男子凍結 第五部

第四部から十三~十四年ほどが経ちました。
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まとめ 男子凍結 第四部 物語は次のステップへ。 ---- 第五部はこちら→ http://togetter.com/li/1058228 2930 pv 18

第五部

六十五

夢乃 @iamdreamers

毎日の授業は退屈。そう思いながらも、アユナはタッチペンを使って教師が教室の正面スクリーンに表示した内容をタブレットに書き写していった。小学生に入ったばかりの頃は、手で書くことで覚えるものよ、と教師に言われたからそうしていただけだった。 #twnovels

2016-12-11 13:29:21
夢乃 @iamdreamers

それに疑問を持ったのは小学三年生のときだったか、四年生だったか。暫くの間、書き取り止めたことがある。その結果は次の試験で現れた。きちんと憶えたつもりの授業の内容を、ほとんど憶えていなかった。もともと記憶力に自信を持っていたアユナは打ちのめされた気がした。 #twnovels

2016-12-11 13:29:47
夢乃 @iamdreamers

自分がこれまで頭で憶えたと思っていた授業の内容は、実は手を動かして書き取ることで、体が憶えていたらしい。いや、手を動かすことで頭が憶えたのかもしれないが、それはどちらだろうと構わない。兎に角、自分の記憶力は自分で自惚れていたほど大したものではないらしい。 #twnovels

2016-12-11 13:30:01
夢乃 @iamdreamers

それからというもの、アユナは授業の内容の書き取りを怠ることはなくなった。実際のところ、アユナはそのときに自分が思ったほど記憶力に難があるわけではなく、人並み以上の記憶力を持っていた。だからこそ、授業内容を写し取るだけで上位の成績を保っていられたのだが。 #twnovels

2016-12-11 13:30:15
夢乃 @iamdreamers

それでも、授業が退屈なことには変わりはない。けれど、そんなアユナも興味を持って受ける科目があった。歴史、それも近・現代史は特に興味を示した。アユナが歴史に興味を持つようになったのは、小学五年生の誕生日のときだったろうか。 #twnovels

2016-12-11 13:30:28
夢乃 @iamdreamers

いや、あのときは冬だった。クリスマスイブのときだった。アパートで、アユナと母とそれにミユの三人でささやかなクリスマスパーティーを開いたとき、珍しく酒に酔った母が言ったのだ。 『アユナ~、あなたには男の姉妹がいるのよ~。あの子は今、どうしてるかしらね~』 #twnovels

2016-12-11 13:30:45
夢乃 @iamdreamers

男の姉妹? 私は一人っ子だよね? どういうこと? けれど、母はそのまま眠ってしまった。 『ねぇ、ミユさん、男の姉妹がいるって、どういうこと?』 そのとき、アユナは一緒に暮らしているミユに聞いた。 『さぁ、なんのことかしらね? お母さん、夢でも見たんじゃない?』 #twnovels

2016-12-11 13:31:00
夢乃 @iamdreamers

翌日目を覚ました母にもそれとなく聞いてみたが、適当にはぐらかされてしまった。それ以降、アユナは“男”に関係することに興味を持つようになった。学校の授業の中では、保健と、そして歴史に。中学三年になって、ようやく近代・現代に入ってきた。 #twnovels

2016-12-11 13:31:15
夢乃 @iamdreamers

今日、次の時間は、その歴史の授業だ。今日は第三次世界大戦、通称“男子大戦”のはずだ。アユナは手を動かしながら、この時間が過ぎるのを待った。 #twnovels

2016-12-11 13:31:28
夢乃 @iamdreamers

*********** #twnovels

2016-12-11 13:31:41
夢乃 @iamdreamers

「それは、ヨーロッパ、イタリアから始まりました」 歴史を語る先生の声に、アユナは耳を傾けた。 「当時、イタリアは世界でも最も男性が少なくなっている国の一つでした。他のヨーロッパの国々と較べても不自然なほどの減少数でした。」 #twnovels

2016-12-11 13:31:53
夢乃 @iamdreamers

「そのため、イタリアは、フランスやスイス、オーストリアを初めとするヨーロッパ各国に男性を提供してくれるよう、繰り返し申し入れをしていました。けれども、男性が減少していたのはイタリアに限らず、ヨーロッパ各国も、その他の国々も状況は同じでした」 #twnovels

