男子凍結 第五部

第四部から十三~十四年ほどが経ちました。
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六十六

夢乃 @iamdreamers

「このとき、イタリアがフランスから拉致した男性の数は、五十八名と言われています。十年も準備期間をかけてこの人数は少ないように思えますが、それだけフランスも男性の管理には手をかけていたということであり、また、イタリアの男性不足が深刻だったということでもあります」 #twnovels

2016-12-17 19:02:04
夢乃 @iamdreamers

「とはいえ、この程度の数が増えても、イタリアの男性不足を解消するまでには到底至らず、同じようにスイスやオーストリア等、他の隣国からも同じ手段で男性の強制獲得に動きました。対フランスほどの成功は得られなかったようですが」 #twnovels

2016-12-17 19:02:30
夢乃 @iamdreamers

「このイタリアの動きを契機に、ヨーロッパ各国も近隣の他国から男性を獲得しようと動き出しました。イタリアほどでもなくても、男性の減少はヨーロッパ中、いえ、世界中の共通の問題でしたから」 #twnovels

2016-12-17 19:02:47
夢乃 @iamdreamers

「イタリア周辺からヨーロッパに広がった戦乱が世界中に拡大するまでに、それほど時間はかかりませんでした。この戦争がこれまでと違ったのは、その目的が男性の獲得、すなわち拉致誘拐だったことです。そのためだけに大規模な軍隊を動かすなど、前代未聞でした」 #twnovels

2016-12-17 19:03:04
夢乃 @iamdreamers

「前代未聞と言えば、そもそも国家がこれほど明け透けに大量の拉致誘拐を試みたこと事態がそれまでに有り得ないことでした。それまで、自国に利益をもたらす要人の誘拐などが国家により行われた例は皆無ではありませんでしたが、それまでは必ず秘密裏に行われてきました」 #twnovels

2016-12-17 19:03:19
夢乃 @iamdreamers

「世界中に広がった戦乱と混乱からは、日本にも及びました。アジアでは、特に中国とインドで男性の減少が顕著でした。中国は、国全体として見ればそれほど減っていたわけではないのですが、砂漠や草原の広がる西部に較べて、東部の都市部ではイタリア並みに減っていました」 #twnovels

2016-12-17 19:03:35
夢乃 @iamdreamers

「中国は、東部での男性不足を自国内ではなく、近くの隣国に求めたのです。中国の西部は男性を管理しておらず、その所在を把握することが困難でした。それとは逆に男性を国内各地の施設に集めて集中管理している近隣の国を標的にした方が、男性を獲得するのに効率的だったのです」 #twnovels

2016-12-17 19:04:14
夢乃 @iamdreamers

「その、男性を集めて管理している隣国というのが、日本だったのです。日本の各地が中国からの砲撃に曝されました」 「はい、先生」 「はい、なんでしょう」 「砲撃したりしたら、目的の男性まで死んでしまうと思うのですけれど、なんで中国はそんな暴挙に出たんでしょう?」 #twnovels

2016-12-17 19:04:30
夢乃 @iamdreamers

「いい質問ですね。砲撃を受けた日本の地点は、注意深く男性保護施設やその周辺を避けていました。あらかじめ日本に侵入していた中国の諜報員によって、その場所が把握されていたと考えられています。当時以前から、中国人は世界のどこでも珍しい存在ではありませんでしたから」 #twnovels

2016-12-17 19:04:51
夢乃 @iamdreamers

「それに、その砲撃は、日本に対する攻撃を目的としていたわけではなく、単なる陽動でした。つまり、一箇所ないし数箇所を派手に攻撃することで日本の目をそこに集めておいて、まったく別の地域で海岸から上陸させた別働隊による男性の拉致を試みたのです」 #twnovels

2016-12-17 19:05:19
夢乃 @iamdreamers

「幸いにも、世界情勢が不安になってからというもの、日本でも男性保護施設の防衛はどこも強化されていたので、その試みは不発に終わりました。けれども、世界中で行われたそうした試みの中には成功したものもありました」 #twnovels

2016-12-17 19:05:38
夢乃 @iamdreamers

「中には、強大な軍事力にモノを言わせて、小国から男性を無理矢理連れ出した軍事大国の例もありました。輸送中の男性を奪還しようと戦闘をしかけ、輸送部隊を守る護衛軍に逆に全滅させられる、ということも起きました。その過程で守るべき男性が亡くなることすらありました」 #twnovels

