こじらせたリーマン 20160822-20160828
- tsutsujishika
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「にーさんにーさん!スイカいかがっすかあー!」 下の弟が切ったスイカを持って寄ってくる。うん。食べる。食べるけどさー。お兄ちゃんいまそんなテンション上がんないの。ごろんと転がったまま弟を見上げると、何かあったんすか?と首をかしげられる。そう。何かあったの。だから落ち込んでるの。
2016-08-28 15:31:10「ひょろ松さんのこと?」スイカが乗った皿を傍らに置いて、弟も俺の隣に寝転んだ。そのままぴたりとくっついてくる。こいつは体温が高いから暑い。っていうか、だから、チョロ松だっての。
2016-08-28 15:32:15「なーんでお前はそんなに察しがいいわけ」 「きょーだいっすから」 「すげーな兄弟って」 そのまま弟を抱き込んで、うりゃっと頭を乱暴になでてやる。この弟もあとすこしで成年という歳なのに、未だにこういう扱いが似合うから不思議だ。
2016-08-28 15:33:12「あ、兄さん帰ってんじゃん。……うわっ暑苦しい。何やってんの」 下の弟をわしゃわしゃして遊んでいると、上の弟が通りかかった。 「お前もやってほしい?」 「んなわけないでしょ」 すげない態度をとられたが、弟はそのまま俺たちの近くに座って、スイカを手に取った。あっそれ俺のなんだけど!
2016-08-28 15:34:01「んで?チョロ松さんとなんかあったわけ」 「お前までそういうこと言うの」 「だって兄さん、元気ないじゃん。いつもだったらもっとうるさいし、はしゃぐし、子供みたいだし」 「ええっ俺そんなかなあ」 「そんな兄さんが大人しく畳の上に転がってるなんて、よっぽどだよね」
2016-08-28 15:35:04「んー」 よっぽど。ね。そうかもなあ。ものすごく、本気で、落ち込むくらいには。 「……俺、あいつのこと、好きなんだよねえ」 「……へえ」
2016-08-28 15:36:00「おそ松にーさん、ひょろ松さんのこと好きなの?」 下の弟がぐりぐりと顔を腹におしつけてくる。いたたた。だからそうじゃなくて、いや、そうだけどさ。 「へえ、って。お前ら、気持ち悪いとかないわけ。俺男の、同僚がすきなんだよ?」 「そーいう差別って、時代遅れでしょ……。それにさ」
2016-08-28 15:37:02「兄さんはもう覚えてないかもしれないけど。僕が高校卒業する頃、小説家になりたいって言った時に、父さんや母さんは渋い顔したけど、兄さんはそうじゃなかったでしょ。いいじゃん、って言ってくれたんだよ。好きなものに、なればいいって。目指せばいいって。そう言ってくれたんだ。」
2016-08-28 15:38:00「……その顔は覚えてないって顔だね。まあいいよ。でも僕は覚えてる。嬉しかったから。……兄さんはなんの打算もなく、良い物は良い、好きなものは好き、それで良いと思ってるし、そう言ってくれるでしょ。」
2016-08-28 15:39:03ゆっくりと言葉を選んで心の内を伝えてくれた上の弟に続いて、ぼくもぼくも!全力応援しましんぐんだん!下の弟もそう言ってくれる。お前ら……。 「そんなにお兄ちゃんのこと尊敬してくれてたなんて……!」 「いやそれは違う」 「えー!」 「まあでも、そういうところが兄さんの取り柄だと思う」
2016-08-28 15:41:02「そうそう!好きなものは好きって言うところー!僕も野球好きー!兄さんたちも好きー!スイカも好きー!!!ってあれー!スイカがない!なんで!」 「僕が全部食べちゃった。ヒヒ」 「えー!もうスイカないのー!!」 「まだ母さんがたくさん切ってたからあるよ。行こう。ほら、兄さんも」
2016-08-28 15:42:00「おう!」 笑って見せて、立ち上がる。 好きなものは好きっていうところ、ね。それができないから、今、こんなに苦しいんだろうな。
2016-08-28 15:42:01この時期にしては外は寒く、ぱらぱらと雨が降っていた。また、台風がくるらしい。面倒なこったね。今度こそ会社が休みになんねえかな。なんて思いながら、最後のひと口を吸いこむ。
2016-08-28 22:34:38会社のことを考えると、勤労の面倒くささと同時に、チョロ松の顔がちらつく。ああ、いやだなあ。いやなのに、まだ、好きなんだ。
2016-08-28 22:35:41自分の気持ちをごまかすように、煙草の火を消した。煙の筋は立ち消えたが、あいつに対する気持ちなんて、そう簡単に消えやしない。……消えたらきっと楽なんだろうな。
2016-08-28 22:37:03