2016-12-11 13:32:06
夢乃 @iamdreamers

「そのため、当然のように、男性の提供を申し入れられた国々はその要請を断りました。イタリアは焦ったでしょう。ヨーロッパは、世界で見ても男性減少現象が顕著に現れていたのですが、その中でもイタリアは、ヨーロッパ平均の十分の一程度の男性しかいなかったのですから」 #twnovels

2016-12-11 13:32:19
夢乃 @iamdreamers

「ヨーロッパ以外の国々への支援も同時に行われていましたが、ヨーロッパ以外の国々は、人種の違いや距離などを問題に挙げて、その要請に肯んずることはありませんでした。このままでは、イタリアでは男だけでなく、そもそも子供が産まれなくなる」 #twnovels

2016-12-11 13:32:34
夢乃 @iamdreamers

「そう遠くない未来には、イタリアという国は存在しなくなってしまう。当時のイタリアの首脳陣はそう考えたのでしょう。男性の提供要請を始めてから十年後、ついにイタリアは隣国フランスに攻め入りました」 アユナは息を呑んだ。 #twnovels

2016-12-11 13:32:49
夢乃 @iamdreamers

「とはいっても、いきなり砲撃などが始まったわけではありません。イタリアの宣戦布告と同時に、国境付近に待機していた、装甲輸送車が一気に国境を渡り、フランスへと入りました。同時に、フランス国内の各所にあった男性保護施設でも騒動が発生しました」 #twnovels

2016-12-11 13:33:02
夢乃 @iamdreamers

「男性の扱いは世界各国で異なっていました。特に管理しない国、IDなどでその所在や行動などの監視だけする国、成人になった男性をひとつところに集めて集中管理する国、男児が産まれたらすぐに集めて管理する国、などです」 #twnovels

2016-12-11 13:33:18
夢乃 @iamdreamers

「当時のフランスは、成人になった男性を国内のあちこちにある、男性保護施設に集めて管理していました。その保護施設に、イタリアは十年かけて自国の工作員を送り込んで、集められた男性達を纏めて拉致したのです」 #twnovels

2016-12-11 13:33:39
夢乃 @iamdreamers

「国境を越えた装甲輸送車は、イタリアに近い、フランス領内のいくつかの男性保護施設に乗り付けると、工作員によって制圧されていた施設から、男性を連れ去ったのです」 「先生!」 生徒の一人が手を上げた。 「はい、鈴架鋳さん」 #twnovels

2016-12-11 13:34:03
夢乃 @iamdreamers

「その時の、フランスの男性保護施設にいた職員はどうしたんでしょう? 抵抗はしなかったのでしょうか?」 「抵抗はしたのでしょう。けれど、職員の半数以上は工作員によって排除、殺害されてしまったようです。残りは戦意を失って、拘束されたそうです」 #twnovels

2016-12-11 13:34:17
夢乃 @iamdreamers

質問をするために立ち上がった生徒は、力が抜けたように再び椅子に座った。 「そうしてイタリア軍は、大した抵抗もなく、フランスの男性保護施設から数多くの男性を拉致・誘拐したのです」 「フランスはそれを見過ごしたのですか?」 #twnovels

2016-12-11 13:34:35
夢乃 @iamdreamers

今度は別の生徒が手を上げて、教師の指名を待たずに質問した。 「当然、フランスも追撃の軍を出しましたし、国境の封鎖も試みました。けれど、輸送車を追った軍は、中に男性を乗せていますから攻撃はどうしても控えめにならざるをえませんでした」 #twnovels

2016-12-11 13:34:50
夢乃 @iamdreamers

「国境では、かなり激しい戦闘が行われましたが、それはイタリアの陽動でした。地上戦に大部隊を展開し、国境にフランスと世界の目を向けさせておいて、イタリア軍は海に輸送艦隊を展開し、装甲輸送車を回収していったのです」 #twnovels

2016-12-11 13:35:04
夢乃 @iamdreamers

「地上戦では一進一退を繰り返していた両軍でしたが、男性の拉致に成功したイタリア軍がその事実をフランスに示すと、フランス軍は一旦後退しました。これで戦争は終わると考えた人々もいましたが、寧ろ、それからが戦争の本番でした」 #twnovels

2016-12-11 13:35:16
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