ストレイトロード:ルート140(21周目)
- Rista_Bakeya
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コンサートはいよいよ佳境に入る。私達を包む熱気は観衆の声援と興奮か、予報より強い日差しのせいか。楽しげに声を張り上げる藍が生まれる前、世界が壊れかけた年も、演奏家達は野外での催しに拘ったという。青空に響く力強い音楽に、各地から集った人々が、そして巨大な翼を持つ野次馬が酔いしれる。
2016-07-22 19:18:55湖を進む遊覧船の上でゲームに興じる人々がいる。私達の目には人間しか映らないが、彼らは眼鏡越しに別の何かを見ている。「こんな場所で遊ばなくても、って思ってるでしょ」藍は彼らに背を向けて手すりにしがみつき、雪化粧の山を眺めていた。「みんな見てるわよ、景色も。ゲームの背景としてだけど」
2016-07-23 19:23:54「この嵐はお前が呼んだんだろう、俺の家が壊れたらどうしてくれる!」藍に怒鳴る男は恐らく真剣に自分と家族を心配しているだけだ。しかし怒りを抑えない為に発想が広がらず、黙っている藍が魔女の力を抑制していることには気づかない。本当に天候が彼女の仕業なら、そろそろ家屋の被害が広がる頃だ。
2016-07-24 20:19:25移動中、藍は古書店で入手した参考書を真剣に読んでいた。真面目に勉強する姿を信号待ちの度に見るうち、私はずっと同じページが開かれていることに気づいた。彼女は誰かが欄外に残したメモの解読を試みていた。「これの意味分かる?」「少し時間をください」宿に着くまでに説明を纏められるだろうか。
2016-07-25 19:27:03140文字で描く練習、1039。欄外。 書き残したメッセージの方が重大な発見だった、なんて話も現実にあるから侮れない。
2016-07-25 19:27:10川を塞き止めた流木の壁が間もなく壊れる。藍は遠く離れた上流の現実を電話で伝えただけだが、隣で聞いた私は目の前の下流に及ぶ危険に気づいた。「逃げましょう」藍の腕を掴んだが抵抗された。「まだ話し中なの」私は仕方なく少女を抱え上げて走った。苦情は無視した。何より速やかな離脱こそ重要だ。
2016-07-26 19:46:30魔女排斥派の妨害で宿を追い出された私達は民家の地下室で夜を迎えた。藍は暇だからと学校から届いた数学の宿題を始めた。「これ、数字変えただけで全部同じじゃない」延々と続く類題に文句を言いながら答えを埋めていた藍の手が止まった。担任が用意した引っ掛け問題に、想定通り足を取られたようだ。
2016-07-27 19:31:19140文字で描く練習、1041。類題。 数学は公式や定理を覚えただけでは身につかない。経験と実感が力になる。
2016-07-27 19:31:32宿の主人に頼まれた私達は彼の知人の結婚式を手伝った。舞台は町の外れ、慶事にしては殺風景な建物だ。「みんな逃げて!」室外から聞こえた藍の声を演技と察したのは私だけらしい。列席した誰もが顔を見合わせ、物音に振り向いた途端に叫んだ。扉を開けて満足そうに笑うのはゾンビに扮した花嫁だった。
2016-07-28 19:55:41「朗報です」私は電話の内容を藍に伝えた。彼女の端末を奪い逃げていた人物が警察に捕まったという。「わたし何もしてないわよ?」顔を上げた藍に笑顔が戻っていた。「はっきり言いますね」「絶対誰かに聞かれるから先に言ったの。それで?」事の顛末を語った後、藍は度々思い出しては吹き出していた。
2016-07-29 19:07:20藍は振り返って私を見上げた後、川に架かる吊り橋を小走りで渡り始めた。当然橋は大きく揺れたが、それさえも楽しんでいるとステップから分かる。見ている側はワイヤーが切れそうにないと知っていてもつい不安になる。対岸へ着いてからこちらを向いた藍は、これから私が渡る橋をわざと大きく揺らした。
2016-07-30 20:34:47怪物の中には定住せず移動し続けるものもいるという。旅の途中で何度か私達と遭遇した個体は、戦う度に闘志も攻撃も激しくなっていた。「あっちから見れば、何度引っ越してもわたしたちが来るって感じなのかも」藍が話していると、見覚えある模様の巨体が車の前を横切った。今日も因縁の対決が始まる。
2016-07-31 19:56:42大通りの交差点で藍が石碑を見つけた。旧世紀の戦争で甚大な被害があったと碑文は語るが、周囲にそれらしき爪跡は見当たらない。「ひどかったって言っても想像できない」小綺麗な町並みの中心で藍は携帯端末を開く。「あ、全部壊されたのね」旧世紀の武器を凌駕する怪物の爪が過去を更地にしたらしい。
2016-08-01 19:29:11140文字で描く練習、1046。旧世紀。 今生きているモノが一番怖い。 恒例のお題シリーズ開始。 ラ( @raaaaaaaaaaaa14 )さんから提案いただきました。
2016-08-01 19:29:18森の奥で小屋らしき焼け跡を見つけた。残骸を覆う落ち葉と雑草が時間の経過を感じさせる。周囲を見て回ると、火事を免れた窯の中に小さな冊子を見つけた。「日記ですね。何故こんな所に」「持ち主にとっては隠しておきたかったモノなんじゃない?」藍は言った傍から誰かの秘密の隠し場所を暴き始めた。
2016-08-02 21:04:19140文字で描く練習、1047。隠しておきたかったモノ。 後から来る者には知る由もない。 愁海棠( @takuramu_ossan )さんからのリクエストでした。
2016-08-02 21:04:26崩れたビルの頂点、比較的原形を留めた屋上部分の周囲に、瓦礫が集められている。怪物の巣が着々と構築される。人々はそれを遠巻きに見つつ、自分達が通る道を作っていた。「ほら見て、みんなここにいる」宿の娘が片付けを手伝う藍に言った。「人がいれば町は作り直せます。それが今の私達の希望です」
2016-08-03 19:33:50