初★体★験 〜男子凍結・外伝〜

【R18】 細々と書いてる「男子凍結」のスピンオフ。
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夢乃 @iamdreamers

太陽は沈んだけど、まだ辺りは明るい。でも、足元が心許ないから、あたしとお母さんはかい中電灯を使った。シゲルさんの家は、バス停の隣。さっき通った道を今は逆に歩いている。 「昼間はまだ暑いけど、陽が落ちるともう涼しいねぇ」 #twnovels

2016-09-02 19:57:38
夢乃 @iamdreamers

お母さんが言う。 「その格好、寒くない? 風邪ひかないようにね」 「うん、大丈夫。すぐそこだし」 でも、カーディガンでもひっかけてくれば良かったかな。言われてから気付いたけど、Tシャツ一枚はちょっと寒いかも。 #twnovels

2016-09-02 19:58:07
夢乃 @iamdreamers

今日の昼間は残暑っていうより夏が戻ったみたいな暑さだったのに。 「この前シゲルさんのところに行ったときは暑かったね。8月の初めだったっけ」 その後も、昼間にシゲルさんのところに行ったことはあるけど。何しろ、夏休みだったし。 #twnovels

2016-09-02 19:58:38
夢乃 @iamdreamers

「そうね。あの日も陽が沈んでから行ったっけ。少しでも涼しくなってからって。今日はもうちょっと早いほうが良かったかな。ごめんね、仕事が終わらなくて」 「ううん、あたしも帰ったばっかりだったから。バスの時間もあるし」 #twnovels

2016-09-02 19:59:15
夢乃 @iamdreamers

「そうね。バスももうちょっと増やしてくれるといいんだけど。クミコはまだいいけど、低学年の子もバスが出るの待ってるんでしょう?」 「うん。みんな校庭で遊んだり図書室で宿題したりして、時間をつぶしてる」 そうなの。 #twnovels

2016-09-02 19:59:54
夢乃 @iamdreamers

この村と街をつなぐマイクロバス、朝と夕方に一便ずつしかないから、乗り損ねるわけにいかないし、学校が早く終わっても待ってないといけないの。バスでも一時間くらいかかるし、結構な坂もあるから、自転車じゃつらいし。中学生の中には、自転車で通ってる人もいるけど。 #twnovels

2016-09-02 20:00:26
夢乃 @iamdreamers

あたしは中学生になってもバスかなぁ。行きは下り坂が多いからまだしも、授業で疲れた帰り道、あの坂を自転車で上る元気は、多分、出ない。出せない。 なんてことを話してるうちに、シゲルさんの家に着いた。お母さんがインターホンを押す。 #twnovels

2016-09-02 20:01:04
夢乃 @iamdreamers

応答はすぐにあった。 「どうぞ、上がってください」 「お邪魔します」 げん関のドアを開けて中に入るお母さんの後ろから、あたしも家の中へ。スリッパをはいたシゲルさんがげん関まで出むかえてくれた。 「いらっしゃい、ルミコさん、クミコちゃん。いつもすみません」 #twnovels

2016-09-02 20:01:31
夢乃 @iamdreamers

げん関には、もう、スリッパが二足、並んでいる。シゲルさんがあらかじめ用意しておいてくれたみたい。あたしとお母さんはクツをぬいで、スリッパにはき替えた。それからぬいだクツをそろえて。 「すぐにお夕飯の支度をしますね。クミコは? 先にお風呂いただいちゃう?」 #twnovels

2016-09-02 20:02:20
夢乃 @iamdreamers

「あたしもお夕飯手伝うよ」 「そう? それじゃ、荷物を寝室に置いたら台所に来て。あ、お母さんの荷物も頼めるかしら」 「いいよ。貸して」 両手に手提げ袋を持って、あたしは奥のしん室へ。この家、ちょっと変わってるのよね。 #twnovels

2016-09-02 20:03:01
夢乃 @iamdreamers

住んでるのはシゲルさん一人なんだけど、しん室が四つもある。毎日、誰かがとまるからなんだろうけど、四つは多い気がする。ろう下の先、左右に二部屋ずつ。左手の二部屋は使っていないみたい。右手の奥がシゲルさんの使う部屋で、手前がいつもあたしとお母さんがとまる部屋。 #twnovels

2016-09-02 20:04:24
夢乃 @iamdreamers

その部屋に、あたしとお母さんの手提げぶくろ、それに背中から下ろしたランドセルを置いて、あたしは洗面所に寄ってうがいと手洗いを済ませてから台所へ。お母さんはもう食事の準備をしている。 「クミコ、お箸とお茶碗を並べて。それとお皿も出しておいてね」 #twnovels

