り手が違えば文章は変わります。視点人物が違う人物であり、性格や立場、考え、また作品のテーマが違えば、作品の語り口、その肌合いもリズムも変わってきます。これは三人称でも同じことです。意外とこれがみんなできてない。というか、書くことに一生懸命で

2016-07-15 23:58:49
五代ゆう @Yu_Godai

視点人物によって文章は変化するし、その物語に合った言葉づかいや文章自体のリズムにまで、気を配っている人はかなり少ない。

2016-07-16 00:00:33
五代ゆう @Yu_Godai

別の例をあげましょう。私がpixivでこそっとあげている「スカイフォール」の二次の冒頭ですが、同じく一人称文「私」で、ただし、こちらは「基本的にストイックで、多少気むずかしい部分があるが英国的なユーモア感覚も持ち合わせている老骨スパイ007」です。

2016-07-16 00:04:25
五代ゆう @Yu_Godai

私は、一度死に、ふたたび生の世界に帰ってきたが、それはけっしてジュニアスクールの校庭に放り込まれるためではないはずである。 ○○○○○○○○○○○○○○ fse.tw/OHIHb#all

2016-07-16 00:09:13
五代ゆう @Yu_Godai

こちらは「菊池光さんが訳したディック・フランシスなどのサスペンス小説」を頭において書いています。古き良き英国冒険小説の文体で、言葉づかいが先のウィーナの話にくらべて硬く、いくぶん生真面目な感じで、全体的に硬質な感じがしますね。

2016-07-16 00:12:18
五代ゆう @Yu_Godai

もうひとつ。こちらはわけあって某なろうに匿名であげているサンプルの一部です。これの語り手は現代の男子高校生「俺」です。

2016-07-16 00:13:25
五代ゆう @Yu_Godai

「おい。また『憑かれて』んぞ、おまえ」 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ fse.tw/jFf88#all

2016-07-16 00:17:41
五代ゆう @Yu_Godai

現代の男子高生なので、元気です。言葉づかいかなりフリーダムです。いわゆる「小説」文体というより普通の「話しことば」に近い語りで、なおかつもうひとつ、これはホラー系の話なので、人物名をすべてカタカナ書きにすることで、ザラッとした異物感を演出しています。と思います(たぶん

2016-07-16 00:21:34
五代ゆう @Yu_Godai

三つこうして例をあげましたが、ことこのように、「なにを」語るかと同時に、「どう」語るか、語り口、文章のリズム、漢字仮名づかい、そういったものを仕掛けに使うことによって、小説全体の雰囲気、傾向、風合いなどを決定し、演出することができます。

2016-07-16 00:23:56
五代ゆう @Yu_Godai

「なにを」語るかもむろん重要なのですが、「どう」語るかを意識して選択できれば、描く題材によって画材を変更するようなもので、単に書くだけよりいっそうゆたかな語りと、肌合いや空気感の醸成、言葉にはしないけれど伝わる仕掛け、などを表現できます。

2016-07-16 00:26:09
五代ゆう @Yu_Godai

「どう語るか」について、これを使った自作品の例をもうひとつ。ちょっと日は過ぎてしまいましたが、アトラス様のゲーム、アバタールチューナーの原案、ハヤカワ刊の「クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー」の一巻をお手元にお持ちの方は、ちと冒頭を覗いてみてください。

2016-07-16 00:30:42
五代ゆう @Yu_Godai

お持ちでない方はちと以下を。  視線を感じた。 ○○○○○○○○○○○○○○○ fse.tw/kMZB3#all

2016-07-16 00:35:43
五代ゆう @Yu_Godai

実はこれ、「語り」の仕掛けを演出に使っている例です。ちと注意して読んでいただくとわかると思うのですが、この冒頭シーン、話者である視点人物(サーフ)の人称が出てこず、主語のない文章が続きます。主語がなくてもなんとなく伝わってしまう日本語という言語のファジーさを使った演出ですが、

2016-07-16 00:38:54
五代ゆう @Yu_Godai

それと同時に、語り手が「未だ自己が覚醒していない状態」というのがなんとなくぼうっと伝わる仕掛けになっています。ゲームでは「灰目」と言われている状態ですね。まだ自己という観念がなく、感情も持っていないので、なんとなく全体に霧がかかったようで、危機もあまり肌身に迫ってきません。

2016-07-16 00:41:32
五代ゆう @Yu_Godai

技術的な筋を言えば、「まだ自己という観念すら認識できない語り手」が「自分」という観念を持っているわけはないので、当然その語りも、〈己〉という主語は出現しないはず、という理屈なのですが、それを、自己が覚醒するところまでずっと主語なしで書いていって、

2016-07-16 00:44:03
五代ゆう @Yu_Godai

自我が覚醒する、ゲームで言えば「瞳に色がつく」時点ではじめて、「俺」「サーフ」という主語が登場し、ドラマや感情にピントが合う(サーフも、また彼の視点を通して物語をんでいる読者も)わけです。この効果は、それまで主語のないボケた文章をずっと続けていたことによってより強く演出されます。

2016-07-16 00:46:49
五代ゆう @Yu_Godai

この効果は少し形を変えていますが、同じくクォンタム5巻についても使っています。(以下少々ネタバレ)4巻の最後で話者であるサーフはいったん消滅し、物語の表舞台からは消えるわけですが、

2016-07-16 00:48:58
五代ゆう @Yu_Godai

5巻の文章を注意して読んでみてくださるとわかるかと思うのですが、それまでの文章に比して、5巻の文章は当初、少しボケ気味です。というか、あまり人物の内部に深くは入り込まず、主にキャラクターの外面のみからドラマを綴っています。

2016-07-16 00:50:41
五代ゆう @Yu_Godai

これは、4巻のラストで消え、「存在はしないが偏在するサーフという全知の観察者」が、物語と読者とのあいだにこっそり入り込む形で語られているからです。明言されてはいませんが、5巻の冒頭からその半ば、97ページあたりで〈彼〉の存在が匂わされるあたりまで、

2016-07-16 00:57:19
五代ゆう @Yu_Godai

〈彼〉はそこに、物語どおりの『存在するが存在しないシュレディンガー』、読者の目の前にいるけれど関知できない全知の観察者として、存在し続けているのです。「語り」の仕掛けが物語と連動し、視点人物の性質の変化によって「語り」も変わっていること、おわかりでしょうか。

2016-07-16 00:59:13
五代ゆう @Yu_Godai

クォンタムはまあかなり特殊な例ですが、このように、「いかに語るか」ということを考え、工夫することによって、別に叙述ミステリというほど大仕掛けなものではなくとも、より物語の雰囲気を濃くし、その世界の肌合いや空気を演出することができます。

2016-07-16 01:02:48
五代ゆう @Yu_Godai

…いつものようにだんだん何を言っているのかわからなくなってきました。とにかく「なにを語るか」を考えたら、つぎは「いかに語るか」も考えれば、さらに読者にとって読みやすく、また、言葉によらない演出効果を付加することができると、そういうお話でございます。おそまつさまでしたm(_ _)m

2016-07-16 01:06:21