2016-12-17 19:05:55
夢乃 @iamdreamers

「そんな世界中が混乱に陥っている時期に、あの不幸な事件が起きたのです。その国は、自国の軍を持たず、国の防衛を他の軍事強国に頼っていましたが、その軍事強国から、男性の供出を求められたのです。求めたといっても、それはほとんど強制に近いものでした」 #twnovels

2016-12-17 19:06:14
夢乃 @iamdreamers

「何しろ、世界は混沌の最中でしたし、そのような中で軍隊を引き上げられては、それこそ別の国から攻撃を受けたときに男性を守る術もなくなってしまいますから。最初のうちこそ、少数の男性を仕方無しに提供していましたが、遂に自国の存続が危ぶまれるに至りました」 #twnovels

2016-12-17 19:06:31
夢乃 @iamdreamers

「そこで、その小国は、男性の供出を再び求められたとき、自国に残る男性を並べて相手国に迫ったのです。『もしもこれ以上、我が国の男性を連れ去るというのなら、我々は自らの手で彼らに死を与える』と」 #twnovels

2016-12-17 19:06:48
夢乃 @iamdreamers

「自国の防衛を担ってもらっているとはいえ、事実上の搾取に対して、自前の軍事力を持たない小国が採れる唯一にして最大の抵抗でした。男性を奪われるくらいなら自ら亡き者に、という刹那的な考え方でもありました」 #twnovels

2016-12-17 19:07:08
夢乃 @iamdreamers

「相手国はそれでも、本当に殺すつもりはないだろう、と強く出ていました。なにしろ、男性が貴重な存在であるのはその小国も同じでしたから。けれど、軍事力を背景に強硬な態度に出る外交官と軍人達の目の前で、銃声が轟き、並べられた男性の一人が倒れました」 #twnovels

2016-12-17 19:07:33
夢乃 @iamdreamers

「それが本当に行われるとは考えてもいなかった相手国は慌て、男性の供出要求を取り下げ、引き下がりました。これが、今にも語り伝えられる有名な“男性の盾”事件です。当然、そのような非人道的な手段を取った小国は世界中の非難を浴びました」 #twnovels

2016-12-17 19:07:50
夢乃 @iamdreamers

「ましてや、世界中で減少している男性を無為に、意図的に亡くしてしまったのです。非難を浴びたその小国の政府関係者はしかし、この件に関して何も声明を出すことはありませんでした。世界に混乱と動揺を与えたこの事件でしたが、同時に、世界大戦を収束に向かわせました」 #twnovels

2016-12-17 19:08:06
夢乃 @iamdreamers

「世界中に、『敵国に男性を奪われるくらいなら、自分達の手で・・・』という考えが広まったのです。戦闘を仕掛ける国にしても男性の獲得が目的なのですから、みすみす男性の命を失わしめてしまっては元も子もないのですから」 #twnovels

2016-12-17 19:08:24
夢乃 @iamdreamers

「イタリアから始まった、後に『第三次世界大戦』、通称『男子大戦』と呼ばれることになった、世界中を巻き込んだ大戦争は、こうして収束に向かいました。イタリアがフランスからの男性拉致に成功してから、およそ三ヶ月の後のことでした」 #twnovels

2016-12-17 19:09:00
夢乃 @iamdreamers

「それ以来、国と国との争い、戦争というものは起きていません。つまり、男子大戦は、国による大量誘拐を目的とした唯一の戦争であり、社会が女性だけになってから唯一の世界大戦であり、現在のところ、歴史上最後の戦争でもあるのです」 #twnovels

2016-12-17 19:09:17
夢乃 @iamdreamers

「けれど、実は、最初に行われた“男性の盾”事件では、男性の死者は出ませんでした」 「先生! どういうことですか? さっきの話では、少なくとも一人の男性が亡くなっているようですけれど」 「そう、人が亡くなったのは事実です。が、それは男性ではありませんでした」 #twnovels

2016-12-17 19:09:34
夢乃 @iamdreamers

「後に明かされたことですが、“男性の盾”として並べられたのは、髪を短く切って化粧で顔を男っぽく見せた、女性兵士だったのです。そうして他国はおろか、自国民をも欺いてまで男性を守ることが、その国にとっても必要だった、ということです」 #twnovels

2016-12-17 19:09:49
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