2016-09-02 20:05:01
夢乃 @iamdreamers

気配であたしが来たのがわかったんだろう、お母さんはふり返りもしないで言った。 「はーい」 シゲルさんの家では、あたしはこれくらいしか任せてもらえない。自分の家ではかん単な料理を作ったりすることもあるんだけど。 #twnovels

2016-09-02 20:06:06
夢乃 @iamdreamers

お母さんに言わせると、あたしの料理はまだシゲルさんに食べてもらうレベルになってないんだって。いつか、あたしもシゲルさんに出せる料理を作ってみせるぞ。そんなことを思いながら、台所といっしょになっている食堂のテーブルをふいて、お茶わんとおはしを並べる。 #twnovels

2016-09-02 20:06:39
夢乃 @iamdreamers

お皿はお母さんの手元を見て、適当に選んでタナから出す。部屋に、いいにおいがただよっている。 「こんなもんね」 焼いているお肉を菜ばしで突いたお母さんは、できた料理をお皿に盛り付けて、台所と食堂の間のカウンターに置いていく。 「クミコ、運んで」 「はーい」 #twnovels

2016-09-02 20:08:36
夢乃 @iamdreamers

食堂側に回って、落とさないよう気を付けてお皿を持って、テーブルに並べて。お母さんもすい飯器を持って食堂に来た。 「クミコ、シゲルさんを呼んできて。居間にいると思うから」 「うん」 シゲルさんは、居間のテレビでなんか見てた。今日のニュースみたい。 #twnovels

2016-09-02 20:09:21
夢乃 @iamdreamers

「シゲルさん、お夕飯できたよ」 「ん。ありがとう」 シゲルさんはテレビを消してソファから立ち上がった。 「手を洗って行くから、クミコちゃんは先に行ってて」 「うん」 洗面所に行くシゲルさんを見送って(って言うのは大げさだけど)あたしは食堂へ。 #twnovels

2016-09-02 20:10:28
夢乃 @iamdreamers

「シゲルさん、すぐ来るって」 ご飯をお茶わんにもっていたお母さんに報告して、あたしはあたしのいつもの席にすわった。待つほどもなく、シゲルさんも入ってくる。 「いつも済まないね」と言ってイスにすわる。 「いいんですよ。これも村の女の仕事ですから」 #twnovels

2016-09-02 20:11:37
夢乃 @iamdreamers

お母さんも笑顔で席につく。三人で今日の食事に感謝して─いただきます─おはしを手に。ご飯とおみそしる、サラダにつけ物に焼いたお肉。ほとんど、村のみんなの家の畑で採れたもの。ご飯も、田んぼのすみで育ててるお米。出荷するお米は村では食べない。 #twnovels

2016-09-02 20:12:31
夢乃 @iamdreamers

「お母さん、これ、イノシシ?」 あたしはお肉を突きながら聞いた。 「ええ、そうよ。今日、北の人が持ってきてくれたの。大きいのが獲れたからシゲルさんに、って」 北の集落にはりょう師が集まっている。このイノシシ、とれたてなのか。 「冷とうのより美味しいかも」 #twnovels

2016-09-02 20:13:13
夢乃 @iamdreamers

「新鮮だからね」 お母さんもシゲルさんも、美味しそうに食べてる。幸せな気分。 「クミコちゃん、学校はどうだい?」 シゲルさんが聞いてきた。 「うん、もうすぐ運動会だからその練習が始まってる」 「そうか、それで今日、チカちゃんが体育の話をしてたんだな」 #twnovels

2016-09-02 20:14:04
夢乃 @iamdreamers

シゲルさんは笑った。 「あら。今日シゲルさんに会ったの?」 「ええ、夕方の散歩に出ているときにね、帰ってくるクミコちゃんとチカちゃんに会ったんですよ」 口に大きめのお肉を放り込んでモグモグしてるあたしの代わりに、シゲルさんが答えてくれた。 #twnovels

2016-09-02 20:14:38
夢乃 @iamdreamers

「あら、そうでしたの。この子、私には何も言わないんだから」 「違うよ〜 そういう話の流れにならなかっただけだよ」 あたしはお肉を飲み込んでから、こう議した。 「はいはい、そういうことにしておきましょ」 お母さんも笑ってる。もう、からかってるのね。 #twnovels

2016-09-02 20:15:17
夢乃 @iamdreamers

でも、お母さん、家で二人だけでご飯を食べてる時よりずっとうれしそう。その気持ちはよくわかる。だって、あたしも、同じだから。毎日、こうだといいのにな。 三人の笑い声に包まれて、楽しい夜はふけていった。 #twnovels

2016-09-02 20:16:07
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