男子凍結 第五部

第四部から十三~十四年ほどが経ちました。
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七十七

夢乃 @iamdreamers

携帯端末の着信表示を見て、アユナは不審に思った。表示されている名前は冬波菜ミユキ。アユナがミユキに脅迫まがいの“お願い”をしてから、まだひと月ほどしか経っていない。あのことが決まるにしては早すぎるのではないだろうか。 #twnovels

2017-04-28 18:16:32
夢乃 @iamdreamers

それとも、ミユキが上手く立ち回って、早くも手筈が整ったのだろうか。不審に思いながらも、アユナは音声通話モードで応答した。 「もしもし。私。先生、何かあった?」 「アユナちゃんね。ね、アユナちゃん、高校はもう決めたの?」 #twnovels

2017-04-28 18:17:59
夢乃 @iamdreamers

挨拶もせずにいきなり話を始めるのは、ミユキらしいといえばらしい。けれど、突然何の話だろう? 「はい、決めましたけれど。県内の普通科高校に」 「それじゃ、大学まで行くのね」 「はい、そのつもりです」 「大学はどんな方面に進むつもり?」 #twnovels

2017-04-28 18:18:30
夢乃 @iamdreamers

「え、そこまではまだ決めていませんけれど」 何の話をしたいのだろう。私の進路とあのことが、何か関係あるんだろうか? 「そうなの、生物学を学びたいのね。私もそれがいいと思うな」 はい? 先生、いったい何を言っているの? 「あの、先生、聞いています?」 #twnovels

2017-04-28 18:18:46
夢乃 @iamdreamers

「うん、聞いてる。アユナちゃんは大学で生物学とか生理学とか、そういう方面に進みたいんでしょう? 人間の身体、特に男の身体に興味があるって言っていたものね。男性減少現象の解明をしたいって」 いやいやいや、そんなことを言った覚えはない。 #twnovels

2017-04-28 18:19:12
夢乃 @iamdreamers

「先生、ちょっと、私の言ってること本当に聞いてます?」 「うん、聞いてる。それじゃ、私の研究にも少し関係するし、そのうち私のライバルになるのかしら。あ、アユナちゃんが大学卒業する頃には私はもう定年退職してるか」 「ちょっと、先生」 #twnovels

2017-04-28 18:19:50
夢乃 @iamdreamers

「それじゃ、そういうことで」 通話は一方的に切られた。今のは何だったんだ。アユナは暫く、手に持った携帯端末を見つめたまま動かなかった。それを仕舞ってから、今の一幕について考える。 ミユキは、いきなり突飛な行動に出ることはあるが、意味のないことはまずしない。 #twnovels

2017-04-28 18:20:28
夢乃 @iamdreamers

それは、これまでの長い付き合いでアユナも解っている。ということは、今の通話にも意味があるはず。けれど、それがミユキの仕事、研究に関わることだとは思えない。アユナの、ミユキの研究への関わりは、二ヶ月に一度の身体検査だけだ。 #twnovels

2017-04-28 18:20:42
夢乃 @iamdreamers

アユナの進路が検査に何かしらの影響を与えるとは考えにくい。ということは、今の通話はやはり、あれに関することのはず。 (そっか、そういうことか。先生も苦労しているってことかな) 少し考えたアユナは答えを見つけた。今は、ミユキの言う通りにしておこう。 #twnovels

2017-04-28 18:21:00
夢乃 @iamdreamers

何なら、そのまま生物学や生理学の分野に本当に進んでもいいし。他人に人生を決められるようでそこはちょっと癪だけど、どうせいつかは決めなければならない。双子の妹、弟か、とはいえ“男”に興味を持ったことは事実でもあるし、案外良い選択なのかもしれない。 #twnovels

2017-04-28 18:21:37

夢乃 @iamdreamers

「あれから連絡ありませんけれど、あれは進んでいるんですか?」 検査が終わって服を着る前にアユナはミユキに聞いた。 「うん、多分大丈夫だと思う」 ミユキは今の検査結果をタブレットで確認しながら答えた。本当に聞いているんだろうか? #twnovels

2017-04-28 18:22:07
夢乃 @iamdreamers

いぶかんだアユナは裸のまま後ろからミユキに抱きついた。右手でミユキの顎を撫で、左手は胸に当てて耳元で囁くように言う。 「ね~え、先生、また気持ちよくなりた~い?」 ミユキはビクッと身体を震わせた。 「だ、大丈夫。きちんと進めてるから」 #twnovels

