男子凍結 第五部

第四部から十三~十四年ほどが経ちました。
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六十七

夢乃 @iamdreamers

「それで、男子大戦の後に国際男性保全機構が組織されて、『国家間の男性移動を制限する国際条約』、通称、男性移動禁止条約が制定されたのよね」 その日の放課後、アユナは仲の良い友達数人に付き合って、自習室でその日の復習をしていた。 #twnovels

2017-01-01 11:54:03
夢乃 @iamdreamers

授業中に自分の手を使ってタッチペンでタブレットに要点を書いているアユナは、いつも授業内容のほとんどを憶えていたが、誘われたときにはいつも付き合っていた。それに、今日は知りたいことがあったから、一人でも来るつもりだった。 #twnovels

2017-01-01 11:54:38
夢乃 @iamdreamers

「だけど、こんなの隠れてやればわかんないよねぇ」 一人別のことを調べているアユナの耳にも、友達の会話が届く。 「だから罰則が厳しいんじゃないの。ほら、ここにあるでしょ。『男性を、仮令一時的にでも他国に移動したら、当該国の男性最大半数をIMCOが接収する』って」 #twnovels

2017-01-01 11:54:54
夢乃 @iamdreamers

「IMCOって何だっけ?」 尋ねた友人の頭が小突かれる。 「おバカ。授業でもでてきたし、ここにもあるでしょうが。International Male Conservation Organization。国際男性保全機構の略、って」 #twnovels

2017-01-01 11:55:12
夢乃 @iamdreamers

「あ、そうか」 「まったく。これで寄那濱国大付属を目指そうって言うんだから、呆れるしかないよ」 「にゃはは、ほら、あたしって理系脳だからさ、暗記は苦手なんだって」 「だからって、これくらい憶えてないと、確実に落ちるよ、まったく」 #twnovels

2017-01-01 11:55:28
夢乃 @iamdreamers

「受験までまだあるし、なんとかするって。でもさ、これって本当に守られてるっていうか、機能しているのかな」 「なんでよ。IMCOって言ったら、元は国連の一機構に過ぎなかったのが、今じゃ世界でも最大の力を持っている組織よ。機能してないわけないじゃん」 #twnovels

2017-01-01 11:55:42
夢乃 @iamdreamers

「だってさー、この間ニュースでやってたじゃない。日本から、十人だっけ、男性をフランスに送ったって話」 それはほんの二十日ほど前のことだった。男性の減少が著しいフランスに、日本から十人の男性が送り込まれた。その様子は日本中に大きく報じられた。 #twnovels

2017-01-01 11:56:03
夢乃 @iamdreamers

いや、日本中でなく、世界中だろう。十人というまとまった数の男性が国境を越えて移動することなど、ここ数十年なかったのだから。 「それは、男性移動禁止法のこっち。『両国間及びIMCOの合意無しの』男性の移動を禁止しているわけ」 #twnovels

2017-01-01 11:56:18
夢乃 @iamdreamers

「ああ、そっか。日本とフランスの間で男性の提供契約が結ばれて、IMCOがそれを承認したから移動が成立したんだっけ」 「なんだ、憶えているんじゃないの」 「えへへ、これくらいはね」 「ついでに言えば、当事国間の契約よりもIMCOの議決の方が優先されるのよ」 #twnovels

2017-01-01 11:57:17
夢乃 @iamdreamers

「この間の例で言えば、日本とフランスで合意してもIMCOが駄目って言えば、男性をフランスに送ることはできなかったってことね。まぁ、それはそうよね。そうじゃなけりゃ男性移動禁止条約なんて無意味になるもんね」 「そう言うこと」 #twnovels

2017-01-01 11:57:35
夢乃 @iamdreamers

一区切りついたらしい友達は、今度はアユナに声をかけてきた。 「アユナ、さっきから一人で何調べてるの?」 「ん? ん~、先生が言ってた、教科書に載ってなかったこと。あれって本当かな、って気になったから」 友達は顔を見合わせた。 #twnovels

2017-01-01 11:57:51
夢乃 @iamdreamers

「教科書に載ってなかったことって、何か言ってたっけ?」 「言ってたじゃない。これ」 アユナはタブレットを操作して、学内ネットワークからサーバストレージにアクセス、今日の授業の録画映像を呼び出した。教師が話していた、男子大戦の最後のくだりを表示した。 #twnovels

