こじらせたリーマン 20160808-20160814
- tsutsujishika
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週の後半からお盆休みということもあってか、社内の空気はいつもよりいくらかまったりとしていた。急ぎの書類も今は無いし、お昼までが長く感じそうだ。
2016-08-08 09:20:07……なんとなく。本当になんとなく、社内システムにログインして営業の予定を見る。おそ松は午前中外周りらしい。お盆休みは11日からか。うん。いや、だからなんだっていうんだろう。誰が咎めるわけでもないのに、隠すみたいにして画面を閉じた。
2016-08-08 09:21:03隣の女性社員に「何か良いことありました?」と聴かれる。べっつにー。と答えつつも、PCのスイッチを入れる指の動きすら陽気だった。 いや、昨日弟にああ言われたからじゃないけど。そういえば最近あいつと普通に話すことはなかったなーと思って。誘ってみただけ。ほんとそれだけだから。
2016-08-08 11:21:02誘いを断られなかっただけでちょっと浮かれてしまうくらいには、やっぱり俺はあいつのことが好きらしい。夜はあんなことしてるのに、昼飯食えるだけで嬉しいなんて、ちょっとへんだよなあ。
2016-08-08 11:22:03誘われたのは、びっくりした。けど、以前から一緒にお昼にいくなんてよくあったことだし、断るのも変だし…。なんて、考える前に口から「行く」という言葉が出ていた。 今日は自前の弁当を持ってきていない日で本当に良かった。
2016-08-08 11:56:04ただの同僚を少し踏み外してしまってから、昼間に二人で外へ出るなんてなかった。緊張するけれど、やっぱりどうしてもこの胸が喜びを感じてしまう。歪な関係に甘んじているくせに、この心は恋に浮かれる純粋さを、まだ捨てきれないらしい。
2016-08-08 11:57:1680年代の空気をそのまま濃縮しました、みたいな店内はお昼時なだけあって忙しい。食券を買っておばちゃんに渡す。俺はチキン南蛮定食の大盛、チョロ松は豚生姜定食の小盛。お前ひょろいんだからもっと食わねえと、と言うと、ここの量多いから食べきれねえよと返された。
2016-08-08 12:11:01思えばあの飲み会の日から、こいつとの距離を測りかねていた。でもこうやって並んでテーブルにつくと、それが嘘みたいに自然にしゃべれる。なんだ、普通でいいんじゃん。腹減ったーとぼやくと、ちょっとは待てねえのかよ。子供か?なんて返してくれる。悪態すら嬉しく感じるんだから、この病は重症だ。
2016-08-08 12:12:07「なあチョロ松。煙草吸っていい?」 「お好きにどーぞ」 僕がいまだに豚の生姜焼きと戦っていると、先に食べ終えたおそ松は笑いながら胸ポケットから煙草を取り出した。食後の一服というやつだろう。
2016-08-08 12:46:04この店は良くも悪くも昔ながらで、分煙なんてされちゃいない。各テーブルに灰皿はおいてあるし、周りの客も多かれ少なかれすぱすぱ煙草を吸っている。だから正直目の前のこいつに煙草を吸われたところで、僕が受動的に吸ってしまうであろう煙の量は大して変わらないんだけど……
2016-08-08 12:47:01そういうときでもこいつは必ず「煙草吸っていい?」と聞いてくれる。些細なことながら、そういうところが、好きだった。煙草の匂いも煙も好きじゃないけれど、他の人が吸ってたってなんとも思わないけれど、おそ松が煙草を吸っている姿だけは、格好良いなと思ってしまうのだ。
2016-08-08 12:48:02俺が煙草を吸いながら適当にしゃべっている間に、やっとチョロ松が食事を終えた。どうもこいつは食が細いし、食べるのもゆっくりだ。別に待たされるのは構わない。そもそもこいつがものを食っているところを見るのが、俺のひそかな楽しみのひとつだった。
2016-08-08 12:56:03ちょっとずつ口に運んで食べるとことか、箸使いが綺麗なとことか、どんなときでも食べる前にはいただきます、たべた後にはごちそうさまと小さく言うとことか、うん。そういうところが好き。
2016-08-08 12:57:15ただ、小食なのはちょっと心配になる。まあ体調を心配するなら煙草なんて吸うなって話だけど。そう思いながら、短くなったそれを灰皿におしつけて、火を消した。
2016-08-08 12:58:03