2017-04-28 18:22:23
夢乃 @iamdreamers

「本当? 嘘じゃないわよね? もしも嘘だったら、この前よりもも~っと気持ちよくしてあげるよ?」 「う、嘘じゃないわよ。ただ、時間はかかるわよ。いろいろと根回しが必要だし」 「本当にやってるんでしょうねぇ。先生、根回しなんてできるの?」 #twnovels

2017-04-28 18:22:42
夢乃 @iamdreamers

「私はそういうの苦手だから、別の人に頼んでる・・・」 「ふうん、その人も先生の企てに引き込んだんだ?」 「そんなことできない・・・固い人だし。だから、理由をでっち上げて施設との交渉を進めてもらってる・・・」 「ふうん・・・」 #twnovels

2017-04-28 18:23:13
夢乃 @iamdreamers

アユナはミユキの肩に顎を乗せるようにして、ミユキの目を見た。ミユキも、横を向いてアユナを見返す。 「うん、本当みたいね。この前も言ったけど、上手くいかなかったら、私、先生に何をしちゃうか判らないから。先生、気持ちよすぎてどうにかなっちゃうかもよ」 #twnovels

2017-04-28 18:23:33
夢乃 @iamdreamers

「ひゃ」 アユナはミユキの頬をペロリと嘗めてから、身体を離した。ミユキは、取り落としそうになったタブレットをしっかりと抱え、アユナから距離を取った。とは言っても狭い診察室のこと、アユナがその気になればミユキには逃げ場はないだろうが。 #twnovels

2017-04-28 18:23:50
夢乃 @iamdreamers

「せーんせ、そんなに怖がらなくたって大丈夫だって。今日だって大人しく検査受けてたでしょ? その気になったら私が先生をどうにかするより、先生が私に何かする方がずーっと簡単なんだから」 服を身に着けながら、楽しそうに言うアユナ。 #twnovels

2017-04-28 18:24:10
夢乃 @iamdreamers

アユナの言うことは論理的には正しい。筈だ。この診察室はミユキのテリトリーなのだから。けれど、ミユキはその言葉を素直に受け取れなかった。自分が何をしようと、この、まだ中学生の娘には敵わない気がする。事実、二ヶ月前の診察の時にはあんなことをされてしまったのだから。 #twnovels

2017-04-28 18:24:29
夢乃 @iamdreamers

無防備に背中を向けて服を身に着けるアユナを見ながら、ミユキは諦めていた。ミユキは、この娘に弱味を握られてしまっているのだから。というより、今では、この娘の存在自体がミユキの弱味になっているのだから。けれど、今更この娘を手放すことはできない。 #twnovels

2017-04-28 18:24:45
夢乃 @iamdreamers

もはや、アユナの身体を調べ続けることがミユキのライフワークの一つになってしまっているのだから。そんなことを考えている間に、アユナは着替えを終えてミユキに向き直った。 「先生、何してるの? 今日は送ってくれるんでしょ?」 #twnovels

2017-04-28 18:24:58
夢乃 @iamdreamers

まったく邪気のない笑顔を向けてくるアユナ。ミユキはまた、身を震わせた。その笑みは、ミユキにとっては悪魔の微笑みだった。 「ええ、そのつもりよ」 内心の動揺を隠して、ミユキは言った。ただ、そんな努力は無駄だったかもしれない。当の悪魔を前にしては。 #twnovels

2017-04-28 18:25:13
夢乃 @iamdreamers

「それよりアユナちゃん、高校受験はどうなの? 浪人なんてことにはならないわよね?」 話を逸らそうと、ミユキは話題を変えた。尤も、これも計画の一旦ではあったのだが。 「うん、よっぽどのことが無い限り問題ないよ。これでも成績いいんだから」 #twnovels

2017-04-28 18:25:29
夢乃 @iamdreamers

「それなら大丈夫ね。あなたの準備ができないと延期になっちゃうから」 「・・・どういうこと?」 「心配しなくてもいいわよ。合格するならなんの問題もないから」 アユナは訝しげにミユキを見たが、気にしないことにした。望みが叶うなら、過程はどうでもいい。弟に会えれば。 #twnovels

2017-04-28 18:26:44
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