2017-01-01 11:58:04
夢乃 @iamdreamers

友達はその画面を覗き込む。 「んーと、ここのどの話が教科書に載ってなかったっけ?」 「おバカ」 少し前の状況が再現された。 「これのことでしょ? “男性の盾”が、実は女性だったってとこ」 友達は、そうでしょ?、という目をアユナに向けた。 #twnovels

2017-01-01 11:58:25
夢乃 @iamdreamers

「うん、それ。確かに、男性を盾に使うなんてこと、当時の男性の数を考えたらやるわけがないから、女を男性に仕立て上げて盾にした、って言う方がしっくりくるのは確かなんだけどね。本当かな、って思って」 「ふうん。それで、どうだったの?」 #twnovels

2017-01-01 11:58:40
夢乃 @iamdreamers

アユナは別の画面を出した。それは学内ネットワークではなく、民営ネットワークストレージの、過去のニュースアーカイブの映像だった。 「ふうん、これね。八年前に公開されたのか。見た憶えはないから、あんまり大きくは取り上げられなかったのかな」 #twnovels

2017-01-01 11:58:58
夢乃 @iamdreamers

「ってか、八年前でしょ? 八年前ったら、あたしたちまだ小一よ? そんな頃から、ニュースなんて見てた?」 「うーん、そう言われると・・・見てなかったな」 「でしょ? 中には見てた子もいるかもしれないけどさ」 その脳裏には、クラスの誰かの顔が浮かんでいるらしい。 #twnovels

2017-01-01 12:00:01
夢乃 @iamdreamers

それは、表情から読み取れた。アユナにもそれが誰か判った。ひとしきり、彼女たちは声を潜めて笑った。 「でもさ」笑いが治まると、友達がアユナに聞いてきた。「アユナ、なんでそんなこと気にするわけ? 入試にも多分出ないよ? そんなこと」 #twnovels

2017-01-01 12:00:18
夢乃 @iamdreamers

アユナは少し考えてから答えた。 「だってさ、気にならない? 教科書に載ってることと先生の言ってることが同じならいいんだけど、それが違ってたら、どっちが正しいのかな、って。違っているっていうか、教科書にないことを先生が言ってたら、だけど」 #twnovels

2017-01-01 12:00:32
夢乃 @iamdreamers

「うーん、まぁ、気になることはなるけど、場合によるかな。これは、最近になって判ったことがまだ教科書に載ってないだけって思って、気になるってほどじゃなかったけど」 「あたしは全然。あー、でも数学とか物理で先生が変なこと言ってたら気になるけど」 #twnovels

2017-01-01 12:00:46
夢乃 @iamdreamers

「あんた、そういうときは積極的に突っ込むもんね。小学校のときから、よく先生と言い争ってたよね」 「だってさー、論理的におかしいこと言ってたら、そりゃ突っ込みたくもなるわよ。昔は『論理的』なんて言葉は知らなかったけどさ」 #twnovels

2017-01-01 12:01:01
夢乃 @iamdreamers

それはアユナも知っていた。当時のことを思い出して、またひとしきり、笑いが起きる。 「だけど、アユナがそういうのを調べるのって、偏ってないかな?」 「そう? そんなことないと思うけど。こないだのは生物だったし」 「そうじゃなくてさ」 #twnovels

2017-01-01 12:01:17
夢乃 @iamdreamers

友達はアユナの目を探るように見て続けた。 「教科じゃなくて、アユナがその手のことを調べるときって、いっつも男性関係な気がするのよね」 「あー、それあたしも思った。もしかして、アユナ、男に興味津々で、十八になるまで待てないとか?」 #twnovels

2017-01-01 12:01:38
夢乃 @iamdreamers

「そんなんじゃないわよ」 ニヤニヤ笑う友達の追求を、アユナは適当にあしらった。実際、アユナの気にしているのは教師の言と教科書の相違ではなく『男性』だったから。適当な言葉を返しながら、アユナは、もう一つの“口”からも男性のことを引き出すことを考えていた。 #twnovels

2017-01-01 12:01:52
夢乃 @iamdreamers

これまでにも、それとなく、あるいはもっと直接的に、その“口”を割らせようと試みていたが、成果は芳しくなかった。もっと強硬な手段を用いるべきかもしれない。その準備も、この数ヶ月で整えつつあった。 #twnovels

2017-01-01 12:02:05
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